第20話:回復術師は反省させる

 回復魔法は、患者に流れる魔力に干渉する。だから『解析(ヒール)』ができるわけだが、少し工夫することで『拘束(ヒール)』に発展させることもできる。


 解釈次第で他にも様々なことができる。回復魔法とは汎用性が高いスキルなのだ。


「こんなやり手の回復術士がなんで劣等紋なんかに構うのよ! 放っておきなさいよ!」


「なんでって……俺も劣等紋だから?」


 俺は左手の紋章を見せた。

 出会ったのは偶然だったが、同じような境遇で、仲間を欲していた。

 だから自然と仲間になったんだが、事細かく説明するのは面倒くさいので、これを見せれば納得だろう。


「回復術士が……それも、劣等紋が同時に三人も縛るなんて、どう考えてもおかしいわ!」


「知らんな。それより、お前たちはやりすぎだ。ちゃんと反省してもらおう」


 俺はニヤッと笑った。


「ユージ、この人たちをどうするんですか……?」


「さーて、どうしようかな。脅して謝らせても意味ないしな。誠意を見せてもらわないと」


 横目で彼女たちを覗くと——


「お金なら払うわ! 本当に悪いと思っているの!」


 暴れて逃れようとしていた彼女たちだったが、力の差をやっと理解したのかすがるように頼んできた。


「お金で解決しようと考える時点で反省が足りないな。リーナが受けた傷はお金をもらって解決するようなもんじゃない。それに、消耗品代で困るような Cランクパーティが払える金額に期待なんかしていない」


「ぐぬ……じゃあどうしろって言うのかしら。まさか、あなたにご奉仕しろとでも?」


 恨めしそうに俺を見上げる三人。


「下品なセリフはやめてほしいな。そんなことされても俺は嬉しくもなんともない」


「しかしユージ、この人たちの性根が変わることはないと思います。ずっと一緒にいた私だからわかります」


「一応は俺に考えがある。ここだとちょっと場所が悪いから移動したいんだが、いいか?」


「もちろん構いませんけど……ここじゃダメなんですか?」


「ああ、ちょっとここじゃ人が少なすぎる。もっと目立つ場所じゃないとな」


「ユージがお仕置きするんですよね……? 人に見られたほうが良いってよくわかりません……」


 リーナはよくわからないみたいだが、全部ここで話すよりやらせたほうが早い。


「ま、簡単に言えば決して嘘をつけない相手の前で非を認めさせるってわけだ」


 ◇


 リーナの元パーティメンバーの三人を連れて、商業地区で最も人通りが多いエリアに到着した。

 ちょうど村の中心。噴水が真ん中にあるので、そこに三人を座らせた。


 道行く村人が何事かと彼女たちに注目する。

 こんなところに座り込むやつはほとんどいないから、これだけでも目立つ。かなり恥ずかしいことだろう。


 俺は途中の店で買って来たプラカードを三人の首にぶら下げた。


「『私たちは仲間を裏切りました』……ですか?」


「ああ、これを明日の今の時間——つまり24時間掲げてひたすら懺悔してもらう」


「エグいこと考えますね……」


「そうかな? リーナがされたことに比べればこのくらい軽いと思うが」


「それは……そうなのかもしれませんが」


 もちろん、これだけで終わるつもりはない。


「さて、三人ともよく聞け」


「これ以上何をするつもりよ……!」


「反省なんかしないわ!」


「早く解放しないと後で痛い目に遭いますよ?」


 ははっ、三人とも威勢がいいじゃないか。

 縛られて情けない姿を晒しても折れない心だけは素晴らしい。

 これを『思いやり』の方に向けていればこんなことにならなかったものを……。


「今から言う言葉を復唱し続けるんだ。いいな? ——『神よ、私たちは大切にしなければならない仲間を裏切りました。今はとても深く反省しており、ここに懺悔します。どうか我らをお許しください』とな」


「そんなこと口が裂けても言うわけ——神よ、私たちは大切にしなければならない——って、なんで!?」


「拘束ができるんだ。お前たちの全身を操り、言葉を発させることくらいは容易い。あまり回復術師を舐めるな」


「————!?」


「だが、俺が操ってもそれはお前たちの言葉じゃない。だから、ちょっと工夫をさせてもらおう」


「何を——痛っ」


「復唱し続けなければ痛みが襲い掛かるように細工した」


「卑怯よ!」


「先に手を出したほうが悪い。さて、そろそろ行こうか。リーナ」


「ちょっと待ちなさい! 痛っ……ぐぬぬぬぬ……神よ——」


 観念したのか、俺が与えたセリフを復唱し始める三人であった。

 リーナは性根が変わらないと言っていたが、この後24時間の苦行を終えた彼女たちは別人のように生まれ変わっていた。


 もう二度と仲間を裏切るようなことはしないだろう。

 まあ、だからと言ってリーナが元鞘に戻ることはありえないのだが。


 俺がずっとパーティに残ってほしいという思いがあるが、そんなことよりも——


「私はユージとずっと一緒にいたいです!」


「俺もだよ」


 リーナ自身がこのように言ってくれるからだ。

 いまさら改心して戻って来てほしいと頼んでももう遅い。

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