第19話:回復術師は静観する
「だから言ったじゃない! 私は最初から——」
「どの口が言うわけ? あんたが一番悪いんでしょ!」
「皆さん落ち着いてください。一つ言えることは、私が悪くないということです!」
なにやら、リーナの元パーティメンバーたちが言い争っているようだった。
ちなみに全員女性。
冒険者のパーティは男女混合というより、どちらかというと男女どちらかのみで構成されたところが多い。
意気投合した者同士でパーティを組んだり、男女混合だと特有のトラブルが発生するので未然に防ぐ目的があったりと理由は様々だ。
上級パーティとなれば性別なんかで選んでいる余裕はないが、Cランクくらいならお友達の延長感覚のパーティも多いから、珍しくはない。彼女たちがそうであるとは限らないが……まあ、そんなもんだろう。
「——じゃあ、あなたがリーナを呼び戻してきなさいよ!」
うん……?
一目見たことから満足してこの場から立ち去ろうとしたのだが、ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「だからなんで私が……って、リーナ……?」
あっ、ヤバイ。
三人のうち一人にリーナの存在を気づかれた。
隠れることなくぽけーっと見てたらバレるのは時間の問題だったわけだが……。
「ああ……ユージ、どうしましょう……」
「どうせなら話してみたらいいんじゃないか?」
「でも、私戻る気はないんです」
「なら戻る気はないとキッパリ言えば相手も納得するしかないだろ。それとも、俺が相手しようか?」
「……いえ、私が話します」
「そうか、頑張れ」
普段はふわふわした感じのリーナだが、自分の中に芯を持っているから強い。
まあ、俺は最初から知ってたけどな。
生半可なメンタルじゃ劣等紋だとバカにされながらも諦めずに強化魔法をあれほどまでに進化させられなかっただろう——
「あら、リーナじゃない。久しぶりね。あれから私たちも色々考えてねぇ、どうしても……っていうなら戻って来てもいいんじゃないって話をしてたのよね」
「そうそう、あなたは一人じゃなにもできない子だから、私たちが面倒を見てあげなくちゃってね」
「皆さんの言う通りです。いくら無能だといってもいきなり追い出すのはやりすぎましたからねー」
こいつら、アホなのか……?
あの話の感じなら土下座でもなんでもして戻って来てくれと頼み込むものだと思っていたら、あくまでも上から目線なんだな……呆れた。
「あ、はい。私……戻る気ないです」
リーナも当然ながら一刀両断。
うん、普通こうなるよな。
しかし、リーナの元パーティメンバーたちにとっては予想外のことだったらしく——
「はああああ!? 本気で言ってるわけ!?」
「この私が戻って来ても良いと言っているのに……生意気!」
「いくらなんでも傲慢すぎやしませんか? 痛い目を見ないうちに考え直したほうがいいですよ?」
三人でリーナを囲み、グイグイと幅寄せしていく。
圧力をかけているようだが、リーナは動じない。
「戻る気はありません。だって、あんなに酷い扱いをされるパーティはもうこりごりです!」
「あんたなんてどこのパーティ行ってもどうせやっていけないわよ!」
「あなたがたに心配されなくても大丈夫ですから……心配無用です」
「あんたがどうしたいかじゃないっての! こっちはあんたが抜けてから強化ポーションに金はかかるわ、効果は弱いわ、新しい装備が弱いわ、荷物持たなくちゃいけないわで散々なのよ!」
「はぁ……それで?」
「多少のコストをかけても奴隷……じゃなくて劣等紋を置いておいたほうが合理的だと判断したのよ。ということで戻って来なさい」
「嫌です」
「どうしても嫌だって言うなら、こっちにも考えがあるのよ。……力尽くで納得させるまでのこと」
リーナの元パーティメンバーの一人が言うと、他の二人が攻撃態勢に入った。
一人は魔法士、もう一人は剣士。
「さて、もう一度聞くわね。リーナ、あなたはどうしたいのかしら?」
「卑怯です……」
「なんとでも言いなさい。さあ……どうするのかしらん?」
リーナがチラッと俺を見てくる。
俺はアイコンタクトで「好きにしろ」とメッセージを送った。
「どんなことを言われようと、たとえどんな良い条件を提示されようと、私は戻る気はありません。私には新しい大事な仲間ができました。今更もう遅いです!」
言い終わるや否や、相手の顔が歪み——
「あそこのヘボそうな男に言いくるめられたのね……かわいそうな子。やるわよ」
その言葉が合図となり、リーナへ集中砲火しようと三人が各々動き出した。
……ここは村の中なんだが。
やれやれ、さすがに三対一はルール違反だよな。
それも、一度は同じ釜の飯を食った人間のやることか……?
さすがに俺もここまではされなかったぞ。
「そこまで——ストップだ。リーナを解放してもらおう」
「はぁ!? なに言って……って、身体が動かない……なんで!?」
「ん? 『拘束(ヒール)』だけど、それがどうかしたのか?」
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