第15話:回復術師はレイドに遭遇する
◇
リーナと分かれて魔物を狩ること十数分。
俺は二十体の魔物を倒し、討伐証明になる部位を回収することができた。
報告には討伐証明の提出が絶対になるのだが、この回収が意外と面倒臭い。
まとめて倒してから回収しても良いのだが、何体も相手にしているとどこで倒したのかわからなくなるという問題がある。
そのため、いちいち倒しては回収するという流れでコツコツと進めていた。
効率を極めるなら俺が瞬殺してリーナに回収してもらうという形でも良いが、今日のもう一つの目的はリーナに早く新装備に慣れてもらうこと。
……まあ、面倒というだけでさほど時間はかからないのだが。
「リーナ、こっちは二十体倒したぞ。そっちの調子はどうだ?」
二十メートルほど離れたリーナに、大声で問いかけた。
「あっ、こっちはまだ五体です! ユージ凄すぎです!」
「それだけ倒してれば十分だ。そろそろ合流するか——」
と、話していた瞬間だった。
急に空が暗雲に包まれ、ビシッビシッと雷が鳴り始めた。
なんだ……? いや、これはもしかして……。
前のパーティでも一度だけこんな場面に遭遇したことがある。
突如、リーナの目の前に黒いモヤが発生し、魔物が発生した。
悪魔のような醜い顔に、黒光りする不気味な翼。この特徴は——ガーゴイル。
間違いない、こいつはサンヴィル村周辺のエリアボス……すなわち、レイドだ。
初心者冒険者が運悪く遭遇すれば、間違いなく生き残ることはできないだろう。レイド発生時にはSランクパーティに緊急依頼が出され、討伐に向かわせることとなっている。
しかし駆けつけたSランクパーティにも死者が出ることは珍しくない。
レイドとの遭遇は、たとえそれがSランクパーティであっても事故……いや、災害と呼ばれることの方が多いか。
ともかく、リーナが危ない。
「きゃっ、きゃあああああああ!?」
ウガアアァァ……!
怯えるリーナに、ガーゴイルが襲いかかる。
咄嗟に後ろに下がったことで間一髪、初撃の回避に成功したようだった。
この距離だと、魔法を使うしかないか——
あまり得意じゃないし、使いたくはなかったんだが……。
俺は右手をガーゴイルに向け、攻撃魔法を展開する。
属性は火。とにかく早く撃てる魔法で、リーナを巻き込まないようにするものを選ぶ。
初歩的な魔法ではあるが、火球を選んだ。
「リーナ! もっと後ろに下がれ! 背中を見せていい! とにかく離れろ!」
「ふぇ!?」
冒険者が魔物に背中を向けるのは、死を意味する。
だから、咄嗟に動ける者はほとんどいない。俺だってリーナが完全に俺の言うことを聞いてくれるとは思っていない。ほんの少しでも離れてくれればそれで良かった。
なのだが——
「こ、こうでいいですか!?」
リーナは咄嗟のことだったというのに、俺の指示通り動いてくれた。
必要以上に素直なのか……いや、信頼されたのだと思っておこう。
「ああ、それでいい。いくぞ!」
俺は超高温の火球を発射。
襲い掛かろうとするガーゴイルに直撃し、爆散する。
ドゴオオオオォォォォン!
砂煙に包まれ、どうなったかはわからない。
祈るような気持ちで煙が晴れるのを待った。
「やったか……?」
俺は小さく呟いた。
リーナの悲鳴は聞こえない。ということは……。
「ユージ凄いです……! あの強そうな魔物をたった一撃で倒してしまうなんて!」
ふぅ……。
一気に緊張が解けた。
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