第十三話『決戦?』

「……じゃあお互い頑張ろうね」


「はい、ここまでありがとうございました……」


「ふふっ、でも真緒ちゃんを助け終わってからが本番みたいなものだからね、最後まで気を抜いちゃダメだよ」


「それは勿論です」


「それじゃあ健闘を祈るよ」


武蔵さんは俺に指を振ると、猫のような身軽さで付近にあったフェンスを乗り越えたり掴んだりしながら、あっという間に上へと昇って行った。


……あれから俺達は目的地であった建物を周回して、そこからの侵入に成功していた。


その建物は三階建て、武蔵さんは一気に三階まで昇って行ったので一番上から部屋を潰していくつもりなのだろう。


ならば俺は一階から調べていけという事なのか。


早速行動に移す為、人の気配を感じていつでも隠れられる体制を取りつつ、一歩ずつ前に進んでいく……


建物内は広い廊下の両壁に扉がいくつも並んでいる。


まるで学校か病院のような場所だ。


「さっきの女以外で侵入者は見つかったか?」


「いや、今の所はねえわ」


「そうか……引き続き警戒しろ」


足音や気配を感じる前に、付近の扉の中に入って身を潜める。


皆で皇組の相手をする為に総動員で動いているのか、扉から見える室内の明かりはどこも暗く、廊下以外にいる人の気配がしない。


大事な物を守っている割には監視が手薄すぎる。


真緒さんがこの建物内に連れて込まれているのなら、会話ぐらいは聞こえてきてもいい筈なのだが……


「……!」


そうして周囲を見渡して物陰に隠れながら進んでいると、俺達が入ってきた時に見つけた物とは違う階段を発見した。


……だが先程と違うのは、そちらの方は地下まで通じる階段もあったという事だ。


二階は武蔵さんに任せ、地上の光が届かない地下への階段を一段ずつ降りて行く……


敵に見つかってしまう可能性もあるので、当然懐中電灯など点けられない。


「……」


そうしてやって来たのは、薄暗い研究所のような場所。


ここで薬は作られているというのか……機械やら得体の知れない物が置いてある所から、ホラー映画で今すぐにでもゾンビが現われそうな不気味さのある場所だ。


「……にしても大丈夫なのかあれ」


……だが隠れられる箇所は増えた、引き続き建物内にいる奴等に見つからないようにして先に進む。


「あいつの帝って苗字、あの帝組の帝だろ? そんな奴に手出して大丈夫なのかよ」


「ここから逃がさない限りは大丈夫だろ……帝の奴等も襲撃しに来たら、最悪あいつを人質にすればいいだけの話だ」


「結構いい身体してたよな……あいつらが羨ましいぜ」


「後でこっちにもマワしてくんねえかな」


男達はそのような会話をしながら、俺が隠れている山積みになったダンボールの前を通り過ぎて行った。


……真緒さんが危ない。


しかし、彼女が捕まると分かって正面から突っ込んで行く程に無鉄砲な人間だとは思えない。


真緒さんの事だから、中に入る為にわざと捕まったかのように思える。


「……」


……やがて進んでいく度に、奥の方から会話が聞こえてくるようになってきた。


数人の男の声と……恐らく真緒さんである女性の声。


彼女側から悲鳴は聞こえておらず、乱暴な事はまだされていないようだ。


「……くっ」


……いた。


真緒さんはパイプ椅子に座らされていて、手や足が縄で縛られていた状態で男達に囲まれていた。


「ふっ……帝組の娘がいい格好だなぁ」


「はぁ、はぁ……」


「だがそんな奴が警察だったとはなぁ……ここには帝組として俺達を潰しに来たのか? それとも警察として俺達をパクりに来たのか?」


「……そんな事、貴様らに教えてやる必要などない」


「いいねぇそういう反抗的な態度、犯し甲斐があるよ〜」


「触るな……!」


