第十八話『宵の護衛 II』
……山手線で人身事故が起きた事を知ってから数分後。
俺達はタクシー乗り場やバス停に並んでいる大勢の客達を眺めながら、小田急新宿駅近くのベンチに座って途方に暮れていた。
「……」
特に飯田さんは先程に続き、もうすぐ世界が終わるような表情をしており、全身の力を抜いて座っている姿と、ぽかんと口を開けているその姿は……ちーんという仏壇とかに置いてあるりんの効果音が似合う様をしていた。
……一方の俺は、そのような彼女に何という言葉をかけたらいいのかが分からずにいた。
「さようなら……私のお風呂……私のベッド……」
「飯田さん、ついてないですね……」
「……」
「……これからどうされるんですか?」
「……とりあえず家に連絡入れなきゃ」
俺からの質問に、飯田さんは今にも消えてしまいそうな微かな声でそのように答えた。
飯田さんはリュックサックからアイフォンを出すと、表情や視点を何一つ変えずに、画面中央に出ているキーボードへと飯田家らしき電話番号を入れた後に耳元に当てた。
しかし……十コール目を迎えても、自宅にいるはずの誰かが、その電話に出る様子は無い。
「……まだ誰も帰ってきてないのかしら」
……すると飯田さんはラインのアプリを開き、『M31♡』と書かれてある連絡先をタップして、そこから受話器のマークをタップした後……再度アイフォンを耳元に当てた。
ラインの着信音が鳴り、それはものの数秒経った後に鳴り止んだ。
『……何?』
「もしもし?」
誰かが電話に出た瞬間に、彼女達の会話を聞こうと、俺は耳を澄ました。
飯田さんの電話に出た不機嫌そうな声の主……その声は若く、彼女が飯田さんの言う妹であるのだろうか。
『……何か用?』
「あんた今どこいんの?」
『……彼氏の家』
「何あんた、こんな時間までその人の家に居るって事は今日は家に帰んないつもり?」
『うん、泊まってく……用はそれだけ?』
「私まだ新宿にいんだけどさ、今電車が止まってて家に帰れないんだわ」
『……ふーん、ドンマイじゃん』
「今日は帰れないけど……泊まるって事はご飯はいらない訳ね?」
『うん、これから彼氏とマック行くし』
「分かったわ……あと舞依は?」
『あいつも彼氏の家に泊まってると思う』
「そう……あとするんだったら、ちゃんと対策しときなさいよ?」
『するって、別に今日はそんな事やるつもりないんだけど……まぁいいや。彼氏呼んでるし、そろそろ切るよ』
俺の方をチラッと見ながらも、何やら気になる会話があったような気がしたが……それから飯田さんはアイフォンの電源を切り、リュックサックに戻した後に、何かに安心したかのように溜息をついた。
「……今誰とお話していたのですか?」
「妹よ、今は家にはいなくて……姉貴の方も妹の方も、彼氏の家に泊まってるみたい」
「ああ、双子なんでしたね」
「そうよ」
「おいくつですか?」
「二人共今は高二だから……十六歳ね」
そう答えながら飯田さんはベンチから立ち上がり、星が見えない都会の夜空に向かって、腕を上げて思い切り伸びをした。
「どこに行くんですか?」
「……とりあえず歌舞伎町に戻りましょ、今夜の宿探しよ」
「カラオケとか満喫とかですか?」
「そんな高いところ泊まれないわ……頼みたくないけど、一応泊まる宛はあるから」
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「ええっ!? なーなお家に帰れなくなっちゃったのぜ!?」
「……そうよ」
……その後、飯田さんと俺は予定通りに黒百合に行く事にして、飯田さんは黒百合に逃げ込んだ先で、真緒さん達に先程の事について報告していた。
「ふむ……まさか今度は小田急が人身事故とはな」
「……ええ、しかも今日のは運転見合わせよ。 いつもの遅延とは規模も全然違うわ」
「勉強しないといけない時に限って、お家に帰れないのは……辛い……」
