第十一話『一蓮托生 II』
「ふむ……まだ来ないのか……」
……時は正午。
その時を知らすチャイムが外で鳴り、もう午後を過ぎたのかと思っている中……我々は今注文した荷物がここに運ばれてくるのを、真緒さんの部屋にて待機をしている。
荷物が運ばれてこなければ中身も分からずに捜査が進められない。
どうにも出来ない状況に真緒さんは落ち着きが無く、俺がソファに座っている前の、テーブルの周りをグルグルと歩き回っている。
「真緒さん、少し落ち着きましょう……ここは二階、そんなに足音を立てていると下の階の方にご迷惑ですよ」
「それは分かっているが、逆にお前はよく落ち着いていられるな……箱の中身で、その後の運命が大きく変わるかもしれないと言うのに」
「焦っていても、精神的な体力を無駄にしてしまうので……それに自転車であるならば、遅くなっても仕方が無いですよ」
「ふむ、いっその事こちらの方から迎えに行ってやろうか……」
そのような冗談を呟きながらも、真緒さんは下階の住人に対しての迷惑について俺からの指摘を受け入れてくれたのか、そっと歩きながら俺の隣に座り戻った。
……その時、インターホンからチャイムの音が鳴った。
その音が心電図となって心の中で走り、息が詰まりそうになりつつもドアの方を注目する。
「……来たか」
「そうみたいですね」
二人揃って、壁に貼り付けられているモニターからドアの前に立っている人物を確認しに行く。
「……ん?」
「え……」
だがそこに立っていたのは、スーツを着てマスクを付けているセールスマン風の男。
これが配達員であれば、動きやすい格好に背中にはあの大きなバックパックを背負っている筈だ。
予想外の訪問者に、俺と真緒さんはそれぞれで思わず声を漏らしてしまった。
「……誰だこの男は」
「……きっとセールスの人間か何かでしょう。 何か商品を売り込みに来ただけですよ、無視していればその内いなくなります」
「くっ……荷物が届いた訳では無かったのか」
がっかりしたように溜息を漏らしながら、ソファに戻って行き、どかっと腰掛ける真緒さん。
一方で俺も、密かにふうっと息を漏らす。
いきなりの訪問者すぎて、落ち着いたままでいた影響から、まだ心の準備が出来ていない状態であったからだ。
しかし今回の事で、少しだけ緊張も解れた。
得体の知れない物を運んでくる配達員よりかは、普段はウザったく感じるセールスマンの方が可愛く思える。
この調子で他の訪問者がどんどんと訪ねてきて、茶番的な展開を予想していきたいが……そういう訳にもいかない。
……再び鳴るチャイム。
「なんだ、またセールスの奴か?」
真緒さんも緊張が抜けたのか、俺に手を振りながら呆れた顔をしてモニターの確認を促してきた。
「!……いえ、今度こそ例のカバンを背負った配達員です」
「なにっ!?」
先程の足音の指摘はもう忘れたのか、真緒さんは軽快にソファを飛び越えて、こちらに駆け寄ってきた。
そしてモニターに映っていたのは、キャップを深く被って顔を隠しながら、重そうな荷物を背負って中から出てくる住人を待っている正真正銘の配達員。
……しかし、実は荷物を届けにきた訳ではなく、そもそもその者は配達員では無く、全く違う立場と目的で真緒邸に訪ねてきたという事も十分に有り得る。
「……俺、出てきます」
「待て……荷物を頼んだのは私なのに、お前が荷物を受け取るのはおかしいだろう」
「ですが、相手が何者なのかも分からないのですよ……?」
「心配はするな。 言ったであろう、私は強いと……何かあっても、自分の身ぐらい自分で守れるさ」
……俺の肩に手を置き、そう言い残すと真緒さんは廊下へと繋がる扉の向こうへと消えて行った。
「……お気をつけて」
扉にはモザイクのガラスが貼り付けられてあり、ハッキリは見えなくとも、近付きすぎると向こう側に人がいるのだと訪問者に知られてしまう。
足音を立てないようにしてソファに戻りつつ、扉の向こう側で繰り広げられている真緒さんと訪問者の会話に耳を澄ませる。
サインやら、印鑑やらの言葉が飛び交い……向こうでは荷物受け取りの手続きを行っている。
「ふぅ、やっと持ってきたか」
……やがて扉がバタンと閉まる音が聞こえ、部屋に戻ってきた真緒さんは封筒サイズぐらいの箱を手にしていた。
「えっ、そんなに小さいんですか……配達員が背負っていたリュックはあんなに大きかったのに」
