第26話:回復術師は引き受ける
「前向きには考えますが、依頼内容によっては俺だけでは決めかねます」
『SSランク』なんて初めて聞いた。
冒険者の最高位はSランクなので、それを超える依頼を受けられる者など存在しない。というか、Sランクを超える依頼が存在すること自体初めて知ったことだったりする。
わざわざこんな言い方をするということは、相当に難易度が高いということになる。既存のSランクパーティに依頼せずわざわざ適性のある人材を発掘し、声をかけたことからも明らかだ。
依頼の決定権はパーティリーダーである俺にあるが、命が危なくなるほどの危険な依頼であれば、俺だけじゃなくてリーナの意見も聞くべき——ということからの返答だった。
「そりゃそうだ。ここで二つ返事ってわけにはいかねえよな。……場所を変えるか。ここは騒々しい」
あんたが余計なことを言って盛り上げたんだろ……と思わなくもなかったが、俺は無言で頷いた。
闘技場の中央区画を離れ、リーナの元へ。
「ユージお疲れ様です! すごくかっこよかったですよ!」
「ハハ、ありがとう。疲れちゃったし本当は休みたいんだけど、ちょっとギルドマスターに頼まれごとをしちゃってな。リーナもついてきてくれないか?」
「私も……ですか?」
「ああ、俺への頼み事——というよりパーティへの依頼だからな。リーナにもついてきてもらった方が良いと思うんだ」
「……何か、事情があるんですね。わかりました、ついていきます」
こうして、俺とリーナとギルドマスターの三人はさっきの応接室へと戻った。
◇
「へっ……? SSランク依頼ですか!?」
「そうだ。難易度は高いが、ガーゴイルを倒した君たちなら十分できると思う」
「それで、あの……SSランクってなんですか?」
ズコーという効果音が出そうになり、必死で堪えた。
まあ、確かにそれはそうだ。
俺も疑問に思ったのだから、リーナが首を傾げるのも無理はない。
「確かに、そんなランク聞いたことないな……。どういうことなんですか?」
「言い忘れていたな。SSランクというのは俺が依頼の難易度に鑑み、便宜的に付けたランクだ。通常のSランクとは比較にならないほどの強敵に遭遇する。だから正式にはSランクの区分になるが、それ以上のランクであると心してくれという意味で捉えてくれ」
「なるほど。……だいたいわかりました。先ほども申した通り、依頼の内容をリーナと吟味してから決めようと思っています。まずは内容を聞かせてください」
つまるところ、Sランクの最高峰依頼でも比較にならないほどの難易度ということか。
ギルドのランクシステムは現状ではSランクまでしかないが、Sランクの依頼内容に幅が大きすぎるという話があった。
ここを理解できていないからSランク初心者の死亡率が他ランクに比べて異常に高いということを聞いたことがある。
「うむ。ユージ、君は『フェンリル』という魔獣を知っているか?」
「フェンリル……というと神話時代に存在したとされる伝説上の魔獣ということくらいしかわかりませんが……。しかし聞きたいのはこういうことじゃないですよね」
「いや、そのフェンリルだ。それで、ここだけの話だが、最近魔物の活動が活発化している」
「魔物の活動周期には波があるだけという説が多数派ですが……」
「それは国民を欺くための嘘にすぎない。特にここサンヴィル村で魔物が増えていてな。つい最近では普通じゃ現れないエリアにガーゴイルなんて化け物が出てきたくらいだ。何かがおかしい」
「その原因がフェンリルにあると……?」
「そうだ」
キッパリと断言するクライン。
しかし、伝説上の魔獣が現代に生きていて、ちょうどサンヴィル村の近くに身を潜めている——などという話を馬鹿正直に信じられるほど俺は子供じゃない。
「そう言い切れる根拠は?」
「サンヴィル森林を通った村人数人から白銀の狼を見たという報告が挙がっている。その特徴を総合的に考えると、フェンリルとちょうど合致するんだ」
「複数人が見たということは見間違い……ではなさそうですね」
「仮にもしフェンリルでないとしても、狂乱した大型の魔物が村の近くをうろついているという状況はギルドとして看過できん。君たちには、フェンリルと思われる魔獣の偵察を依頼したいのだ」
神話上のフェンリルはときに狂乱したとされ、数十の村を全滅したとされる。最後にはこの王国のどこかで封印したということで結末を迎えているが——
「万が一正体がフェンリルで、戦闘になったとしたら……」
「そのために実力を測らせてもらった。君たち——特にユージで敵わない相手だとすれば、この王国が滅びるだろう。国王には進言しても全く信じないがな」
正直、村人が見たという白銀の狼がフェンリルだという信憑性はそんなに高くないと思うが、確かにガーゴイル……というよりレイドがあのエリアに出現したのは異常としか言えない。
その原因を突き止める手助けになるというなら、俺は是非とも役に立ちたい。
「俺は良いとして、リーナはどうする?」
「ユージが行くなら私もついていきたいですけど……足手纏いになりませんか?」
「ならないよ。リーナの強化魔法は強力だし、何より近くに居てくれるだけで気持ちが安らぐ。俺がついている限り、リーナには指一本触れさせない。でも、不安だというなら無理強いはしない。ついてこないことでリーナが恥じる必要はないし、申し訳なく思う必要もない。自分の意思で決めてくれ」
リーナはほんの一瞬、考えるような素振りを見せ、
「ユージのお役に立てるなら、私どこだって行きます」
即決したのだった——
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