第28話:回復術師は洞窟に入る

 依頼書に記された場所へ向かった。

 サンヴィル森林の中に洞窟があるとの話だ。


 入り口は小さいが、洞窟の中はおそらく大規模なものになっているだろうとのこと。


「ここか」


 洞窟の近くには大型の魔獣と思われる足跡が残っていたので、すぐに見つかった。

 入り口は小さいと言っても人が一人余裕で入れるほどの大きさではある。


「でもユージ、立ち入り禁止の看板がないみたいです。本当にここでしょうか?」


 間違って村人が入らないよう、ギルドの名前を出した上で『立入禁止』と書かれた立て看板が目立つ位置に設置されていると聞いた。


 ギルドが立入禁止した場所への無断侵入には厳しい罰則がある。

 冒険者や村人を守るための措置とのことらしい。


 ギルドマスターが直接立てたとのことなので、間違いであるはずはないのだが、確かに近くに立っている様子はない。


「もしかして場所を間違えたのか……いや、もしかしてアレか?」


 目線を地面の方へ落とすと、少し離れた場所にぐにゃっと曲がった立て看板が風に吹かれていた。

 まるで人が意図的に立て看板を蹴り落としたかのような曲がり方だが、ギルドの看板を壊すと『公文書毀棄罪』に問われ、重い罪が着せられる。


 おそらく看板が立っていたであろう若干土が盛り上がっている部分を見るに、フェンリルの通行を妨害するような場所じゃないし、そもそもフェンリルが壊したにしては妙に攻撃力が低いということが気になるのだが……。


 まあ、誰でも知ってる常識なので、わざわざ破るバカなどいるはずがない。他の魔物の仕業って可能性もあるしな。


「多分それですね! でも、なんか変な折れ方ですよ……曲げた後にわざわざ抜いて捨てたみたいな」


「俺もそれは思った。まあ、魔物か何かの仕業だと思うぞ」


「だといいんですけどね……」


「看板のことは後でギルドに報告するということで、そろそろ行こうか」


「分かりました! その前に強化魔法をかけておきますね!」


「頼む」


 ということで、気にすることなく俺たちは洞窟の中へ入った。

 洞窟の中は真っ暗なので、火魔法で照明用の光源を発生させ、俺の肩の上あたりで浮遊させた。


 見た目はなんの変哲もない普通の洞窟という感じ。

 中は人が三人並んで通れるほどの広さがある。壁は硬質なようで、触ってもポロポロと砂になることはない。

 これほどの硬い壁を掘って大規模な洞窟にしてしまえるのは並の魔物ではできないだろう。


 フェンリル説が一気に濃厚になったな……。


 と、そんなことを思っているとリーナが火の玉状の光源を見て驚いていた。


「ユージすごいですね……光源魔法も使えるんですか!」


「まあな。簡単な魔法だけど、前のパーティでは回復術士兼サポート役兼荷物持ちみたいな感じだったからな」


「いやいや、なかなか使える人いないですよ。魔道具があるから光源魔法はいらないって意見もありますけど、結構高いですし、荷物になります」


「そんなもんなのか。意外だな」


「つくづくどうしてユージを追い出したのか疑問です……」


 適度に会話を続けることで緊張を緩和しながら洞窟の先へ進んでいく。

 すると——奇妙な物が壁に刺さっていた。


「矢……?」


「矢ですね。鋼鉄製ですし……サンヴィル村で普通に売っている物と同じだと思います。どうしてこんなところに……」


「方向としてはもうちょっと先に進んだとこからこっちに向けて撃って流れてきたって感じだな」


「もしかして、中に誰かいるんでしょうか?」


「考えたくはなかったが——その可能性が濃厚だな。流れ弾に当たると厄介だし、前面にバリアを展開しながら進むとしようか」


「そんなことできるんですか!?」


「まあな。そんなに珍しかったのか?」


 あれ? サポート役なら普通のことだと思ってたんだが、そうじゃなかったんだろうか。

 少しでも劣等紋であることをカバーしようと色々なことができるように工夫していた過程で身につけたスキルの一つだったのだが——


「バリアの魔法自体は使える人はいますが、回復術士で使える人はほとんどいません。ましてや移動しながら常にバリアを張り続けるなんて、それこそギルドマスターのクラインさんくらいしか……」


「へ、へえ……勉強になるよ」


「失礼を承知で言うんですけど、もしかしてユージって常識がちょっとあれなのでは……」


 確かに、言われてみると冒険者になって初めてのパーティがちょっとあれだったので、一般的な冒険者としての常識には疎いのかもしれない。


「……かもな」


「良い方向に常識外れなので全然いいんですけどね。そういうユージも大好きです!」


「またまたそんな、そういうこと言われると照れちゃうだろ?」


 だんだんと頼れる友達くらいにはなってきたということだろうか?


「照れていいんですよ! もっと素直になってくれると私は嬉しいです」


「え、そうなの……? じゃあ俺も大好きだ!」


「な、な、なんてこと言うんですか!? だ、大好きなんて……」


 なぜか顔を真っ赤にして顔を隠すリーナ。

 どうしちゃったんだろう?


「なんか……ごめんな?」


「謝らなくていいです! 謝らなくていいですから!!」

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