「薬は一箱しか買っていないから当然だ、それにリュックにはこれ以外の荷物も入っていたかもしれないだろう?」
「ですがこの間に俺が初めて運んだ荷物はかなり重くて、リュックに一個しか入れられずに運んだんですよ?」
「だとしたらその客が薬以外の物を買ったのか……重くなる程に薬を沢山買ったかのどちらかであろうな」
「なるほど……」
その時に思った事を思うだけではなく、真緒さんにしっかりと報告をする。
そうすれば真緒さん程は活躍出来てはいないが、情報を共有しているという気分になれた。
「とにかく中身を開けよう」
「了解です」
真緒さんが箱を開けて、中から出てきたのはサイトの画像で見た通りの薬の外箱……。
そしてその箱を更に開けると、中から同じく画像で見た通りの薬が、二パック二十四錠で梱包されていた。
「説明書は……無しか、本来の医薬品であれば入っていなければおかしいのだがな」
外箱に書かれてある文字も全て英語表記。
例え麻薬で無かったとしても、それがどのような用途で使えばいい薬なのかが一切不明だ。
「やはり麻薬なのでしょうか、早速警察に持って行って調べて頂いた方が……」
「その必要は無い」
「えっ?」
「……何故なら麻薬かどうか調べられる器具がここにあるからだ」
「あっ、そうだったんですか。 良かった……」
「ん? 何がだ」
「そのまま自分の物にしてしまうのでは無いかと思いました」
「そんな訳があるか、私は警察なのだぞ」
真緒さんはそう否定をしながら、席から立ってクローゼットの中からアタッシュケースを持ってきた。
それを開けて中から出てきたのは試験管やら何かの液体が入った、実験に使う一式のようなもの。
「これを付けろ」
それをじっくり見ている暇も無く、真緒さんは俺にマスクを手渡してきた。
「どうしたんですか、これ……」
「麻薬検査薬と呼ばれる物だ、警察内の薬物を取り締まる部署から拝借してきた物だ」
「……色んな所から拝借しますね」
「使える物は何でも使う、という奴よ」
薬品に手を取りながらマスクをつける真緒さんを見て、俺も合わせてマスクを装着する。
「どうやって調べるんですか?」
「やり方は至ってシンプルだ。 えっと、まずは試験管に薬品Aを入れて、その中に調べたい薬物を入れると……」
「はい」
一見ブルーハワイで炭酸飲料のような青い色をした液体に、真緒さんに入れられた薬は泡を纏いながら底に沈んでいった。
「あとはその中に、この薬品Bを入れて色が赤に変化すれば、それは麻薬だという事で合っているらしい」
「なるほど……」
警察の所まで持って行かずとも、そう簡単に麻薬だと分かってしまって大丈夫なのか。
それから薬品Bが試験管内に投与されるや否や、真緒さんは試験管内にある化合物をかき混ぜ始めた。
「……変わらんな」
「かき混ぜたのが駄目だったのでは無いですか?」
「そんな事は無いと思うが……まぁやってみるか」
……しかし、かき混ぜてもかき混ぜなくても、化合物の色は依然として青のままであった。
「色……変わりませんね」
「ここまで来て怪しさの要素は満点だったというのに、まさか麻薬では無かったとはな」
ここに来て大きく予想が外れてしまったが、真緒さんは大してショックを受けていない様子であった。
「麻薬では無かったとしたら、これは一体何の薬なのでしょうか……」
「いずれにしても、説明書が入っておらず何の薬であるかが分からないのは問題があるな」
「どうしますか?」
「ここはやはり本部に持って行くしか無かろう……出掛けるぞ仁藤」
「えっ?」
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……それから真緒さんと共に青梅街道を沿って中野区方面へと向かい、俺は彼女と共に新宿警察署へとやって来た。
「ここで薬の正体を暴いて貰うぞ」
「……ご自宅で調べなくても、最初からここに持ってくれば良かったのでは?」
「うるさい、行くぞ」
「あ、待ってください」
マンションのような高い建物を見上げつつ、真緒さんに置いていかれないように彼女の後を必死に着いていく。
「しかし……俺が入って大丈夫なんですか?」
「心配無い、私に連行されている設定で行けばこの建物内の何処にだって行けるさ」
「連行……ですか……」
「これから会う者も、鑑識課にいる口の堅い友人で信頼出来る奴だ」
「だがあまりキョロキョロするな、周りに怪しまれるからな」
「はい」
