第14話:回復術師はフラグを立てる
◇
翌日、予定通り朝から依頼を受けて村を出た。
なのだが——
「すみません、私のせいで……」
「いやリーナのせいじゃないよ。規則だから仕方ない」
早速Sランク依頼を受けようかと思って意気揚々と受付に依頼書を持っていったまでは良かった。
しかし、受付嬢曰く『新たなパーティを組織した場合は、初期メンバーの最下位者のランクを採用する』——とのことだった。
つまり、俺が元Sランクパーティに所属していたとしても、リーナが最後に所属していたのがCランクパーティだったため、俺たちのパーティ『レジェンド』はCランクからのスタートになるようだった。
とはいえ、これは冒険者を保護するためのルール。
ギルド側も例外は既に想定していたらしい。
「一回でも依頼を達成すればその時点で次のランクに昇級できるらしいから、 最短三回でSランクまでいける。ちょっと面倒だけど、ギルドの言い分もわかるしね」
「でも……」
「それに、俺もちょっと急ぎすぎてた。まだ新しい装備を十分試せてないのにいきなりSランクは早すぎたと思う。いい機会をもらえたんじゃないか?」
「ありがとうございます。ユージのそういうところも大好きですっ!」
——と言いながら、俺の肩に抱きついてくるリーナ。
可愛すぎるし、こんなの初めてなのでめちゃくちゃ照れる……。
もちろん俺も恋愛的な意味ではないということくらい理解しているが、勘違いしてしまいそうだ。
変な態度を取らないよう気を付けよう。
「ま、まあそう言ってもらえると嬉しいよ。さて、狩場についたことだし、そろそろ始めようか」
「あっ、はい! そうですね」
パッと俺の肩から離れるリーナ。
俺はほっと息を吐いた。
場所はサンヴィル村から南に10キロほどのサンヴィル湖周辺。
大きくて綺麗な湖に、明るい雰囲気の平原。そして弱い魔物。
まるでピクニックに来たような感覚だな。
「じゃあ、強化魔法を付与しますね」
「頼む」
前のパーティでは、付与術士がいなかったので、どんなものなのか気になる。
新興のパーティだったから、リーダーの方針で初めから付与術士を集めなかった。強化ポーションを使うことで代用できたからだ。
「ん……!?」
淡い光が身体の内部まで染み込んでいくような感覚で、次々と強化魔法が付与されていく。
効果自体は『攻撃力強化(レイジ)』を始めとするオーソドックスなものだったのだが——
「どうかしましたか……?」
「いや、ポーションより効果強くないか……?」
「そうなんですか? 私、ポーション使ったことないのでわかりませんけど……」
きょとんとしているリーナ。
ポーションと付与術士の強化魔法は全く同じものだと聞いていたのだが、明らかに質的に違う。
巷で云われている付与術士不要論が間違っていたのか、それともリーナが特別なのか——
「これで付与は終わりです! 一時間で掛け直しが必要ですけど……それまでに終わりそうですね」
「そうだな。30体の討伐依頼だけど、手分けして進める感じで問題ないか?」
「はい、大丈夫です! 私こっちやりますね!」
「オーケー、そっちは頼んだ。俺は向こうをやるよ」
リーナの付与魔法のおかげで足取りが軽い。
俺とリーナの距離は数メートルほど。
本来ならパーティメンバーは固まって戦うものだが、格下の狩場ではこんな風に効率重視になることはよくある。
もしエリアボスであるレイドでも出現すれば別だが……。
まあ、まさかこんな長閑な低ランク狩場に強力な魔物が現れるはずがない。極稀にそんな事例もなくはないが、宝くじに当たる確率よりよっぽど低い。
さすがにないだろう。
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