第61話:回復術師は向かう
「えっ……? なんかちょっと遠くですごい音が聞こえましたけど……なんなんでしょう? 噴火でしょうか?」
「いや……」
俺は、すぐさま『探知』で爆発音のした方の魔力を探っていた。
その結果、今まで経験したことのない強大な魔力を観測することができていた。
これほどの魔力の正体……ちょうどさっきヘルミーナから聞いていた話とちょうどつながる。まさか……な。
違うと言って欲しい——その一心でヘルミーナの顔をチラッと除いた。
「早い……早すぎるわ。まだ、準備が整っていないのに……」
「な、なあヘルミーナ」
「……っ!」
「あれが、そうなのか?」
「ええ、間違いないわ。数千年前——神話の時代に滅ぼされたと言われていた魔王。でも根源まで滅ぼすことはできなかった。根源は長い時を経て修復され、復活する。……現実のものになったわ」
「そうか、ならもう行くしかないな」
「無謀よ。本来なら、あとほんの数日で有力冒険者が集結して万全の体制で迎え撃つことができた。ユージの力は認めているわ。でも、たった一人で人間がアレと戦おうなんて——って、話聞いてる!?」
ヘルミーナが何か一人でブツブツと言っている間に、俺はリーナ、リリア、シロを交えて作戦会議を進めていた。
「聞いてねーよ、そんな辛気臭い話。もう現実を受け止めるっきゃない。こうなった以上、今できることをやるしかないだろ?」
「それは……そう」
「方針は固まった。魔王とやらがどんな敵なのか分からないから、作戦自体は適宜調整していくこととするが、俺が主力で戦い、リーナには補助魔法と敵のデバフに専念してもらう。リリアには俺が指示したタイミングで魔弾を撃ってもらう。シロは俺と一緒に主力で戦うか、移動に専念してもらいたい。これが今できる最善手だ」
ヘルミーナは、口をぽかんと開けて聞き入っていた。
「こんな時でも、あんたは冷静なのね。じゃあ私は——」
「ヘルミーナは戦わなくていい。戦闘中の
「でも——」
「でもじゃない。もしかしたらアンタは上からの指示で一緒に戦えと言われているのかもしれないが、初めて組んだパーティで上手く連携が取れるほど簡単じゃないんだよ。それに、ヘルミーナは特殊な役職とはいえ、騎士団員なんだろ? 村人——いや国民の生存確率を上げる方向で動くのは何らおかしいことじゃないだろ!」
俺もなるべく冷静になろうとはしているのだが、状況が状況だけに焦ってしまう。
もっと、トゲのない言い回しをするべきなんだろうと思う。
……俺もまだまだだな。
しかしこんな言い方でもヘルミーナは理解してくれたらしく、
「わかったわ。魔王との戦闘はあなたたちに任せる。私は誘導に専念するわ」
「ぼ、僕も誘導します! ヘルミーナさん、指示をください。まだ正式に騎士団員にはなっていませんが、僕がやるべきことだと思います!」
「……なかなか見どころあるじゃない、ラック。ついてきて、もう時間がない。走りながら伝える。一回しか言わないからちゃんと聞くのよ」
「は、はい——!」
こうして、ヘルミーナとラックの二人は大急ぎで繰り出していった。
「さて、こっちも始めるぞ。シロ、悪いが背中に乗せてくれるか? 爆発音のした方まで運んで欲しいんだが」
「分かったー、大きくなるねー」
「助かるよ」
本来の巨大な姿になったシロは、俺とリーナ、リリアを軽々と乗せて全力で走ってくれた。
俺がどれだけ全力で走っても敵わないスピードである。
どうやら、爆発音が聞こえたのは山の麓。
一部分だけ爆風で木々が吹き飛ばされたのか、ハゲ山になってしまっている。
その上空を、魔王らしき黒い人型の魔物が浮かんでいた。頭には気持ち悪い歪な形をした王冠を被っている。
ジッと村を眺めていた。
やるなら、俺たちの姿に気づいていない今が勝負か——
「俺はここで一旦降りる。シロはもう少し離れた場所まで二人を連れて行ってくれ。二人は、様子を見ながら動いてくれ。魔王を攻撃するというよりも、俺の補助に徹して欲しい」
「わかりました! 強化魔法はさっきかけたばかりなので……大丈夫そうですね」
「ああ、二人とも……それとシロも、気をつけてな」
そう言って、俺はシロの背中から飛び降りた。
そして、強大な魔力の正体——魔王に向かって、腕を突き出した。
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