鋭い眼光で男達を睨みつけている真緒さんだったが、手足を縛られているので何も出来ず、一番近くにいた男に頭を撫でられていた。


……本当に嫌がって怒っているのかは分からないが、それにしても真緒さんの顔が赤い。


「ふふっ……帝のお嬢さんは胸もデケえなぁ」


「触るなと言っている……!」


男の手が首、肩、腕……と徐々に下に下がって行き、次は胸に行こうとしている。


……真緒さんの嬲られ様を、このまま呑気に見ている場合では無い。


彼女が汚される前にとっとと助け出してしまおう。


「……!」


男達が全員真緒さんの方を向いている事を改めて確認して、隙を見て男達の後ろに飛び出す。


「うぐっ!」


「何だお前!?」


腹。


「ぐっ!?」


鳩尾。


「がはっ!?」


腹。


「うおっ!?」


鼻。


「ぶっ!?」


腹。


「ぐっ……」


最初の一人を倒して、男達が俺の方に気がついても、拳を出される前に先制を取れればこちらの物だ。


人間の急所は全て身体の真ん中に位置する場所にある……そこを攻撃すれば、案外人は一撃で行動不能にする事が可能だ。


真緒さんの周りにいた合計六人……不意打ちとは卑怯な手口だが、何とか真緒さんの胸までは触られる前に男達を全て倒す事が出来た。


「ぐっ……」


最後の一人が俺の前で倒れた事により、男の身体で見えなかった真緒さんとの数十分ぶりの再開を果たす。


「はぁ、はぁ……」


……しかし真緒さんはこちらに目を合わせる事無く、身体を触られたストレスで疲労していたのか、下を俯いて肩を上下させながら息を上げていた。


「真緒さん……?」


「……ああ、仁藤か」


「……!?」


真緒さんの名前を呼び、顔を上げさせると……彼女はサウナの中にいるように汗を流しながら顔を真っ赤に染めていた。


「お前も……ここに来ると思っていたぞ」


「真緒さん……大丈夫ですか、顔真っ赤ですよ!?」


「大、丈夫……だ、少々風邪気味なだけだ」


「風邪って……さっきお会いしたばかりなのに、いきなり悪化する事なんて無いでしょう……!」


「とにかく気にするな……そうか、私を助けてくれたのだな」


「あえて捕まった後で、中で大暴れしてやろうと思ったのだが……建物に入った瞬間にあの男達に薬で眠らされてしまってな、そう簡単に思った通りにはいかないという事だな」


「いえ……」


「……すまぬが、この縄を解いてくれないか?」


「あぁ、はい……」


再開した瞬間に、俺の軽はずみな決断のせいで、先程の斬江に腹蹴りされてしまった事について謝ろうと思ったのに……その機会を逃してしまった。


「はぁ、はぁ……男達も女相手に縛った状態で無ければ手出しが出来ないとは、臆病な奴等だ」


……おまけに今の真緒さんはこのような状態だ。


既に拷問か性的な事でもされたのかと思いきや、真緒さんのスーツには埃一つ付いておらず、服を脱がされていなければ乱暴にされた形跡も無い。


「ぐっ……」


「危ない……!」


……だが精神状態としては、縄を解かれて立ち上がろうとした瞬間に、膝から崩れ落ちてしまうぐらいの状態だ。


「本当に何があったんですか……」


「くっ、分からん……」


「ふっ……そろそろ薬が効いてきたみてえだな……」


真緒さんを立たせようとすると、男の中で一人だけ意識を落とせ切れなかった奴がいたのか、這いつくばった状態でこちらを睨みつけていた。


「それにテメェ……その代紋皇組の奴だな」


「……薬とは何の事ですか」


「その女にはヤクを投与した……今のそいつはウサギ並の性欲に身体が支配されてる状態だ」


「ふむ、そういう事か……んっ」


男からの申告を聞いて、喘いでるような息を漏らした真緒さんの首元をよく見ると、蚊に刺されたような跡が出来ていた。


「そんな……一体何の為に!?」