「勉強出来ないのは別にいいんだけど……お風呂に入れないっていうのが、一番辛いわ」
テーブルに項垂れている、その時の飯田さんは明らかに元気が無かった。
原因は勿論、電車が動かずに新宿区内に閉じ込められてしまった事だろう。
……しかし、駅前にもいた客のように、いくら駅員に対して罵詈雑言を浴びせても、電車が来る事は決して無い。
それに原因は駅員では無く、小田急線にて人身事故を起こした者が悪いのだから。
ならばその引き金を引いた者に文句を言いたい所だが……その者はもう恐らくこの世にはいない。
死ねと言い放ってやりたいが、その者は既に死んでしまっているという……何も言い返せない理不尽さに飯田さんも相当堪えていたのだろう。
「まぁ色々と大変だったでしょう、これは家からのサービスよぉ」
「ああ……すみません、ありがとうございます」
ブルヘッドさんもそんな飯田さんの状況を察していたのか、クリームソーダを彼女に無料で提供してやっていた。
「……そこでほんっとに申し訳無いんですけど」
「……?」
「誰か……私をお家に一晩だけ泊めてください!」
「ええっ!?」
唐突に話を切り替えた飯田さん。
彼女はプライドを捨てるが如く床に座り込むと、そのまま真緒さん達に向かって土下座をしていた。
「おおっ……これが本物の土下座なのぜか……」
「わわわ、分かったから一旦席に座って?」
「凪奈子ちゃん、床は汚いわ……」
「ふむ……土下座がしたくなるぐらいに参っているという事だな」
「うう……」
彼女自身、強気な性格な反面に優しい性格だ。
家無し住所無しの瀬名さんでさえ、誰かの家に宿泊する事を頼み込んだ事は一度も無い。
真緒さん達に会いに来たのもそうだが、ここに来たのは誰かの家に泊めさせて貰いたいからというのが一番の目的。
それを皆に思われていそうなのが嫌なのか、飯田さんは土下座までした癖に申し訳なさそうな表情をしていた。
「……だが問題は、どこの家に泊めさせるかだよな」
「私の所は平気だぞ、生憎晩飯といった持て成しは出来ないがな」
「私達の家も、全然おっけーよぉ」
「あたいも全然おっけーなのぜ!」
「悪いわねひとみ、私あんまりお金持ってないから……」
「大丈夫なのぜ! あたいが泊まってるとこ、ペアで泊まれば一人分のお金が安く済むのぜ!」
「あらそうなの……どうしようかしら」
どちらかと言えば瀬名さんも、泊まってるというよりは漫喫に泊めさせて貰っている側だが……彼女も飯田さんとの宿泊を、心より歓迎していた。
そんな瀬名さんも含めて、真緒さん達は凪奈子を見つめて彼女からの返答を待っている。
「仁藤の所はどうなのだ?」
「申し訳ないのですがお断りさせて頂きます……俺以外にも泊まってる方々がいらっしゃるので」
「……」
無言になりながら腕を組み、遂に本格的に思考し始めた飯田さん。
「……それならぁ、三人でジャンケンして勝った人がなーなを泊めるっていうのはどう?」
その様を見兼ねて、ブルヘッドさんは真緒さんと長内さんと瀬名さんにそのような提案を出した。
「ふむ、その決め方が一番手っ取り早いか」
「ちーちー! 貴方が代表していきなさい!」
「分かったわ……」
「なーなはあたいが頂くのぜ!」
「ちょっと私は物じゃな……いや何でもないわ、お願いします……」
「それじゃあ行くわよぉ」
「「「じゃーんけーん……」」」
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「……さて、着いたぞ」
「……結構普通のアパートに住んでんのねあんた」
「あまり高い場所にも泊まれないしな……面白い物は何も無いが、それでもいいなら上がってくれ」
「……お邪魔します」
……そうしてジャンケンの結果、一発で一人勝ちした真緒さんが飯田さんを泊めるという事になった。
