第29話:回復術師は蹴散らす

 ◇


 先へ先へと進んでいくと、魔物と遭遇することがあった。

 どこかのバカな冒険者が先行しているようだが、一度倒されても普通の魔物と同じく再出現(リポップ)するので、俺たちが通る頃にはもう一度倒さなければならないということになってしまっている。


 魔物の種類はサンヴィル森林に生息するものと同じくシルバーラビットやアースウルフなど代わり映えしない。

 例外があるとすれば——


「わっ、ユージまたコウモリです!」


「大丈夫、後ろに隠れていてくれ」


 洞窟ということからか、頻繁にコウモリが出現する。

 それも、一匹ではなく数十匹単位で大量に出てくるから困りものだ。


 個体としての攻撃力は大したことがないのでほぼダメージにはならない。なので時間をかければ簡単に殲滅できるのだが、とにかく面倒臭い。


 最初の頃は手を焼いたが、もう手慣れたものだ。


 風魔法で強力な電撃を発生させ、右手から繰り出す——


「くらえ!」


 一度目の戦闘の途中に思いついた攻撃魔法なので、名前はまだ定まっていない。そうだな、『深黄の雷撃インフェクション・スパーク』とでもしておこうか。


 俺が放った攻撃が一匹目のコウモリに直撃し、パン! と大きな音を出したかと思うと、一瞬で黒こげに。

 しかし、電撃の真骨頂はここからだ。


 まとまって飛行するコウモリに電撃が次々伝播していき、消炭となって落下する——

 一度の攻撃で全て撃沈することができた。


 これが回復術師の技かと言われてしまいそうだが、それは今に始まったことではない。


「何度見てもすごいです……! あの数のコウモリが一瞬で……なんか気持ち良くなりますね」


「確かに、まとまってくれてるから下手にウサギとかウルフが出てくるより楽チンだな」


「ユージはコウモリ以外も一瞬で倒してますけどね!」


「まあ、それはそれということで」


 こうして褒められると嬉しいが、いい気になって無茶なことをしないようにだけは気をつけている。

 俺だけの命ならまだしも、リーナの命まで預かってるんだからな。


 最速で倒すのも、面倒だからというのはあるが、一番の理由はリーナに被害が出ないようにするためだ。

 出発前に俺が言ったことは冗談ではない。リーナには指一本触れさせない——というのは言葉通りの意味だ。


「ん——何か声が聞こえるな」


 ほとんど歩みを止めることなく進んで来たので時間はそれほど経過していないが、かなり洞窟の奥まで来たと思う。

 そろそろここのボスのお出ましか、それとも——


「あ、本当です! 人の声が……ちょっと何人かわからないですけど」


「『探知』で調べれば人数はすぐにわかるが、それよりも会話の内容が重要だな。ちょっと聞いてみるか」


 いったいどんな頭をしていれば立入禁止区域に無断侵入するのか、純粋に気になる部分でもあった。

 壁に耳を当てて、声に注目する。


「ターゲットは眠っているぞ! 大チャンスだ。出発前に考えていたプランは全部破棄する。袋叩きにして速攻で息の根を止めてやる。いいな?」


「ゼネストの兄貴、トドメは俺が刺していいですか——?」


「好きにしろ。お前の番が回ってくる前に死んでなきゃいいけどな」


「ウェーイ」


 ……………………。


 適切な言葉が出てこなかった。


 そうか、あいつらはそういうやつだったよな……。


「どんな人たちでしたか……?」


 ため息をつく俺の目の前にリーナの顔がにゅっと現れた。


「まあ、想像通りというか、逆にあいつら以外誰がいるのかというか……」


「知っている方だったのですか!?」


「うん、まあ……な。よく知ってる」


「激しい音とかは聞こえませんし、今止めたら間に合うかもしれませんね。ユージ、急ぎましょう!」


「いや……もう止めなくていいんじゃないかな」


「何言ってるんですか! 知り合いなんですよね!?」


「うん、まあそうだけど。俺にとってはあいつらは特別だからさ」


 ——悪い意味で。


「なおさら急ぐべきじゃないですか! どういう事情があるかわかりませんけど、後悔しても遅いですよ!」


「俺が止めたところであいつらが留まるとは思えないけどな。……ここまで来て。でも、確かに警告くらいはしてやるべきかもな」


「そうですよ! 変な話、貸しにできればユージにとってもプラスだと思います」


「よし、じゃあ急いで向かおう」


 俺はリーナに説得される形で、俺を追放した元パーティメンバーたちの方へ走った。

 これほどまでにモチベーションが上がらない急ぎの用事というのも初めてだ。


 さて、あいつらどんな反応を見せるだろうか。

 滑稽な言動だけはしないでほしいところだが。

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