「んなの決まってんだろ、媚薬の実験と……あと最高に発情させた状態でヤリたかったからだ」


「お前らガキ二人だけで、この後どうするかは勝手だが……お前にとってその女はお荷物になっちまうだ」


「……ふんっ!!」


「がっ」


……と、男の話を聞いていると、後ろにいた真緒さんがパイプ椅子を男の方に投げた事により、男は言葉を言い終える前に今度こそ気を失ってしまった。


「愚かな連中だ……行為とは本番の前に男が愛撫して女を徐々に濡らしていく物なのに、それを薬の力に頼るとは」


「そこですか……あとすみません真緒さん、あの方からもう少しだけ情報を聞き出したかったです」


「すまない……だがあの男が私の事を舐め回すように見ていた視線に、あまりにも耐えきれなかったのでな」


「……お気持ちはお察しします。 あと本当にお身体は大丈夫ですか?」


「気にするなと言っているだろう……別に死ぬ訳では無いのだ。 あいつは私をお荷物だと言ったが、私は十分に戦えるぞ……」


……だが今の真緒さんは依然として調子が悪そうで、まるで風邪を引いているのにテストがあるから無理して学校に来た学生のような様だ。


「分かりました……もう無理だと思ったら、いつでも俺に言ってください」


「それは無いから安心しろ……それよりもお前を……んっ、連れて行きたい場所がある」


「……何処ですか?」


「この建物の屋上だ……先程ここに連れて来られる前に、外から屋上で取引のような物を目撃した」


「取引相手は外国人……恐らくそこに、ここの連中の親玉がいる」


「今からそいつの事を捕まえに行って、色々と情報を吐き出させるぞ」


「……分かりました」


……その時。


「……!?」


爆発音のような大きな音が地上から流れてきて、それと共に俺達のいる地下の空間内が揺れて、天井から砂のような物が落ちてきた。


「……騒がしくなってきたな、やっと援護が来たか」


「真緒さん……本当に一人で乗り込んで来たんですか?」


「ああ、警察署に戻った時に本部の連中から出動の許可は貰えたのだが……援護が来る前に、私一人だけで先に潜入をしたという事だ」


「どうして……!? 警察の方達と一緒に来れば、その分安全だったではないですか……」


「それではお前と別れた時に、子供同士の喧嘩で一人では勝てなかったからと言って、兄貴に助けを呼びに行った弱い奴みたいに思われてしまうだろう?」


「そんな事、思ってないですよ……前から思ってたんですけど、真緒さんってどれだけプライドが高いんですか……」


「ふっ……まぁ結果的にお前には迷惑を掛けてしまったな、それだけは申し訳なかった」


色々と考えていた訳ではなく、実は真緒さんは自分の安全よりも自尊心の方を優先する馬鹿だと思いきや……自分にとって何がいけなかったのかという反省点も理解していた。


空回りしている気がするが正義感も強く、それと同じくらいにプライドも強い真緒さん……


それに対してウザったく思う事を止めてしまうぐらいの、人の事を気遣える優しさも持っている彼女の事が、俺はよく分からない。


「それは、構いません……真緒さんが無事なら俺は大丈夫です」


「ん、何だそれは……私に対しての告白か?」


「真緒さん……? 何を仰っているのですか」


「……何でも無い忘れろ、すまん今は頭が回っていなくてな、言葉選びには気をつける」


「とにかく今は外に出よう、私も上で暴れている奴等の援護をしたい」


「……と言っても、援護に来た奴等が私達警察だとは限らんがな」


「……俺達皇組の可能性もありますね」


「ああ……どちらにせよ、早く顔を合わせなければまずいだろう? 」


「……そうですね」


「……行こう」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