そうして建物内に入り、周りからの視線を感じながらも、真緒さんの背中しか見ないようにして、彼女の後を着いて行く。
途中で他の警察官の者に話し掛けられた事もあったが、やはり真緒さんは俺を連行してきたという体で返事をしていた。
……もし連行されたというのが事実であったら、斬江の元へと帰った時、袋叩きの処置では済まない事だろう。
やがてエレベーターに乗り込み、真緒さんは地下一階に行くボタンを押した。
「……」
エレベーター内には防犯カメラが着いているからか、真緒さんは俺に一切話し掛けて来ないで扉の方を向いている。
そうしてエレベーターから降りて、薄暗い廊下を進んで行き、彼女はある部屋の前で立ち止まった。
「入るぞ」
「えっ」
ノックをした瞬間、相手の返事を待たずに中へと入って行った真緒さん。
「どうした、お前も早く来い」
許可無く入る訳にも行かずに呆然と立ち尽くしていると、真緒さんが扉の隙間から顔を出して俺の事を呼んだ。
「……失礼します」
部屋は廊下以上に暗く、何も見えない分に嗅覚が研ぎ澄まされて、部屋内の薬品の臭いが鼻を突いた。
「スイッチは……ここか」
真緒さんが電気をつけた事で、明らかとなったその匂いの正体……
部屋には様々な薬品が入っている瓶の入れ物や試験管、更に所々に使い方がよく分からない装置が置いてあり、その光景は正しく学校等にある実験室その物であった。
「うー、まぶしー……」
そして奥の方のソファでは、白衣を着ている女性らしき人物が、顔に伏せていた本を床に落としながら身体を起こした。
「やはりここにいると思っていたぞ仙崎、相変わらずこの部屋に閉じ篭っていたようだな」
「うん、見習いだからって、中々事件の方には連れて行ってくれなくてね……ここで時間を潰していた所さ」
ふらつきながらも立ち上がった彼女は、俺達と同じくらいの歳で、ふわふわとした黒色のロングヘアーに丸眼鏡をつけている容姿をしていた。
「ん……君は誰だい?」
「……どうも」
「紹介しよう仁藤、彼女は仙崎薫……私の高校時代からの友人で鑑識課に務めている刑事だ」
「そして仙崎、この者がいつも話している仁藤という男だ」
「おお、君が仁藤くんだね〜。 真緒からいつも話は聞いているよ」
「ど、どうも……」
部屋と同じ薬品の臭いを纏いながら、俺の両手を握ってブンブンと振るように握手をする仙崎さんという女性……
どうにも胡散臭い雰囲気で、いつかは俺達の事を裏切るのでは無いかといった展開を予想してしまう。
「さて、お互いの自己紹介はこれぐらいにして……早速お前に調べて欲しい薬があるのだ」
「別にいいけど……真緒、また鑑識課から薬物検査薬を盗っただろう!」
「ああ……だが薬は麻薬では無く、その正体が分からずに確かめる為、ここに来たという訳だ」
「あれを盗られると、毎回すぐに私が疑われて凄く怒られるんだ!」
……これだけ部屋の中に薬品があれば疑われるのも仕方が無いだろう。
俺も真緒さんもそう思っていたのか、真緒さんの方は口を半開きにしながらふっと笑っていた。
だがまたという事は、真緒さんの"使える物はなんでも使う戦法"に利用されて、仙崎さんはこれまでに何度も被害を受けているのであろう。
「済まなかったな。まぁ許せ、今度また飯でも奢ってやるさ」
「まぁ、それなら良いけど……」
許すのか……。
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「薬の正体が分かったよ〜」
……その後、俺達は部屋の外で待たされて、解析の結果を出した仙崎さんは扉を開けて、その事を報告してきた。
「やっとか……それで、薬の正体は何だったのだ」
「驚かないで聞いて欲しいんだけど……」
「……」
溜めるに溜めて生唾を飲ませる程に、俺達の事を焦らす仙崎さん。
実は薬は麻薬であって、何か科学的な理由で麻薬だと悟られないようにコーティングされていたとでも話し出すのか。
「あれ媚薬だよ」
「び、びやく!?」
「そそ、エッチな気分になる薬ね」
何気なく媚薬という単語を口に出す仙崎さんと、その言葉を聞いて顔を真っ赤にさせている真緒。
「てかそのサイトってさ、本当に麻薬とかが売ってるサイトなのかな?」
「……どういう意味だ?」
これまで俺達が調べ上げて来た事を、真緒さんから伝えている事で仙崎さんも知っているらしく、彼女はそのような疑問を俺達に投げかけてきた。
