劣等紋の超越ヒーラー 〜無敵の回復魔法で頼れる仲間と無双する〜

第24話：回復術師は手を抜かない

「ふんっ……ふんっ……ふんっ！　うおおおお！！！！」

　クラインが叫び、肉体が膨張する。

　見たところ、俺の『身体強化（ヒール）』と似たような魔法みたいだな。

　生命力と魔力が大幅に底上げされ、防御力の上昇、攻撃力の上昇効果がある。

　ちなみに『身体強化』の方が『攻撃速度』『移動速度』『回避力』など全ての能力値にわたって強化できる汎用的なものなのだが、クラインの自己強化魔法は強化する項目を絞ることで、上昇幅が大きい。

　汎用性を捨てて特化するか、特化を捨てて汎用性を大事にするか——考え方の違いか。

「一撃で仕留めてやる——！」

　クラインから魔法による青白い火炎弾が飛んでくる。

　とんでもない攻撃力だな……。昨日のガーゴイルくらいなら一撃でやれちゃうだろこれ。

　まあ、そうは言っても——

「当たらなければどうということはない」

　小さく呟き、無駄のない動きで右後ろにジャンプして初撃を躱した。

　ドオオオオン！

　後方から強烈な爆発音が聞こえてくる。

　観客たちも言葉を失っていた。俺なら強化していることで直撃しても即死することはないが、普通の冒険者なら影すら残らずに消え失せるだろう。

　一対一の勝負とは言ってもさすがに遠くの観客に流れ弾が当たらないように気を付けている……とは思うが、恐怖するのもごく当たり前だと思う。

「なるほど……初撃を躱すか。この攻撃を躱したのはユージ、お前が初めてだ！　まあ、人に向けて撃ったのは初めてだがな。しかし、これならどうだ！」

　次にクラインが放ってきたのは、さっきと同じ青白い火炎弾。しかし、同じ手を二連続でなんの罠もなしに使ってくるとは想像しにくい。

　まずはひょいと同様に躱して、様子を見る。

　さっきと同じ流れ——だが、さっきとは違って爆発音が聞こえることはなかった。

　『探知（ヒール）』で背後に意識を集中させると、火炎弾が軌道を急転換し、再び俺の方へ狙いを定めて近づいていた。

　追尾型か……これは初めてだな。

「でも、想定内だ」

　実のところ、俺もこの技はちょっと前に思いついたことではあった。

　似たようなことは俺でもできるのだ。

　自分ができることを敵ができないと思うほど自惚れてもいないから、対策も考えていた。

　追尾型攻撃魔法には強みと表裏一体の弱みがあるのだ。そこを突けばいい。

　仕組み上、追尾型攻撃魔法は軌道のコントロールを無意識下で魔法士が行なっている。決して魔法が意思を持って俺を狙っているわけではない。魔法士の知覚を利用して標的に当たるまで飛び続けるのだから、干渉して少し偽装してやるだけでいい。

　回復魔法を極めた俺なら、魔法への干渉など容易い。

　人体よりは構造が単純だからな。

「よし——こんなもんか」

　主導権を俺が握ったことで、火炎弾は俺の横を避けるように抜けていき——

「な、なんだと！？」

　これにはさすがにクラインも驚いたようだ。

　衝突の直前でバリアを展開し、火炎弾から身を守るクライン。

　ドオオオオン！

　と強烈な爆風が起こったので、俺も前面にバリアを展開して対処した。

　闘技場ということで石畳にも特殊な加工がなされているはずなのだが、ボロボロになってしまっている。

　砂煙が晴れていき、クラインの姿が見えてきた。

「まさか、自分が撃った魔法が返ってくるとはな……。いったいそんな反撃魔法をどこで……」

　返ってくることは想定していなかったようだが、致命傷にならなかったのはさすがだな。

　今までは俺を甘く見ていたようだったが、クラインの俺を見る目つきが大きく変わっている。

　本気になった——ということか。

「これは独学だよ。常に奥の手は考えておく派でね」

「なるほど、どうやら一筋縄ではいかないようだ。……生まれて初めてこんな怪物を目の前にしたぞ」

「降参する？」

「まさか。背筋がゾクゾクしてきやがったぜ。もうお前——ユージを回復術士だと思うのは止めだ。超一流の魔法士として相手をしよう——」

　と、言いながら不意を狙ったタイミングで火炎弾の連続発射。合計で八発。

「……っ！」

　卑怯だとは思わない。

　俺を一流の魔法士だと言ったからには、どんなテクニックも駆使して勝とうとしているのだ。

　魔法士は冒険者の中でも人気の職業。志望者はたくさんいる。しかしパーティ所属するかソロで功績を挙げ、他者から認められる者は一握り。

　その中で一流ともなればさらに少なくなる。

　だからキラキラしていると外からは思われがちだが、決してそんなことはない。

　泥臭い努力と、勝つためならどんなことでもするという強い行動力を併せ持った者ばかり。

　要は——負けず嫌いというわけだ。

　クラインから放たれた連撃火炎弾は、近距離ということもあってバリアが間に合わない。

　でも、俺は慌てていなかった。

　これが魔法士なら、確かに慌てただろうし、間に合わなかったかもしれない。

　でも、俺は回復術師だ。

「この程度のことを想定していないとでも？」

　俺はアイテムボックスから短剣を取り出した。アイテムボックスは緊急時の対策として、念じるだけですぐに取り出すことができる。

　手元に短剣が現れた。リーナに強化魔法を付与してもらった特別製。これなら対抗できる。

　キンキンキンキン！

　火炎弾——つまり火属性に対して、有利な水属性で短剣を振り、八発全ての火炎弾を斬り落とした。

「——な、なんだと……お、お前は本当に回復術士なのか……？」

「どっちかというと、回復術師……かな？」