第4話:回復術師はワンパンする
◇
依頼のため俺がやってきたのは、サンヴィル丘陵。現在拠点にしているサンヴィル村から近い場所にある、なだらかな丘が並ぶソロ冒険者御用達の狩場だ。
ソロ向けと言っても、パーティ向けの強力な魔物も稀に現れるので注意が必要だが、見通しが良いので慣れていれば簡単に回避できる。
まばらに点在する牛のような魔物——アンテロープに狙いを定めた。
今日の依頼はこいつを三十匹倒すこと。報酬も割が良く一週間分の資金が手に入る。
回復術士はヒールに特化するので強力な攻撃スキルを持たない——とするのが通説だ。
だが、力がない代わりに頭を使い、必死に技術を磨いた。
『劣等紋だから仕方ない』を言い訳にしてこなかった。
回復魔法は、自然界の魔力を感じとる能力が人一倍必要だ。だから、『探知(ヒール)』ができる。
回復魔法は、患者に流れる魔力に干渉する。だから、『解析(ヒール)』ができる。
回復魔法は、超高度な魔力操作を必要とする。だから、『身体強化(ヒール)』ができる
背後から気付かれないようサッと近づき、短剣で——
ザクッ!
ということができる。
アンテロープを倒したら、討伐の証明のため角を回収する。この繰り返しだ。
初めてだったのでかなり慎重な立ち回りになったが、この手応えならもう少し肩の力を抜いてもなんとかなりそうだ。
ただし、これだけではアンテロープといえどソロでワンパンというのは難しい。
決定的だったのは、今から半年前——天の声が聞こえたことだ。
あの日から、回復魔法・攻撃魔法・身体能力ともに劇的に向上したのだ。
あの時は精神的にも肉体的にも参っていたからよく覚えていないが、言葉だけははっきり覚えている。
《回復術士から回復術師へクラスアップに成功しました! 成長限界が解除されました!》
その瞬間から魔力の質が明らかに変わったことがわかった。
回復魔法も格段に強力になり、あのパーティでは持て余すほどになっていた。
ゼネストが多少無茶な依頼を受けても、俺の回復魔法でサポートすることでクリアすることができるようになり、パーティはメキメキとランクを上げていったのだ。
それを、彼らは自らの実力が上がったのだと勘違いしてしまった。
俺の回復魔法が上達したことに、最後まで気づくことはなかった。
実のところ、あのパーティはBランク相当だ。俺が抜けてしまった後でどうなってしまうかを心配してもう少し残ろうと思っていたのだが……元気にやっているだろうか。
まあ、追い出されたパーティのことを思い出して黄昏れていても仕方ない。
俺は俺で、第二の人生を楽しく愉快に生きて行けばいいだけなんだからな!
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