現在、真緒さんは飯田さんをアパートまで案内し、部屋に入れて自身の荷物を置かせていた。
「部屋の中綺麗なのぜな〜」
「真緒ちゃんのお家……いい匂いがする……」
「全然変わってないですね」
……一方、俺は長内さんと瀬名さんとで、玄関にて真緒さん宅の室内を覗き込んでいた。
「こらお前達、人の部屋はそうまじまじと見る物では無いぞ」
「……特に仁藤、男であるお前はな」
「やまちゃんエッチなのぜ!」
「仁藤くんのエッチ……」
「貴方達も女性だからって、覗いていいという訳では無いと思いますが……」
真緒さん宅に飯田さんが泊まる事が決まった後、真緒さんと一緒になって指摘をしてきた長内さんと瀬名さん。
……そして俺も一緒に着いてきているのは何故か。
「何か持って行く物は無いか?」
「ん〜、財布ぐらいでいいんじゃないかしら」
「着替えはどうする?」
「最悪下着はドンキで買うわ」
「そうか……ではシャツとジャージぐらいなら貸してやろう」
「悪いわね」
そのような会話をしながら家の外に出てきた真緒さんと飯田さん。
「にしても皆でお風呂に行くなんて久しぶりなのぜな〜!」
「皆でお風呂に行くのはいいけど……私も一緒に来て良かったのかしら……まだお仕事中だったのに……」
長内さんは不安そうな表情を浮かべていたが、オーナーであるブルヘッドさんの方は、喜んで彼女が皆と一緒に出掛ける事を勧めていた。
……その行き先とは、かつて瀬名さんと初めて会った時に皆で行った銭湯。
長内さんも瀬名さんも、自身の着替えやタオルが入った袋を持参して来ている。
「ブルヘッドさんが許可したのであれば良いと思いますよ」
「うん……」
「それで、どこのお風呂に行くのだ?」
「銭湯なのぜ!」
「ふむ、銭湯か……ここら辺でそんな場所などあったか?」
「結構目立たない場所にあるので、分かりずらいんですよね」
「じゃあ早速銭湯に行くのぜーっ!」
「……あの〜、その前に下着を買う為にドンキに行きたいのですが」
「そうだったな、ではまずドンキからだ」
そして謙虚そうにしている飯田さんの要望で、セントラルロードのドンキホーテへと向かう。
……そうして着いた女性用下着コーナー。
棚には色とりどりの色々な大きさのブラジャーがあり、男が一切近寄ってはいけないような雰囲気を醸し出していた。
あまりその方を直視しないよう、彼女達が下着を選んでいる間、俺は反対側にあった化粧品のコーナーを見ているフリをする事にした。
「おお〜、いっぱいあるのぜな〜」
「仁藤くん……化粧品が欲しいの……?」
「……いや、そういう訳では無いのですが」
「さぁどれにするんだ凪奈子」
「どれにするって言っても……一番安い奴でいいけど」
「これとかどうなのぜ!」
「たっか……そんなに金使うんだったらホテルで泊まるわ」
「これは……?」
「それは……私には少し大き過ぎるかな」
「どうした仁藤、そんなに離れて……お前もこちらに来ても良いのだぞ?」
「いや俺は……」
ブラジャーの厳選という、女子にしか出来ない会話で盛り上がり、その会話を聞いている今の俺は不審者のようになった気がしてならない。
気がつけば俺の周りには女性の客しかいない……その者達から、男の侵入者だとして睨みつけられているような気もした。
……逆に飯田さん達によそよそしくせずに、彼女達と一緒にいた方が安全だという事か。
「……それで、何にするのか決まりましたか?」
「うむ、これにするそうだ」
「!?」
「ちょっ、見せんじゃないわよ!」
「でも、あんまり可愛く無いのぜな〜」
「スポーツで使う物だから……」
「良いのよ、可愛いやつは高いんだし」
「決まったのですね、ではとっとと行きましょう」
「あっ、待ってなのぜよ〜」
結果が出たと分かってからすぐに、下着コーナーから避難するようにレジへと向かう。
「あっ、やまちゃんあそこにいたのぜ!」
「ふふっ、凪奈子がつける下着を見たのがそんなに嫌だったか」
