第63話:回復術師は終える

 あの後、魔王の遺体を念のためアイテムボックスに入れて回収し、村へ帰還した。

 避難者でごった返し、とんでもないパニックになってしまっていた。


 見つけたギルド職員に魔王を倒したと説明すると、始めは動揺から信じてくれなかったが、持ち帰った遺体を見せると納得してもらえた。

 その後はもうとんでもない騒ぎになった。


 魔王が現れたという話よりも、魔王が倒されたという話の方が混乱を招いてしまったかもしれない——


 俺たちのことで話題が持ちきりになってしまっている関係で、どこに行っても注目の的……。

 宿の部屋に戻っていた。


 戻った途端に疲れがドッと出たのか、シロはすぐにスースーと寝息を立てて眠ってしまった。


「微かな期待はあったけれど、まさか本当にやってしまうとは……今でも信じられないわ」


 ヘルミーナも同様に、倒したと報告してもすぐには理解できないようだった。

 神話時代の魔王討伐は何千という有力冒険者の軍勢が血を流した結果の勝利だった——という話を何度も聞かされた。


 いくら復活してすぐの魔王とはいえ、たったの三人で倒してしまうということは常軌を逸しているのだとか。


「まあでも、村にも人にも被害が出なくて良かったじゃないか」


「ええ、そうね。本当に、この国のためにありがとう」


 ま、国とか大きな括りでは考えていなかったのだが、ヘルミーナの立場だとそういう言葉になるか——


「どういたしまして」


「それと、今後のことだけど……もう私にもどうなるかわからないわ。たった三人での魔王討伐がどんな風に評価されるのか——。途方もない金額の報酬が出ることは間違いないだろうけど……」


「ま、でもお金をいくらもらっても使いきれんしなぁ。いくらなんでも限度ってものがあるだろ? 報酬とかはその辺もちょっと考えてくれると助かるよ」


「お金以外……ね。伝えてはみるけど……どうなるのかしら」


「そこはお任せってことで。あ、それじゃあ一回ヘルミーナは王都に戻る感じなのか?」


「いえ、私は伝言を伝えて、連絡待ちになるわね。王が決定次第、ユージたちに伝えるわ」


「了解。となるとヘルミーナとはもう少しだけ付き合いが続くわけだ」


「そうなるわね。その言い方だと、私にずっといてほしいように聞こえるけれど……そうなの?」


 ヘルミーナが珍しく頬をほのかに朱色に染めていた。

 熱かな?


「いや? ちょっと気になっただけだ」


「そう……まあ、そうよね」


 なぜかがっかりしたように肩を落とすと、いつもの調子に戻った。


「じゃあ、とりあえずこの辺で。連絡待ってるよ」


「ええ、期待しておいて」


 ヘルミーナは言い残すと、部屋を出て行った。


「二人とも、お疲れさん。それにしても、まさか結成数日でこんなことに巻き込まれるとはな……。ま、これ以上のことは起こらないと思うが、改めて……今後もよろしくな」


「ええ、こちらこそ。それにしてもみんな無事で良かったわ。魔王はもういないし、ある意味安心よね」


「そういうこと言っているとあの魔王より強いのとか出てきちゃいそうですね!」


「リ、リーナ……不吉なこと言わないでくれ……」


「あ、すみません……! でも、可能性としてはありますよね!」


「ま、確かに可能性としてはな……」


 正直そんなこと考えたくもないのだが。


「でも、今回を乗り越えられたなら、今後どんなことがあってもなんとかなる……気がするわ」


「あっ、それ私も思っていました!」


「俺も不思議とそんな気がしてるよ。俺だけじゃなかったんだな」


 最初に高いハードルを超えたから、これより高いハードルも乗り越えられるというのは早計だし、論理的におかしいはずなのだが、そんな気がしてしまう。


「私、ユージとリリアのことが好きです」


「私も、ユージとリーナが好きよ」


「俺だって、二人とも大好きだ」


「「あわわわわ……」」


「え!?」


 二人が言ったことと同じことを言ったはずなのに、なんで二人とも俺が言った時だけ反応が違うんだろう?

 不思議だなぁ……?


 まあ、何はともあれこれにて一件落着だ。

 俺が『デスフラッグ』を追放されてからというもの、目まぐるしく状況が変化していった。

 これからもいろいろなことがあるんだろうし、仲間が増えることだってあるだろう。


 パーティ結成の目的——というほどの高尚なものでもないが、今後『劣等紋』の認識を改めていきたいと思っている。

 『レジェンド』はこの村で既に評価されているし、これからもしかすると王国中に名が知れ渡るのかもしれない。


 しかし、肌感ではあるが『レジェンド』のパーティメンバーが皆劣等紋であることは知らない者も多いはずだ。


 俺たち自身が活躍することで象徴になるということ自体はこれからも続ける……というか、勝手に目立ってしまうだろう。だが、それ以外にも何か良いアイデアを考える必要があるかもしれない——

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