第25話:回復術師は決闘を終える
「…………」
クラインが絶句すると同時に、観客がざわざわとし始めた。
「今の……見たか? あの短剣捌き……超一流の短剣士みたいだったぞ」
「魔法士で短剣士で回復術士……いったいどういうことなんだ!?」
「ガーゴイルは火属性魔法でやったみたいだが、今のは水属性だよな。紋章の属性以外だと普通は効果が落ちる……つまり、本当に劣等紋ではある……みたいだな」
「そんなことどうでもいい! あの無敵と呼ばれたギルドマスターが押されてるってやべえぞ」
「歴史的瞬間か!?」
次第にざわざわ声は大きくなっていく。
いつの間にか、初めよりも観客が増えている気がする。
これ以上注目される前に、さっさとケリをつけるか。
ここまでは全部攻撃されてから対処しただけ。反撃開始だ!
「じゃあ、今度はこっちの番だね」
とはいえ、まずは様子見——
クラインにとっては想定外の動きで攻撃を跳ね返されたように、俺の攻撃だって対策済みという可能性は考えられる。
俺には苦労の末手に入れた技術があるが、『経験』では敵わない。調子に乗って自分を過大評価してはいけないことの重要性は、前のパーティを反面教師にして覚えた。
俺は、クラインが放ったものよりもさらに大きい魔力弾を展開する。
属性は六属性のどれでもない。
『火の紋章』『水の紋章』……など六属性の紋章は、その属性に特化する。
いくら技術を鍛えても、回復術師として覚醒しても、超えられない壁があった。
でも、劣等紋は全ての属性を扱える。
ならば、全てごちゃ混ぜにしてしまえばいい。
六つの属性が組み合わさり、相乗効果を生むことで究極の攻撃魔法を完成させることができた。
それぞれの属性は相反関係にあり本来は組み合わせることができない。しかし、俺は実在しない架空の属性を論理属性として確立させることでまとめて扱えるようになった。
——便宜的に『無属性』とでも呼ぼうか。
「名付けるとすれば、
六属性+無属性の魔力弾は虹色に輝き、俺の手元から発射された。
魔法の手加減はあまり得意ではないのだが、このくらい気持ちよくぶっ放せるとなかなか気持ちがいいな。
「な、なんだそれはああああああ!?」
クラインが叫ぶと同時に、俺の攻撃が着弾する。
ドゴゴオオオオオンッッッ!
直前にバリアを張ることでかなり衝撃を緩和したようだが、どうなるか——
さっきのクラインの時とは比べ物にならない衝撃で辺り一帯が激しく揺れを起こし、石畳には亀裂が入っていた。
けたましい砂煙が巻き起こり、クラインの姿は未だに見えない。
今のうちに反撃に備えてバリアを展開し、さらに『探知』で視界ゼロでも警戒を怠らない。
しかし——
「ケホッケホッ……参った。完敗だよ」
石畳の上に膝を付き、咳き込むクライン。
正直、ここで終わりを迎えるのは想定外だった。
「ありがとうございました」
と、同時に大勢の観客に向けて右腕を天に掲げてガッツポーズ。
——決闘の作法である。
「おおおおおおおお!!!!」
「か、勝っちまっただと——!?」
「あ、あのギルドマスターが敗れた……!」
盛大な歓声に包まれ、決闘は終わりを迎えた。
クラインを見ると、直撃はしなかったものの、かなりの大ダメージを食らっていた。
少なくともゼネストやアルクなら消炭すら残らなかっただろうから、これで勝負が決まってしまったとはいえクラインはやはり実力者である。
決闘はもちろん真剣勝負だが、終わった後は『非戦闘員を守る』という同じ志を持った仲間。
敬意を持って、『回復(ヒール)』した。
ボロボロだったクラインの身体はみるみるうちに傷が塞がり、元の状態へ戻っていく——
「素晴らしい回復魔法だな……ありがとう。いや、これが本職か」
「ええ、攻撃魔法はこっちを極める過程で身につけたものです」
すっかり完治したクラインは、ふうと息を吐いて、俺の瞳を見つめた。
「しかし、俺もまだまだだな。直撃していれば間違いなく死んでいた。わざと外してくれたんだろう?」
実は、クラインが俺の攻撃の直撃を免れたのにはワケがあった。
バリアで防がれたわけではない。間違いなくあの程度の守りなら貫通していただろう。
その理由は——俺がわざと直撃を外したからだ。
手を抜いたわけではない。クラインの本気がどれほどのものかわからなかったから、様子見で近くを攻撃し、衝撃をどのように防ぐのかを見るのが目的だった。
「まあ、結果的に——ですけどね」
「あれほどの実力者が『意図せず外した』なんてことはあり得ない。何か狙いがあったんだろうということはわかる。何はともあれ、初めての完敗——ユージ、気に入ったよ……というと失礼か?」
「いえ、若輩者なんで経験ではギルドマスターには全然及びませんよ。光栄です」
「それはよかった。ところで、まさか俺が倒されたってのは想定外だったがユージの実力はよおーくわかった。そこを踏まえて、ちょっとした依頼を頼めるか?」
「……というと?」
「なに、ユージほどの実力者なら十分にこなせるだろう。ただのSSランク依頼だ」
なるほどな。
おそらく、俺を決闘に誘ったのは、初めからこの依頼を振るにあたって自分の目で実力を確かめておきたいというのが本音だったのだろう。
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