第六話『皇帝同舟 II』

「……ん? どうしたんだい門見くん、仁藤くんとはお知り合いかな?」


俺を視認して声を漏らした帝真緒を見て、社長室まで俺を連れてきた社長らしき男はそのような質問をした。


「……いえ、初対面です」


目的が何なのかは不明だが、やはり俺達が知り合いだという事が連中にバレたらまずいのか、俺から目を逸らして帝真緒は男に嘘をついて返事をした。


……門見くんとは何だ?


……一先ず余計な事は考えずに、俺も男の方へと体を向けて、真緒はその場にはいないと暗示をかけるように、彼女の方はあまり見ないようにする。


「……仁藤くん、紹介しよう」


しかし男が真緒に向かって手を差し伸べた事で、自然と再びに彼女と目が合ってしまう。


「この子は門見真緒くん。君と同じく、今日からここで働く事になった新人だ」


「……そして門見くん。 この子がさっき言った、君のすぐ後に面接に来てくれた仁藤大和くんだ」


「二人とも今日から働いていく仲間同士、挨拶して?」


「門見真緒です….…宜しくお願いします」


中身に殺意が込められていそうな、何だか不気味な満面の笑みを浮かべながら、真緒は俺に握手を求めてきた。


「……仁藤大和ですッ!?」


差し出された彼女の手を握ると、思い切り力を入れて骨の部分を握り返してきた真緒。


私の正体をこいつらにバラしたら容赦はしないという警告なのか。


「……さて、じゃあ二人共、まずはうちの社員達の前でも挨拶をしようか」


「はい」


「……ああ、その前にこの書類に目を通して、サインと印鑑を押してくれるかな」


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「……仁藤大和です」


「門見真緒です」


それから先程、職場に入ってきた際に顔を見た社員達にも自己紹介をした。


「うーっす」


……皆やる気の無さそうな顔と声で、そのように返事をしてきた。


チームワークも糞も無さそうな労働環境である。


「あと改めてこの俺が、この会社の社長だよ。 宜しくね」


「宜しくお願いします」


「……では早速やる仕事を教えよう」


「「はい」」


「まずうちはインターネットでね、オンラインショップの運営をしている会社なんだ」


「そうなんですか」


「うん、売ってる物は色々とあるんだけど……注文を受けるだけじゃなくて、お客様に商品をお届けするのも全部うちでやってるんだ」


……通常の某オンラインショップサイトではどのような仕組みかは分からないが、配達自体は運送会社に任せる物では無いのか?


……それとも任せられないような物でも運ばされるという事なのか?