……とうとう地下から人の気配が消えた。


元々ここにいた者達は、皇組か警察か分からない襲撃者の相手をする為に、皆地上へと上がって行ったのだろう。


誰もいなければ容易に先程の階段まで戻る事が出来そうだが……そういう訳にもいかないようだ。


「はぁ……はぁ……」


……真緒さんの進むペースが遅い。


先程から壁に寄りかかった状態でちまちまと歩き、身体を重そうにして両足を引き摺りながら前へと進んでいる。


しかも内股で腰を曲げており、局部に手を当てて震えている様はとても苦しそうだ。


ただトイレを我慢しているようにも見えるが……そういう訳では無いのだろう。


彼女の元に引き返し、地下に戻ってきた者達に見つからないよう、死角の多い場所に真緒さんを寄せて座らせる。


「すまない、仁藤……結局、私はお前のお荷物となってしまっているな……」


「いえ、大丈夫です……一階の事は一階にいる方達に任せて、体を無理させないで俺達はゆっくり進みましょう……」


「……最悪私は置いていけ。 これではまるで、私が介護をされているみたいで好かんのだ」


「……それでは俺が貴女を助けた意味が無いではないですか。 それに、今の貴女を置いていく事なんて出来ません」


「組からの命令よりも私を助けるのを優先したという事か……愚かな奴め」


はぁはぁと息を上げて、物陰に隠れているので薄暗くても、はっきりと映っている真緒さんの染まっている頬。


汗を流しながら細目でこちらを見ている真緒さんの事を、少しだけ性的な目で見てしまう。


「貴女は無鉄砲な所があるので……いつか手遅れになる前に、誰かが止める必要があったと思っただけです」


「……言ってくれる」


ここで何か言い返して来るのかと思いきや、真緒さんは俺が言った事を認めるように、目を閉じながらふっと笑った。


「……それに、プライドも高い真緒さんが、誰かに乱暴な事をされている所なんて見たくない」


壁に寄りかかり、楽な姿勢で座った真緒さんを見て、俺も胡座をかきながら話を進める。


……今この地下にいるのは、俺と真緒さんの二人きり。


上にいる者達は、それぞれの目的を果たす為に血と汗を流している。


そして今もスーツの内ポケットに隠されているピンマイクから、斬江に会話を聞かれている筈なのにも関わらず……


この時だけにしか……この時だからこそ、今の話を真緒さんに伝えなければならない気がした。


「仁藤……?」


「……俺にとって、真緒さんはいつでも高いプライドに見合った、正義感も格闘も何もかもが強い真緒さんでいて欲しいんです」


「もし真緒さんでも勝てない相手がいたら、倒されてしまう前に、先程みたいに俺が貴女を守ります」


「だから……真緒さんは、いつまでも俺にとっての憧れの先輩でいてください」


「ほう……?」


……流石に言い過ぎたか。


向こうが下手に出たのをいい事に、真緒さんの本当の気持ちも知らずに、本人の前で俺にとっての真緒さんの偶像を口に出してしまった。


ただでさえ赤い彼女の頬が、みるみる内に耳の方まで染まっていく……


「その……プライドが高いというのは褒め言葉なのか?」


「はい、一応……」


「そ、そうか……お前は、私の事をそのように思っていたのだな」


「……少し言い過ぎました、すみません」


「いや良い……だが私をそう思うまでに親しくしてくれた男は、お前が初めてだ」


「そうなんですか……?」


「ああ、私が極道の娘だからと言って警戒する者も多くてな……」


「きっと何か騙されるとでも思っていたのだろう……だから今までの私には、彼氏は疎か男の友人もいなかったのだ」


「……とはいえ女の方の親しい友人も、凪奈子か仙崎ぐらいしかいないがな」


真緒さんにとっての初めての男友達がこの俺……?


