第22話:回復術師は頼まれる

 ◇


 翌日、依頼を受けようかとリーナとともに冒険者ギルドを訪れた。

 扉を開けると——


「あっ、ユージさんリーナさん、お待ちしていました。どうぞこちらへ」


「え、ああ……」


「なんでしょうか……?」


「詳しいお話は着いてから行いますので、ついてきていただければ……」


 説明されないまま、職員以外立ち入り禁止の場所へ連れて行かれた。

 冒険者が見ているギルドは、建物の一部分でしかない。


 受付以外にも奥には事務担当の職員がいるし、責任者もいるだろう。資料庫や、会議室、応接室、併設された酒場用の厨房などパッと思いつくだけでもこれだけある。

 ……といっても俺も直接奥に入ったのは初めてで、噂でしか聞いたことがなかったが。


「こちらです」


 俺たちを連れて来たいつもの受付嬢がそう言いながら、扉を開いて中へ入るよう促した。

 扉の上部には『応接室』と書かれている。


 部屋には向かい合うような形で椅子が並べられ、その間に木製の机が設置されている。

 まあ、要するにみんながイメージする典型的な応接室だ。


「ああ……」


 中へ入ると、そこには一人の男が既に椅子に腰掛けていた。

 身長は170センチくらいと特別高くはないが、ガタイが良く強い存在感があった。年齢は30〜40歳くらいで、無精髭を生やしている。


 実は、この人を以前見たことがあった。

 ……というか、この村の冒険者なら皆が顔くらいは知っているだろう。


「よく来てくれたな。俺はサンヴィル村ギルドのギルドマスター、クラインだ。よろしく」


「存じています。俺は『レジェンド』のパーティリーダーのユージ、隣はパーティメンバーのリーナだ」


 それにしても、ギルドマスターが俺に何の用なんだろう?


「まあそう固くならんで良い。昨日のレイドの褒賞が用意できたから書類を確認してもらうついでに話を聞かせてもらおうと思っただけでな」


「はあ。俺たちでよければいくらでも話しますが……」


 レイドに限らず通常依頼の報酬が高額になる場合でも書類の確認が必要になるという噂は聞いたことがある。

 しかしわざわざギルドマスターが出てくるようなことではなく、受付で全部済むこと。


 わざわざ事情も話さずに連れて来たということは、何か狙いがあるのだろう。

 冒険者とギルドは共利共生の関係だから、俺たちに不利益な話ではないと思うが……。


「じゃあ、まずは事務的な連絡だ。今回のレイド『ガーゴイル』は20年前に一つの村を滅ぼしたこともある危険性が高い魔物。当時の褒賞が金貨1000枚だったことから、本件は金貨1500枚が相当であると考えられる。特に異議がなければ書類にサインをしてほしいんだが」


 言いながら、書類を渡された。

 それと同時に、ギルドの職員がコーヒーを持ってきた。


「20年前は1000枚だったのに、1500枚ももらえるんですか……!?」


 リーナがかなり驚いた様子で声を上げた。


「まあ、そんなもんだろう。俺も良心的だとは思うが」


「だって、同じ魔物なんですよね……?」


「20年も経てば当然物価は上がっていく。毎年2%ずつ上がれば1.5倍で同じくらいの価値になる。——っていうことだよな?」


「その通りだ。それにしても……ふむ、ユージは頭もキレるようだな」


 レイドを倒した冒険者ともなれば、ギルドマスターからお世辞の一つももらえるようになるらしい。

 ちょっと考えればわかることなのでこの程度は常識だと思うんだが……。


 まあ、リーナが知らなかったことからわかるように、『この歳にしては』という条件付きで褒めてくれているのかもしれない。


 と、そんなことはともかくサラッと署名を終わらせ、ギルドマスターに手渡した。


「うむ、確かに。それでここからは余談になるんだが——」


 クラインの顔がキリッと引き締まり、鋭い眼光が俺を覗いた。

 明らかに余談なんかじゃない。

 これが本題だったのだろう。


「ユージ、俺と一対一で決闘をしてくれないか?」


「……決闘ですか? 俺は回復術師ですよ?」


「そう、決闘だ。ユージが持ってきたガーゴイルを分析させたんだが、魔法で倒された形跡があるんだ。もちろん君たちを疑っているわけじゃない。仮に倒していないのだとして、それほどの強い冒険者から奪って逃げられるはずなどないからな。その強さを俺の目で確かめたいと思っている。なに、それ以外の目的はなにもないさ」


 明らかに『それ以外の目的』があるような言い方だな……。


「しかし何で俺なんです? リーナが倒した可能性だってあるでしょう」


「うん? あのガーゴイルはユージが倒したのではないのか?」


「いや……俺ですけど」


「ハッハッハッ、そうだろう。長年色々な冒険者を見ていると分かるんだよ。できるやつ特有のオーラってやつがな。それを確かめたいだけだ。もちろん決闘といっても命をかけるわけじゃない。もしかすると多少怪我をするかもしれんが、勘弁してくれよ?」


「それはお互い様です」


「ふっ……受けて立つか。そう来なくちゃな。じゃあ、ちょっと移動するぞ。ついてきてくれ」

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