「……嫌か嫌じゃないか以前の問題だと思います」
「真緒……あんた後で覚えときなさいよ」
「ふぅ……ふぅ……やっと、追いついた……」
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……その後、俺達は銭湯に到着し、女子四人と番台で別れて、俺は男湯に入った。
初めて来た時は貸切状態だったが、今日はスーパー銭湯に立ち入る事が禁じられている、背中に刺青を背負った男の客達が数人利用していた。
その者達に構う事無く、俺も洗い場に行き髪の毛や体をさっと洗い流す。
そうして体から一切の垢を洗い落とした後……
「……ふぅ」
今日一日中で蓄積してきた足の痛みを、同じく溜まりに溜まった疲れと共に癒していくのであった。
「……あぁ〜」
……天井から少しだけ隙間がある壁を隔てた向こう側からも、飯田さん達の物と思われる気の抜けた声が聞こえてきた。
彼女達も、それぞれが日中で過ごしてきた疲れを銭湯の効能によって癒されているようであった。
「……ふむ、いい湯だ。湯船に浸かるなど何日ぶりだろうか」
「えっ、まおまおお風呂入ってないのぜ?」
「その言い方だと語弊があるが……風呂に入る時は、いつもシャワーしか浴びないからな」
「私もそう……」
「ああ! それならあたいもそうなのぜ!」
「ふぅ……仕事帰りに外でお風呂だなんて……凄い贅沢だけど気持ちいいわね」
……特に中でも一番疲れているのは飯田さんであろう。
勉強で頭を使い、仕事で体を使い、おまけに家にも帰れないという精神的ダメージ……風呂に入って疲れを癒さなければ、疲労が溜まりすぎてパンクしていた事だろう。
「やまちゃーん、いるのぜー?」
「はい、いますよ」
「そういえばお風呂に入ったまま……壁で見えないのに、男の人とお話してるって……何だか不思議……」
「壁よじ登って、こっち覗いたりしないでよ?」
「する訳無いでしょうそんな事……」
「もしそうなったら私が逮捕してやるから安心しろ」
「だからしませんって」
「ふふふ……」
……だが飯田さんはその冗談を言える程に、まだ心の中には余裕が残されているようであった。
彼女の笑い声を聞いたのは、新宿駅に着いてから人身事故が起きたという事を知ってからの数十分ぶりの事であった。
「……しかしこの後はどうする気だ凪奈子、家に帰れないとなると私の家で勉強をするつもりか?」
「今日はいいや、皆のお陰でお昼に散々勉強したし……明日も仕事がある分、今日はゆっくり休ませて貰うわ」
「それが良かろう」
「学校は、無いの……?」
「ええお休みよ、だから仕事が始まる夕方までは暇になっちゃうわね……」
「だったら明日、あたいと遊ぼうなのぜ!」
「遊ぶのもいいけど、勉強もしたいし……そうだ。 あんた明日暇なら、一緒に大学行きましょ」
「なーなの大学なのぜ!? 行くのぜ〜」
既に瀬名さんと一緒に、大学に勉強をしに行くという予定を立てている飯田さん。
誰の許可も得ずに、色々な所に出掛けられて羨ましい限りだ。
「……でも、大学の生徒じゃないあたいが、なーなの大学に行ってもいいのぜ?」
「別に大丈夫でしょ、生徒の私が許可してるんだから入ってもいいわ」
「やったのぜ〜!」
「……なんだその滅茶苦茶な理論は」
「凪奈子ちゃんが通ってる大学って……どんな所……?」
「えっ、そうね……」
長内さんからの質問に、飯田さんは無言になって考え始めた。
壁で向こう側は見えないが、そんな飯田さんを眠たそうな目でじっと見つめている長内さんとの光景が、何となく想像出来た。
「……私達と同い歳ぐらいの人達が、いっぱいいるかな」
「そうなんだ……」
「そんなの学校なのだから当たり前では無いか」
「うっさいわねぇ、それぐらいしか思いつかなかったのよ!」
「でも周りに、同い歳の人達が沢山いるって……新鮮……」