本当は休憩などしている場合では無く、一刻も早く外に出なければならないのに、好意を感じるような真緒さんの言葉に気が揺らいでしまう。


「……実は最初、俺も帝組の娘だからと言って、貴女の事を警戒していた部分もありました」


「……敵組の娘であれば尚更であろうな」


「ですがお話していく中で、貴女は帝組に入っていないどころか、ご両親に頼ろうとせずに歌舞伎町で生活しようとしているのだと分かったので……もう大丈夫だと思います」


「……ほう」


「それに俺の方も、実質子供の頃から極道の中で育った身でもあるので……」


「同じような境遇を持った者同士、俺達はもっと仲良くなれると思いま……」


そう言いながら真緒さんの方を向いた瞬間……


何か温かい……柔らかい物が俺の唇に触れている感覚を覚えた。


「……」


先程まで俺の横で座っていた筈の真緒さんは、俺の体に肩で寄りかかりながら顔を接近させている。


熱が篭った彼女の頬は、地下の冷たさで冷えていた俺の頬も火照らせるぐらいに温かかった。


「んっ……」


そして彼女にキスをされたと理解したのは、最初の唇の感覚から数秒後の事であった。


「な、何を……!?」


なるべく見ないようにしていた彼女の方を折角向けたのに……真緒さんから離れて、自身の照れている気持ち悪い表情を見せないようにと、彼女から再び顔を背ける。


「……お前が、いけないのだ」


「えっ……」


……恐る恐る真緒さんの方を向く。


「私は今このような状態なのに……私の事を惚れさせるような事を言うから……」


内股で座りながら股間を抑えて、泣きそうで切なそうな目でこちらを見ている真緒さん……


確かに言いすぎだと思ったが、キスしたくなるまでに真緒さんにとって衝撃的な言葉だったのだろうか。


「……すみません」


「いや、私の方こそいきなりすまなかった……そうか、仁藤はそこまで私の事を見てくれていたのだな……」


「……はい、憧れの……先輩ですから」


……すると、二人だけの貴重な時間を遮るが如く、先程倒した奴らが呼んだのであろう援軍が俺達の前にウジャウジャと現れた。


「テメェら、上の連中の仲間か……こっから生きて出られると思うなよ?」


「……やれやれ、まだ五分も休憩を取っていないのだがな」


鉄パイプやらの武器を持ち、徐々に迫ってくる奴等の威嚇に怯む事無く、真緒さんはよろよろとしながらも立ち上がる。


「真緒さん……お身体の方は大丈夫なのですか?」


「……問題無い、欲情という物の根源は精神だ。 こいつらを相手に殴っていれば、その気持ちも晴れるだろう」


しかし真緒さんは構えを取り、戦意満々の目付きで奴等に向かって睨みつけた。


「おいおい、この人数をお前達だけで相手すんのか?」


「……先程のお前の戦い方は見事だった。 それを見込んでもう少し、ここからの脱出に協力して貰うぞ」


「おらぁ!!」


はい、と返事を言う暇も無く、先頭にいた男が真緒さんに向かって鉄パイプを振りかぶる……


「ふんっ!!」


「うぐっ!!」


しかし真緒さんそれをくるりと避けながら、鉄パイプよりも長い槍のような足を、奴に向かって突き刺した。


「……はぁっ!?」


「せぇやぁ!!」


「がはぁっ!!」


腹を刺された男が吹っ飛んでいる様を驚く隙も与えず、続いて真緒さんは飛び蹴りをしながら男達の塊に突っ込んでボウリングのピンのように薙ぎ倒していく。


「……無茶をしますね」


真緒さんの処理に見蕩れている場合では無い、男の俺がただでさえ具合の悪い彼女を守ってやらないでどうする。


「背中がガラ空きだぞオラァ!!」


「……むっ!」


「はぁ!!」


「ごふっ!?」


「……仁藤か、助かった」


背中から襲われそうになっていた真緒さんを助けられたのはいい。


だが俺も中心に突っ込んでいった事により、俺達はあっという間に男達に囲まれてしまった。


「……真緒さん、お強いんですね」


「言った筈だ、強くなければ警察は務まらんと」


