第27話:Sランクパーティ、悪だくみする
「じゃあ今すぐ出発しよう——と言いたいところだが……」
「何か問題があるのでしょうか?」
「いや、念には念をと思ってな。ギルドマスター、ガーゴイルの報酬を先に受け取るということはできませんか?」
「もちろん構わんが、何か要り用か?」
「お恥ずかしながら、ほとんどポーション類を持っていないので、出発前に買い足しておこうかと」
もし……万が一強敵と戦うハメになった場合、ポーションが大きな助けになる。
というか、ポーションを持たずに冒険に出る冒険者などほとんどいないので、今までがちょっと異常だったくらいだ。
「なんだ、そんなことか。報酬については既に用意してある。そこの箱を開けてみろ」
「これですか?」
部屋の端の棚に置かれていた黒い箱をリーナが開けると——
「わ、わ、わ……金貨がいっぱいです。こんなにいっぱい……初めてみました!」
「きっかり1500枚入っているはずだ」
「ありがとうございます。急いでもらえて助かりました」
クラインに深々とお辞儀する。
しかし、クラインは「ただ——」と続ける。
「それはガーゴイルの報酬だ。今回俺が依頼した依頼については、ポーションを支給しよう。ギルドに備蓄している分があるから、それを持っていってくれ」
「え、いいんですか!?」
本来、冒険者が冒険で使用するアイテムが支給されることはほとんどない。
例外はないこともないが、よほど誰もが受けたくない依頼以外は冒険者に有利な条件に引き上げられることはないのだ。
「なにか勘違いしているようだが——この俺が直々にお願いしているのだ。引き受けてもらったからには相応の環境を整えるのは当然のことだろう? この件を任せられるのは『レジェンド』しかいないのだからな」
「ありがとうございます。良い報告ができるよう全力で頑張ります」
俺が思っていたよりもかなり期待されているようだ。
プレッシャーではあるが、きちんと応えられれば俺たちの目的に一歩近づく。
必ず成功させよう。
「それから、報酬についてなんだが地方ギルドで支給できる限界が金貨2000枚でな。かなり低いと思うんだが、フェンリルだと確定すれば王国と交渉して引き上げられるはずだ」
「2000枚でも十分俺たちにとっては高額ですよ。……でも、ありがとうございます」
それから三十分後、細かい依頼の契約やらポーションの受け取りを済ませて、俺たちは出発した——
◇
ユージたちがギルドを出る数時間前。
ゼネスト率いるSランクパーティは、大いに盛り上がっていた。
「俺たちがフェンリルをぶっ殺して成り上がってやるぞ!!」
「「「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」」」
実は、村人がフェンリルの情報について話したのはギルドに対してだけではない。
友人・知人・家族などに「ここだけの話……」と前置きすることで、いつしか村中に噂として広まっていた。
ギルドが大事にしていないのだから何かの見間違いだろう——とするのが世論だったが、ゼネストたちは真に受けてしまった。
「ギルドが公表しないのは正体がフェンリルだからだ! ここまで噂になってるんだ、違うってんなら何か声明を出す。何もないってことは、公表できない理由があるってわけだ」
深読みしたゼネストが陰謀論を自信満々に言うものだから、いつの間にかパーティメンバーたちも『フェンリルはいる』と本気にしてしまっていた。
「やっとまともな回復術士を引き入れることに成功した! ここで一発、デカイ戦果を出してあのクソアマ回復術士に目にもの見せてやる!! 泣いて謝まれば俺も鬼じゃない、嫁にもらってやるよ。ガハハハ!」
「さすがゼネストの兄貴! ユージのやつもまた新しいパーティに寄生して調子ぶっこいてるみたいなんで、フェンリル持って説教しにいかねえとっすね」
「なに、あいつまたそんなことしてやがるのか! ったく、んなことされちゃ元パーティってことで俺たちまで悪評が広がっちまうだろ! とっちめてやらねえとな」
楽しげに談笑しながら、彼らは出発してしまう。
自分たちの相対的な実力を把握しないままに——
なぜ、それほどの危険な情報をギルドが持っているにもかかわらず、依頼をしてこなかったかという理由を考えぬままに——
そして、初めて後悔することになる。
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