「他にはどういった商品が売られているのか、見てみたかい?」
「……何だと?」
「オンラインショップなら、カテゴリー別に商品が別れているから、そこから薬品以外にどういった物が売られているか見られる筈さ」
「ちょっとそのサイト、私にも見せてごらんよ」
「……ああ」
それから仙崎さんはパソコンを立ち上げて、真緒さんは再びURLを入力する事で、例のサイトを彼女に見せた。
「あった……ここから商品のカテゴリーを選べるみたいだね」
……よく見ると英語だから二人とも気づかなかったのか、左の方に今表示されている商品の種類を変えられる、ショートカットのような欄が並んでいた。
彼女は"medicine"と書かれたリストの下にある、"pocketpussy"と書かれたリストをクリックした。
「んっ……」
それから真緒さんは、リストの商品が書かれてある画像が変わった瞬間に頬を染めながら、画面から目を逸らした。
……沢山の画像に表示されているのは、どれも女性器の形を模した、立体的な物が先端に付いた筒のような物だ。
「うん、これオナホってやつだね」
「更にこっちはコンドーム」
「こっちはラブドールって訳だね」
「あまりそのような事を口にするな、けしからん……」
もう分かったからと言った感じに、真緒さんは仙崎さんの肩を叩いて、彼女が淫らな言葉を口に出すのを止めさせた。
「とにかく見ての通り……このサイトは所謂、大人のおもちゃって奴を販売しているサイトに間違い無いね」
「てか英語に書かれてある事の意味を調べれば、そういうサイトだって一発で分かった筈だけどね」
「くっ……」
「すみません……薬の事しか目に入ってなくて……」
「いやいいんだ、この真緒も警察になってからまだ日が浅くてね……こういう早とちりをしてしまうのも仕方が無いさ」
「麻薬じゃ、無かっただと……」
「この薬が麻薬だと思うような条件は、結構揃ってたけどね〜」
真緒さんは下を俯いて、明らかにショックを受けているが……彼女の頬は依然と染まったままで、何かに対して羞恥心を抱いていたようだった。
「という事は、私は……あの時の配達員に、この女は媚薬を買ったのかと思われて、接客をされていたのか……」
「配達員の方は、中身が媚薬だったという事まではご存知無かったと思いますよ」
「どちらにせよ売っている物がこういう類の奴であるならば、私の事をけしからん女だと思っていたのは間違いない」
「もう私は、嫁に行けん……」
更に真緒さんは後ろにあったベンチに、力が抜けるように座ると、そのままがくんと首を落として動かなくなってしまった。
今の彼女には、正しくチーンという鐘の効果音がよく似合う。
「大袈裟だなぁ真緒は、コンビニに何気なくコンドームを買いに行く人って、意外と多いって聞くよ?」
「フォローにもなっていないし、そういう問題でも無いわ」
「……じゃあ俺が運んだ重い荷物の中に入ってたのって」
「きっとラブドールだろう、ああいうのって人間の体重と同じぐらいの重さでリアルに作られているから、配達の時の仁藤くんは女の人をおんぶしながら自転車を漕いでたようなもんなんだよ」
「なるほど……仙崎さん、お詳しいんですね」
「ん? まぁ、私は大人だからね」
「……とにかく、この薬は危険な物でも何でも無かったという事か」
「おっ、生き返った」
「帰るぞ、仁藤……」
「はい……仙崎さん、今日はありがとうございました」
とぼとぼと歩いて、徐々に遠ざかっていく真緒さんを見失わないようにしながらも、仙崎さんに向かって真緒さんの代わりにお礼を言う。
「ううん、またいつでもおいで〜、こんな事言うのもあれだろうけど、私は基本暇だからね」
「はい、では失礼します」
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その後……行きよりも帰りの時間の方が長く感じた道を戻りながら、真緒さんのアパートに戻ってきた俺達。
「……ふぅ」
真緒さんは溜息を吐きながら机の上に置き忘れてあった、薬を包んでいた封筒をくしゃくしゃと丸めてゴミ箱の中に投げ入れた。
「……」
その紙屑を見ながら、元気の無い真緒さんにどういう言葉をかけようか考える。
「すまなかった、仁藤……私の家や警察署に連れて行かせたのが、全て無駄足になってしまったな」
「そんな事無いですよ……薬の正体が分かっただけでも成果だと思います」