「……」


真緒も俺と同じ事を考えているのか……しかし男の何処か引っかかる発言に余計な質問はせずに、男の説明を黙って聞いている。


「家には仕事が二つあってね、一つはさっき言ったオンラインショップの運営、そしてもう一つは商品をお客様にお届けする宅配だ」


「……一先ず今日は、サイトの運営の仕方だけ覚えてみようか」


「明日は宅配の仕事について教えるね」


「「宜しくお願いします」」


「……という訳で早速教えていこう。 君達パソコンは操作出来るかな?」


……運営の仕事とは客から注文が来た際に、パソコンを使ってメールやらで客とやり取りをする、コンビニでいうレジのような仕事らしい。


料金支払いのタイプは代金引換、クレジットカード支払い、コンビニ支払い、銀行振込……と、その多様な購入の仕方が出来るのも、オンラインショップ特有の物だ。


更に客から支払われる金も、俺達で管理をしていくらしい。


「ここから商品を買えるんだけど……」


……今の俺達は、死んだ顔でパソコンを操作している社員の隣にある空席のパソコンにて、社長にサイトから商品のリストを見せられている。


その商品は平均で一万円以上と、どれも高い。


支払いは代引よりも、クレジットカード支払いや最近流行りのバーコード支払いの方が遥かに多いのだそうだ。


その日の売上にも影響するのだろうが、目には見えない何万、何十万といった大金を管理する事になると考えると、無駄に責任感が強くなる。


「……ちょっと待っててね」


それから社長はパソコンの画面を切りかえて、ここの会社の従業員専用の物らしき画面へと切り替えた。


「まずこれが……お客様から商品を買う際に送られてくる、お客様の個人情報とか、どの方法でお金を支払って頂くかが書かれたメールボックスだ」


「代引の場合だと、宅配の方で管理をするんだけど……それ以外をお客様が選ばれた場合、そのお金は全部ここにいる人達で管理をするんだ」


コンビニとは違い、ただ机に座ってパソコンを操作するだけなのであれば、楽な仕事だと思いきや……こちらもこちらで覚える事が沢山ある。


今までスマートフォンは使いこなせていたが、スマホよりもパソコンの方が多機能な分、操作方法も多様だ。


「……」


俺達が今教えられているのは、購入手続きの仕事の流れだ。


簡単に言うと……客が商品を購入するとメールが会社に届く。


客が代引以外の支払いを完了させた場合、ご購入ありがとうございましたという事で、その客にメールを返信する。


……と同時に、客の買った商品、客の住所が記載されてある明細書を、商品が保管している宅配の事務所へと送る。


そうして宅配の事務所が、商品を客の所に送り届ける事で取引完了……という事らしい。


……自分で簡単に纏めてみたのはいいものの、やはり完全には理解しきれていない。


「……ここまで説明してきたけど、よく分からないだろうから実際に自分達でやってみようか」


「……了解です」


「分かりました」


……こうして俺達は、それぞれの机にて客との購入の取引を実践させられたのであった。


俺達が座っている机にそれぞれ手を置いて、分からない所を手取り足取り教えてくれる社長。


まるでパソコン教室に通っている生徒になった気分だが……そんな彼もチャラい見た目通りに、半グレである怒澪紅のメンバーの一人なのであろうか……。


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……それから一通りの取り引きの仕方を実践した覚えた後。


今回の仕事は初回という事で五時間で終了となった。


「じゃあ二人共、明日から宜しくね」


「はい、失礼します」


新人同士の帝とは働き始めた時間が同じであれば、終わる時間も同じである。


彼女と共に、俺は社長に別れを告げて会社のビルから出ようとしていた。


「それじゃあね〜」


社長から手を振られ、俺達も会釈をし返して会社の扉が閉ざされる……。


「……?」


社長がいなくなった事で、何か帝に話しかけられるのかと思いきや……後ろを振り向くと、俺よりも先に外に出ていた帝はいつの間にか姿を消していた。


気にせず階段を降りて行き、外へと出ると……


「……まさかお前も応募していたとはな」


消えていたと思った帝は、ビルの出入口横にある壁に、腕を組みながら寄りかかって俺の事を待ち伏せていた。


「帝さん……こちらにいらしたのですね」


「どうした? 極道からは足を洗って新しい仕事を始めたのか?」


「そういう訳では……」


……ふと組の命令で入社したという事を言い出しそうになった所で、帝のプロフィールが頭を過る。


彼女は俺達と敵対する帝組の組員であり、組長である帝真の娘だ。


皇組が行おうとしている事を、先程の社長の次に知られてはいけない存在の一人だ。


「……何でもありません」


「……そうか、まぁ事情があるならば無理して言わなくてもいいさ」


「……それで、俺に何か御用ですか?」


「……実は確認しておきたい事があってな」


「お前……皇の組員であったのだな」


「!?」


……何故バレた。


こちらからは皇組の者だと思われるネタは、一切明かされていない筈だ。


「何、そう怯える事は無い」


「この街で活動している人間の事で、帝組に知らない事は無い……そう思っておけばいいさ」


「……?」


皇組の組員だと確認をした所で、帝組の者として敵対している者は容赦なく排除する。


……そのような事をされるのかと思いきや、帝は俺から目を逸らして、仕事で溜まっていた疲れを吐き出すかのように溜息をついていた。


「……貴方も組をやめて、この仕事についたのですか?」


「まさか……苗字を変えてる時点で気付いているだろう、潜入捜査という奴だ」


「……なるほど」


「それと……お前何か勘違いしているのかもしれないが」


「━━━私は帝組の組員じゃないぞ」


「……えっ」


「……まぁ、ここでは何だ」


「これから喫茶店にでも行こうと思っているのだが……続きはそこで話さないか?」


皇組の情報を聞き出すどころか、自身の目的を明かした真緒。


彼女の誘いに乗っても、こちらの目的については、あちら側からは聞き出すつもりは無いようだ。


……それに話したくない事があれば、話さなくても良いというふうにも断言していた。


仕事終わりで丁度喉も渇いていた所だし、余計な事は言わず、飲み物一杯分なら付き合っても構わないだろう。


「……了解です」


「うむ、では参ろう」


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……夕陽が差し込んで眩しい喫茶店の店内。


疲れた身体を癒す暖房に包まれて、リラックスしたい所ではあるが……俺は今、帝に衝撃的な物を見せられていた。


「……刑事部捜査、第四課……?」


帝からこちらに見せられていたのは、彼女の顔写真が載せられている手帳。


その写真の下にある、彼女のフルネームと共に書かれていた文字をゆっくりと読む……。


「そうだ……所謂マル暴という奴だな」


「私は正真正銘の警察なのだ。 驚いたか?」


警察手帳を折り畳むと、彼女はふふっと笑いながらそれをスーツの内ポケットへと閉まった。


「驚くも何も……」


……極道なのに警察?


