第13話:回復術師は明日に備える
その後、俺の装備にも強化魔法を付与してもらった。
俺の装備はAランク用の量産品。Sランクパーティに所属していたと言っても昇級したのはつい最近のことで、まだ新たに買い直していなかった。
そもそもSランク用は特注になるのでお財布事情的に無理があったという理由もある。
「これはすごいな……」
試着した瞬間、今までと違うということが一瞬で理解できた。
身体が軽くなったように感じられ、かつ剛性も大幅に上がっている。まだ実戦で使っていないからなんともいえない部分はあるが、おそらく二倍以上の性能はあるだろう。
付与魔法……本当にすごいな。
「喜んでもらえて私も嬉しいです!」
「いやいや、誰でも喜ぶと思うぞこれは」
「いえ、ユージだからです。私、今まで誰からも邪魔者扱いされてきたんです。だから……必要としてもらえて嬉しかったんです! 本当に……感無量です」
そう話すリーナは涙ぐんでいた。
まあ、見る目があるかどうかの違いだったとは思うのだが、俺も似たような境遇だったから気持ちはよくわかる。劣等紋は、劣等紋であるというだけで見下され、差別されてきた。
俺だって誰かに認めてもらいたいという気持ちは常に抱いていた。
思いが叶ったことで気分が高揚するのも理解できる。
しかし——
「なあ、リーナ。その気持ちは俺もよくわかる。でもそれで満足か?」
「え……?」
「確かに、俺はリーナの力を見抜くことはできた。でも皆……大多数の人々は知らない。これからも劣等紋だけでバカにし続けるだろう」
「それは……そうだと思います」
「だから、圧倒的な力を見せつけて、見返さないか? 時間はかかると思うが、さっきの受付嬢みたいに理解してくれるはずだ。工夫と努力次第で劣等紋は捨てたもんじゃないってな」
「それ、すごく素敵です! でも、どうすればいいんでしょう……」
「具体的にどうするかは俺に任せてくれ。リーナは俺と一緒についてきてくれればいい」
「わかりました! 頼もしいです……!」
キラキラした瞳が眩しすぎる……。
思いつきで言ってしまったが、俺にとってもリーナと出会って目標ができたのは良かったと思う。
パーティを追い出された時は、ずっと一人で細々と生きていくものだと思っていたからな……。
「じゃあ、明日に備えて早く寝ないとですね」
「そうだな。今日はリーナがベッドを使うといい。ゆっくり体を休めてくれ」
この部屋は最低ランクということで、部屋にベッドが一つしかない。
一応は二人寝られるくらいの大きさはあるのだが、さすがに同じベッドというのは憚られる。俺は床で毛布をかけて眠るとしよう。
「何を言っているのですか? ユージだって疲れているはずです!」
「それは……そうじゃないといえば嘘になるが……」
肉体的にもそうだし、色々と変化もあって心理的に疲れている。できればベッドでゆっくりと眠りたいというのが正直な心境ではある。
「一緒に寝ればいいんです。ほら、私小さいのでユージのスペースありますよ!」
「いや、あのなぁ……俺が何かするとかじゃないが、若い男女が同じベッドで夜を過ごすってのはいかがものかと思うぞ?」
「……? 何がダメなんでしょう?」
リーナは純粋無垢な瞳で俺を見つめて、首を傾げる。
本気でわかっていないみたいだ……。
やれやれ、これじゃあ気にしてる俺の方が変みたいじゃないか。確かに、リーナが他の男と寝るとなれば話は変わるが、今回は俺さえ何もしなければ問題ないことではある。
「じゃあ、お言葉に甘えて隣を失礼するよ」
今後、機会を作ってもう少し常識というものを色々教える必要はありそうだ。
とはいえ、疲れた身体に暖かいベッドはありがたい。幸せが染み渡る。
こうして、俺はリーナと同じベッドで夜を楽しんだ。
念のため断っておくが、決して何もしていない。
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