第3話:回復術師は依頼を受ける
◇
翌日。
パーティを追い出された俺は所属なし——つまりソロ冒険者になった。
これまではパーティ所属の冒険者として活動していたから、組織から最低限の福利厚生が与えられていたのだが、ソロになった以上は宿泊費から移動費まで全てのことが自腹になる。
一応は退職金を貰えたわけだが——
「少ないな……。金貨に直すとたった三枚か」
ギルド規定の退職金がいくらということを知らなかったので袋の重みでそこそこの金額になるかと思ったのだが、金額はかなりしょっぱいものだった。
銅貨、銀貨、金貨の順に価値が高くなり、銅貨十枚→銀貨一枚。銀貨十枚→金貨一枚のレートで取引される。
たくさん入っていると思いきや銅貨と銀貨ばかりで、これじゃ三日で底を尽きそうだ。
「仕事しないとな……」
ということで訪れたのは、冒険者ギルド。既に昨日のうちにパーティの脱退処理は行われており、今日からソロで依頼を受けられるようになる。
掲示板に貼られているソロ向けの依頼書を確認して、めぼしいものを探していく。
高単価な依頼ならなんでもいい。
適当に選んで、受付へ持って行った。
「あの……紋章的に厳しいので止めた方が良いかと。採集の依頼とか、荷物運びの依頼もありますし」
「問題ない。受けさせてくれ」
「問題あるから言ってるんです。全くこれだから劣等紋……あっ、じゃなくて無の紋章は……」
ニヤニヤ笑いを堪える受付嬢。今までは自分で依頼なんて受けたことがなかったから気付かなかったが、ギルドですら差別されているのか……。
「命をかけるのは冒険者である俺だ。受けさせてくれ」
「まあ……そこまで言うなら発注しますけどね。……でも、恨まないでくださいね。劣等紋の、それも回復術士がソロで魔物と戦うなんて自殺行為ですから」
俺だって本当は一人で戦いたくなんかない。
でも今から地道にパーティメンバーを集めている余裕はないし、そもそも劣等紋であると言うだけで加入を渋られることがほとんどだ。
「おい、あいつ劣等紋だってよ」
「うえっ、一緒の空間にいたら劣等紋が感染る!」
「なにそれ怖ーい」
俺と受付嬢の会話を聞いていた周りの冒険者がヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。
……劣等紋はウイルス扱いかよ。
まあ、見知らぬ他人にどんなことを言われようとノーダメージだけどな。
俺は、濁った空気を入れ替えるような気持ちでギルドの出口扉を開いた。
冒険者は実力主義。
残念ながら元パーティメンバーは誰一人として俺の実力を見抜けなかったようだが、実は秘密にしていたことがある。
まだ誰も知らない。
劣等紋は、とんでもない力を秘めていたということを——
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