「本来なら薬の正体が麻薬だと分かり、警察署に持って行き、上に認めて貰い、倉庫に突入だという流れを期待していたのだが……そう簡単に物事は上手くいかないな」
「……」
帰り道から声を掛けられず、やっと励ましの言葉を言えたと思いきや……容易く弾かれてソファに座りながら俯く真緒さん。
……しかし今の俺の方は、届けられた薬が麻薬では無かった事など、不思議にどうでも思えた。
「仙崎さんも仰っていた通り、警察として経験不足であれば、早とちりしてしまうのも仕方が無いですよ……」
「警察の経験というよりは、単純に英語が読めなかったという問題の方が大きいと思うが」
……その理由は、真緒さんを元気づけたい事に専念をしていたからだと思う。
俺にとっての真緒さんは、プライドが高くて、自信家で、与えられた仕事は何でもこなすエリートのようなイメージを抱いている。
だが今の真緒さんは弱々しく、俺の中での彼女のイメージがボロボロと崩れ去っていく。
彼女の本当の性格など知らない癖に、自分の中での真緒さんのキャラクター崩壊という奴だ。
……しかしそれは悪い意味でも、良い意味でもあった。
「それは俺も同じです……俺もあの時、薬の画像を見る以外にも、他の画像とか見てどんなサイトか確認するとか指摘をすれば良かったのです」
「……それが分かった所で薬の正体が麻薬でなければ意味が無いのだ」
「あの会社が麻薬関係が一切無ければ潰し様が無い……これでは何の為に潜入していたか分からないではないか」
……それは真緒さんが、俺が思っていた以上に完璧な人間では無かったという事。
普段は何でも出来そうな自信家の素振りを見せていても、失敗する時もあるんだと理解出来た事。
これは絶対に、真緒さんの事を馬鹿にしている訳では無い。
ただ良い面だけでは無く、人間らしく弱点も持っていたと感じて親近感が湧き、もっと彼女と仲良くなりたいと思っていたのが一番に正直な気持ちだ。
「……というか、そもそも真緒さんはマル暴の警察の方なのですよね?」
「んっ、そうではあるが……急にどうした?」
「暴力団を取り締まる部署があるならば、逆に薬物を取り締まる部署もある訳ですよね」
「……」
「ならばどうして、マル暴の真緒さんが薬物を売買していたと言われていた会社に潜入をしたのですか?」
……一体何を聞いているのだ、俺は真緒さんに励ましの言葉を掛けたかっただけなのに。
だが真緒さんに、落ち込む以外の事を考えさせられるという意味では別に良いか。
「……警察という組織は、何事も証拠が無ければ動かない」
「殺人を防ぐ事よりも、殺人事件が起きた後からでないと動かないのがいい例だ……お前もニュースとか見ていると、そうは思わないか?」
「そう、ですね……」
「私はそれが許せない……今回の事も、私達警察で会社については疑われていたが……」
「上からは相手が麻薬を所持していると知った後からで無いと、突入は出来ないと言われてしまっては」
「なので突入するよりも前に、私自らが会社に潜入をして商品の正体を暴いてやろうと思った次第だ」
「殺人と薬……種類は違えど、沢山の一般人が巻き込まれる前に事件を未然に防ぐのが、警察にとって一番大事な仕事だと私は思う」
「なるほど……てっきり上司か何かの命令で指示されていた事だと思っていました」
「違うな……全て私の意思で動いた行動であった」
「だが……商品の正体が麻薬では無く媚薬であったとは」
「これでは上の奴等に一泡吹かせる事が出来ん……どうした物か」
正義感が強いのか、単純に手柄を上げて上司達をあっと言わせたいのかは分からないが、真緒さんはまだ諦めていない様子だった。
その証拠に真緒さんは既に次の手を考えている……
……そして俺の方も、真緒さんの話を聞いている中で次への駒の進め方を考え出していた。
「……その薬、今度は俺の組長に見せに行ってみてもいいですか?」
「むっ……どうする気だ?」
「例え売っている物が麻薬で無くても……よく考えてみれば、あの会社について怪しかった点は多々あります」
「裏のルートで商品を取り扱っているならば、そういう商売に関しては俺達皇組の方も詳しい筈です」
「……その事も含めて、この薬を組長に見せに行けば、何か新しい事が分かると思うんです」
「……そうか、その手があったか」
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