背中を合わせながら、どの方向からでも接近してきていいように、男達の円の中心にてクルクルと回る。


「そう言う仁藤もっ……強いじゃない、かっ!!」


「ぐうっ!!」


「俺も組長に……っ、伊達に鍛えられていませんからっ!!」


「があっ!?」


数十人もいる男達を俺達だけで相手しきれるのか、その不安をかき消す為に真緒さんと会話をしながらも、次々と突っ込んでくる男達を相手にする。


一体、また一体と……ゲームセンターにあるシューティングゲームのように、次々と出てくる敵に攻撃される前に確実に倒していく。


「ふんっ!!」


「かはっ!!」


……基本は一人一発。


「効かねえよ!!」


「仁藤、力を貸せ!」


「合わせます!!」


「うぅっ!?」


……一発で倒せなかった時は二人同時で。


殴りの担当は俺、蹴りの担当は真緒さんと、それぞれの得意な武器で着々と敵を倒して行った。


……そして。


「ぐ、うぅ……」


「ふむ、これで全部だな……」


「……本当に全員倒しちゃいましたね」


「大分時間を使ってしまったな……行くぞ」


「あっ、待ってください……」


勝利の喜びの余韻に染まっていた一方、真緒さんは喜びもせずに這いつくばっている男達を乗り越えて階段へと向かう。


「……ぐっ」


「真緒さん!!」


しかし戦意で無理矢理動かしていた身体は限界を迎え、真緒さんは股を抑えながらしゃがみ込んだ。


「くっ……私もついにここまでか?」


「……何を言っているんですか! 折角二人で勝ったのに……おぶってでも連れていきますよ!」


「まだ行かないとは言っていないだろうに、早とちりな奴め……」


「……すみません」


「だが一刻も早くトイレに行きたいのは事実だ。 おぶってくれるのはありがたいが、少しでも刺激されると、その……とにかく自分で歩くよ」


「……分かりました」


そして真緒さんは発情を飲み込んで起立し、俺は彼女に肩を貸しながらも、俺達は一階の光へ辿り着く為に地下の暗闇を抜けていく。


「……まさか警察の身で、極道の奴と一緒に戦う事になろうとはな」


「俺も同じ気持ちです……」


「姐さんに鍛えられていたなら、その強さも納得だ……ふっ、今度手合わせを願おうか」


「……遠慮しておきます」


傷は一つも無いのに、既に重症な真緒さん。


彼女も彼女で、発情の気持ちを少しでも発散させようと俺に話しかけてきて、俺は真緒さんを介護しながら刺激しないようにしつつ、彼女を引っ張っていく。


「……」


「……真緒さん?」


……やがて階段の前へと着いた俺達。


しかし階段に辿り着いた真緒さんは、何故か登らずに階段の前で立ち止まっていた。


「どうされたんですか?」


「……誰か降りてくるぞ」


「えっ……!?」


よく耳を済ますと、階段を一歩ずつ降りて来る度に大きくなってくる足音が聞こえてくる。


「……」


しかし真緒さんは隠れる事無く、誰が降りてきたのかが分かる、階段の踊り場の方を睨み付けていた。


「真緒さん……隠れないのですか?」


「……この足音、向こうは一人だけで降りて来ている」


「たかが一人程度……隠れるまでもない、相手をしてやる」


もう戦意を取り戻したのか、そのやる気を表すように指をポキポキと鳴らす真緒さん。


……そして壁から、向こう側の足、身体、顔と姿を現していく。


「……!!」


そうして階段の踊り場にて、地下へと降りて来た者の正体が分かる事となる。


しかしその者は工場にいた者では無く、皇組員や警察ですら無かった。


……代わりに彼が胸ポケットに付けていたのは帝組のピンバッジ。


「……貴方は」


銀髪のオールバック赤く細い瞳に、左目の下には泣きぼくろがついている。


……真緒さんとそっくりな顔をしていたその男は、紛れも無く真緒さんの父親であり、俺達皇と敵対している帝組の組長である帝真であった。


「探したぞ真緒……本当にここにいたのだな」


「……お父様」

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