第9話:回復術師は報告する

 俺がサンヴィル村に帰還したのは、ギリギリ日が沈む前。


 冒険者ギルドの終業時間に合わせて戻ってきたのだ。

 依頼の報告期日までに討伐証明を持っていけば今日じゃなくても問題はない。


 ただ、一日でも早く報酬を受け取って金銭的に安心しておきたいので戻ってきた感じだ。


 実は昼頃には依頼を全て終えていたのだが、その後はリーナと一緒に狩りを続けていた。

 理由としては二つある。


 ・俺とリーナが相互に戦闘スタイルを共有するため

 ・討伐証明部位を多めに集めるため


 実は、依頼は一件ずつしか受けられないものの、サンヴィル丘陵の討伐依頼は常に募集されている。

 報酬単価が安いため冒険者に人気がない依頼なのだが、商人の通行路であることや比較的村に近いことから需要は高いのだ。


 今募集されている依頼数がどれだけあるかわからないが、その上限までは達成したことにしてくれるはずだ。


「それにしてもユージのアイテムボックスはすごいです……! こんなにいっぱい入るなんて」


「んー、まあ工夫次第で広げられるからな」


 俺は、討伐証明となる魔物の身体の一部を次々アイテムボックスに収納していた。

 それを見たリーナが驚いたのだが、普通のことだと思っていただけにここまで評価されるものなのかと意外な点だった。


 実は、前のパーティでは劣等紋だからと荷物持ちもさせられていた。

 しかし大量の荷物を全てアイテムボックスに入れておくことはできず、背中に背負わざるをえなかった。


 そうすると本職の回復術士としての能力を最大限発揮できないので、『拡張(ヒール)』でアイテムボックスの上限を大きくした。


 しかし俺が独学でできたことだから誰にでもできると思うが……。

 まあ、せっかく褒めてくれたんだ。素直に喜んでおくとしよう。


「やっと着いたな」


 冒険者ギルドの扉を開けると、ちょうど受付を閉めようとしているところだった。

 まだ15分前だぞ……。


 ルーズなギルド職員は『15分遅れて営業を開始し、15分早めに終業する』って噂を聞いたことがあったが、本当だったか……。


 まあいい。

 受付カウンターに歩いていく。


「あ、劣等も……じゃなくて、ユージさんですね。戦ってみて依頼をキャンセルしたくなったんですよね? わかります。ではこの紙にサインを——」


 受付嬢がわけのわからないことを言っているので、


 ドサドサドサドサ……!


 カウンターの上に、大量の討伐証明部位を乗せた。

 角や牙など、多分300体分はあるだろう。

 今回の依頼十回分に相当する。


「……ほげ!?」


 

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