第23話:回復術師は受けて立つ

 ギルドマスターに案内されるがままに俺たちはついて行った。

 冒険者ギルドを離れ、近くの闘技場へ。


 サンヴィル村には——というより、ある程度の規模の村には闘技場が設置されていることが多い。

 冒険者や騎士団、または志望者たちが切磋琢磨する場所が必要であると考えられているからだ。


 前のパーティにいた頃はパーティリーダーのゼネストが「魔物と戦って経験値を積むのが最も効率が良い。闘技場なんかに行くのは時間の無駄だ」という考えだったので足を運んだことはほとんどなかった。


 しかし、今になってフラットな視点で見るとゼネストの考え方は部分的に正しいが、間違っている点もあったと思う。


 確かに実戦経験に勝るものはないのだが、闘技場で別のパーティの戦い方を参考にしたり、情報共有したり、同じランクでの戦力差を理解できるという点で無意味ではないはずだ。


 少なくともSランクパーティの戦闘力を目の前で見せられれば、変な勘違いを起こして『自分はできる』と根拠のない謎の自信に支配されることはなかっただろう。

 あるいは、それを直視したくなかったから闘技場へ行かなかっただけなのかもしれないが……。


「ユージなら大丈夫だと信じていますけど……心配です」


 隣を歩くリーナから気遣うように言葉をかけられた。


「絶対大丈夫……とまでは言えないけど、万が一怪我しても俺にはヒールがあるし、何とかなると思う」


「そう言えばユージって回復術士ですもんね。でもギルドマスターはとっても強いって噂ですし……無理はしないでくださいね」


「もちろん、歯が立たないと思えばすぐに降参するよ」


 ところで、パーティメンバーに回復術師ってこと忘れられてるのはどうなんだろう……。

 確かにレイドを攻撃魔法でワンパン処理したり、特殊な回復魔法で拘束したりはしたけども。


「おっ、ちょうど一等地が空いてるな」


 先導していたクラインが呟いた。

 サンヴィル村の闘技場は多数のブロックごとに区分けされており、それぞれ同時に使うことができる。

 今日も大盛況のようでほとんどのブロックが埋まっているのだが、唯一真ん中の一番目立つ場所だけがポッカリと空いていた。


 というか、中央の一区画だけわざと目立たせる作りになっているので、他の冒険者たちが敬遠していたのだろう。騎士団のパフォーマンスイベントなどで使われることが想定されているのだろう。


 うわぁ……目立ちそうだな。

 ここになって一気に気が乗らなくなったのだが、そんな俺に反してクラインはノリノリである。

 それに加えて、ここにいる者なら皆ギルドマスターの顔を知っているわけで……。


「おおっ! ギルドマスターがいらっしゃるぞ!」


「視察に来られたのか!? ……いや、隣に誰かいるぞ!」


「そういえば、あいつって今話題になってる劣等紋なんじゃ!? まさかとは思うが、レイドを倒したってのは本当だったのか!?」


「つまりあれか! ギルドマスターが直々に劣等紋と戦うってことか!?」


「謎の劣等紋が勝つか、当然クライン様が勝つか、どっちにしても面白え!」


 うげぇ……。

 もう目立つ区画とかそういう次元じゃないなこれ……。

 それに、ここまで期待させたら「やっぱりやめます」は通じないんだろうな。


「皆の者、よく聞いてくれ! 今よりあの災害級レイドを討伐した冒険者ユージと一対一で決闘を行う! ぜひ盛り上げてくれ! もしかすると、俺が初めて負けるやもしれん相手である!」


「「「「「うおおおおおおおおお」」」」」


 だから余計なことを言うなあああああ!


「さて、中央区画(ステージ)へ行くぞ」


「あ、はい……」


 盛大な歓声に包まれながら、クラインとともに舞台へ。


「決闘は申し込まれた側にルールの選択権があるが、何か希望はあるか?」


「いや、特には。強いていえば、お手柔らかに」


「ふっ、それは無理な相談だな! では行くぞ!」


 ギルドマスタークラインは、元王国騎士団所属の魔法士。

 次期騎士団長とも噂されたが、昇進を断り、故郷であるサンヴィル村のギルドマスターになったと噂されている。


 対して、俺は攻撃魔法を専門としない回復術師。


 圧倒的に不利な状況だが、勝算がなければ受けたりはしない。

 やれやれ、面倒だがちょっと『本気』を出すとするか。

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