第10話:回復術師は勘違いする

 驚き、目をパチパチさせる受付嬢。

 スーハースーハーと深呼吸し、俺を二度見した。


「な、なんですかこれは!?」


「討伐証明だけど……?」


 それ以外に何があるというのだろうか。

 面倒臭いコレクターみたいに人に見せびらかす趣味はないぞ。


「そんなことわかってます! そうではなく、この量です!」


「あ、もしかして少なかったのか……?」


 いくらなんでもサクサクと倒せすぎたもんなぁ。

 一人で依頼を受けたのが初めてだから、知らない間に討伐対象外の魔物ばかりと戦っていた可能性も考えられる。


 満遍なく倒してたはずなんだが、初心者が陥る罠なのかもしれない。

 などと思っていたのだが——


「多すぎって意味ですから! れっ……無の紋章がどうとか、そんな次元を超えています! いったいこの数をどうやって……まさか、証明素材を買いましたね!?」


「そんな金あったらこの依頼受けないよ……」


 金持ちが名誉のため手早く冒険者ランクを上げる際に討伐証明を購入するということはある。

 しかし当然依頼を受けるよりも割高で取引されるので、俺みたいな貧乏人がする意味はない。


「それもそうですよね……。ということはこの数を……無の紋章が本当に……ありえない……」


 一人でブツブツと呟く受付嬢。

 もうすぐ終業時間なのにこんなにゆっくりしていて良いのだろうか。


「それで、証明部位の数だけ依頼を達成したことにしてもらえるか?」


「あ、はい。それはもちろん……。ちょっとお待ちください」


 カウンターの下から書類を取り出し、書き込んでいく受付嬢。

 一分ほどで全て終えたらしく、金庫から今回の報酬を持ってきた。


「金貨7枚の依頼なので、10件達成で金貨70枚です。ご確認ください」


 俺はサッと金貨の数を数えた。

 お金は大切。たまにギルド職員が金額を間違えていることがあるので、確認は必須だ。


「問題ない、ちゃんと70枚ある」


 俺が答えると、受付嬢がほっと息を吐いたのが聞こえた。


「あの……」


「うん?」


 受付嬢が申し訳なさそうな目を俺に向けていた。

 ついさっきまで劣等紋だからとバカにしていたみたいなんだが、どういう風の吹き回しなんだろうか。


「その、紋章だけを見て失礼な対応をしてしまい申し訳ありません。まさかこんなに実力がある方だとは知らず……」


 冒険者ギルドは紋章で差別することはない。

 どこまでも実力主義であるが故に強い冒険者はどれだけ職員に不遜な態度を取ろうが大事にされるし、職員は冒険者に不快な思いをさせてはいけないのだ。


 逆に言えば劣等紋でなくとも結果を出せなければ扱いは同じだったりする。


 まあ、実際に劣等紋は俺やリーナみたいな例外を除けば戦闘には向いていないから、最初の受付嬢の態度は仕方がないと言えば仕方がない。


 イラッときたのは確かだけどな。


「知らなかったのは仕方がない。これから、劣等紋だからといって真価を見極める前に扱いに差をつけるのはやめてくれればいい」


「胸に刻みます……」

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