「確かに歌舞伎町に住んでると、周りにはあたいらよりも歳上の人達しかいないのぜな」
「歌舞伎町に子供が普段から来る事など、滅多に無いからな」
「まぁ私達、まだ全員子供だけどね」
長内さんと瀬名さんが今まで抱いてきた感覚に、疲れでうとうととしながらもその事実に気付かされる。
思えば俺の周りにいる同い歳ぐらいの男といえば武蔵さんのみ。
……それ以外は田町駅に行った時以来は見ていない。
「……しかしこうして見ると」
「真緒ちゃん……?」
「まおまお……どうしたのぜ?」
「あんた……どこ見てんのよ!」
「……皆、身体の方はもう子供では無いのだな」
「……は?」
真緒さんのその直球な指摘に、彼女がロイヤルメイデンにて飯田さんの胸を揉んでいた時の事を思い出す。
そういえばかつての飯田さんは、真緒さんは挨拶代わりに自分の身体を触ってくる変態のような事を言っていた……何だかまた嫌な予感がする。
「大きさで言うと……千夜、凪奈子、ひとみの順番だな」
「酷いのぜ! 気にしてるのに……でもこの中だと、確かにちーちーが一番大きいのぜな……」
「二人ともえっち……でも、大きいのは大きいので、色々と大変……」
「分かるわ、肩とかすぐ凝るわよね」
「分かるぞ、ワンピースとか着ると太って見えてしまう所とかな」
「あたいには分かんないのぜーっ!」
逃げろ逃げろ。
お互いが裸でいる為に、すぐに胸の話題になっては仕方が無いとはいえ、こうなってしまったら男の俺にはどうする事も出来ない。
こういうのは皆の会話を耳に入れず、とっとと風呂から出てしまうのが正解だ。
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……その後。
「うっわー、さみーのぜなーっ」
「これじゃあお家着く前に、湯冷めしちゃうわ……」
五月の冬はまだまだ寒い夜もあり、その風に当たりながら俺達は飯田さんを真緒さん宅へと送っていた。
「それならとっとと家に帰ればいいのに、仁藤くんも千夜もひとみも、私なんか送ってくれなくても別にいいのよ?」
「なーながこんなに遅い時間まで歌舞伎町にいるのはレアなのぜ、だから出来るだけ一緒にいたいのぜ〜」
「私も、皆といた方が楽しいから……」
「俺はただの暇潰しです」
「あらそう……それならそれでいいけど」
そう言って飯田さんはそっぽを向いて、照れる様子を見せながら真緒さん宅の扉を開けた。
「早く閉めろ凪奈子、外からの風が入ってきて寒いのだ」
「分かってるわよ」
「明日は、ちゃんとお家に帰れるといいわね……」
「ええ、何が何でも絶対に家に帰るわ」
「もしそれで電車が止まったら、次はあたいと一緒にお泊まりするのぜ!」
「家に帰らないのが二日も続くなんて、縁起でも無い事言わないで頂戴」
「……では、また明日」
「ええ、皆付き合ってくれてありがとね」
「皆気をつけて家に帰るのだぞ」
そうして真緒さんと飯田さんに別れを告げて、真緒さん宅を後にした俺達……
取り敢えずこれで飯田さんの心配はいらなくなった。
……後は長内さんと瀬名さんを家に送り届ければ、俺の一日は終わりだ。
「……そういえばまだ晩御飯食べてなかったのぜな」
「じゃあ、今からお店で食べてく……?」
「おっ、いいのぜな!」
「仁藤くんも、来る……?」
「はい、勿論」
「どうせならまおまおとなーなとも、ご飯食べたかったのぜな〜」
「あのお二人はお二人で、ご飯を済ませると思いますよ」
……午前零時が過ぎて、今日は土曜日だ。
今日の仕事が終われば、晴れて日曜日と共に休日を迎える。
それからゴールデンウィーク……シフト制の俺には関係が無いが、その大型連休も既に始まっている。
明日からも歩き過ぎて、足の骨が折れない程度には頑張って働いていこう。
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