マル暴……極道に関する犯罪専門を取り扱っている部署の為に、あの時コンビニで出会った会話の中で、我々極道の収入事情にも詳しかったという訳か。


俺はその事について彼女に尋ねた。


「本業の方が沢山稼げるって……如何にも現役の方としか思えないような事を、言っていたでは無いですか」


「本業の方が沢山稼げるというのは、私の体験では無く他の帝組員達から聞いた話だ……それに、私が稼いでいるとは一言も言わなかった筈だぞ?」


「……そうですか」


確かに思い返してみれば、コンビニでの帝は一度も帝組の組員であるとは自称していなかった。


……だが身内に、帝組の者がいるという事実に変わりは無い。


その気になれば、いつでも父親に会う事が出来て、潜入捜査中に皇組員である俺と会ったという事を報告出来る筈だ……油断は出来ない。


「……とにかく、私は帝組の中で育ってきた身ではあるが、極道では無い」


「お前が皇組の者であるからと言って、敵対するつもりは無いから安心するがいい」


「……はぁ」


「……その代わり、何か犯罪を犯せば、即刻逮捕するから気をつけておけよ?」


「……心得ておきます」


帝は俺がどのような目的で、あの会社の求人に応募したのかと考えているのだろうか。


リストに表示されていた、どのような物なのか不明な癖に、値段は高かった商品の数々……。


俺が犯罪の臭いしかしないそれらの物を、売買している仕事に就いた事に、警察として真緒は何も思わないのだろうか。


「……先程、帝さんは潜入捜査であの会社に入社したと言っていましたね?」


「ああ、お前も気付いていたとは思うが、あの仕事内容……色々と怪しい事だらけであった」


「そのような場所で俺が働こうとしている事に、帝さんは何とも思わないのですか?」


「……」


「中に何が入ってるか分からない商品を高く売って、宅配業者にも任せないで客の所に届けるなんて……そんな仕事、犯罪以外の何物でもないですよ」


「……下手をすれば俺は、運び屋の仕事に加担した容疑者になるのかもしれませんよ?」


「……」


俺からの意見を聞いて、下を俯いて何かを考えている帝。


……コーヒーを一口した後、彼女は口を開いてこう答えた。


「……求人広告には一切の仕事内容が書かれていなかった。 それに騙されて働かされていたと考えれば、お前は被害者だ」


「……そうでしょうか」


「しかし……やはりお前もそこまで考えていたか」


「あんな仕事内容……アルバイト始めたての高校生だって、変だって気が付きますよ」


「……とにかく、これ以上犯罪に巻き込まれたくなければ早急にあの仕事は辞める事だ」


「……辞めませんよ」


「……何?」


社員達に自己紹介をする前……俺達は社長から雇用契約書を渡されて、帝さんは偽名であろうが、俺の方は本名でサインを記入してしまった。


ここまでだと俺はまんまと騙されて、奴等の雇用契約という名の檻に閉じ込められた新入社員であるが……逆に奴等を騙そうとしているのはこちらの方だ。


バラエティー番組なんかで見る、所謂逆ドッキリという奴だ。


「……それだと話も変わってきて、お前が運び屋の仕事をした時点で容赦なく逮捕する事になるが」


優しそうな物から一変、鷹のような鋭い目付きで俺の瞳を捉えている帝。


「実は……俺も貴方と同じ目的で、あの会社に応募したのです」


「……ほう、私と同じく潜入捜査か」


「はい」


「ふむ……」


帝は腕を組んで背もたれに寄りかかりながら、何だか信用していないような反応を示した。


「……俺だって馬鹿ではありません」


「求人広告を見た時点で怪しいと気がつけば、最初から応募しませんよ」


「……ふっ、それもそうか」


……遂に告白してしまった、俺の入社した目的。


もう気付かれているとは思うが、一応誰の命令で潜入を実行したかまでは言っていない。


向こうが自分の話を結構さらけ出してくるので、勢いでこちらも話していいかと、思わず口を滑らせそうになる。


一枚ずつ一枚ずつ、丁寧に玉ねぎの皮を剥いていくように……正体を明かしていかなければ、話しすぎて身を守る物が無くなってしまった時、向こうから何をされるか分からない。


「……まぁ良い。 同じ目的であるのならば、互いに気にせず潜入が出来るという訳だ」


「当然ではあるが……私の本名などは、奴等に告げ口せんようにな」


「……勿論です」


「あと私の事は名前で呼んで貰って構わんぞ……帝という呼び名では、親父の方も呼んでいる事になるからな」


「……親父を呼び捨てで呼ばれるのは、何だか複雑な気分だ」


「……分かりました」


「……さて」


……話に区切りがついた所で真緒さんは席から立ち、財布からコーヒー代の金をテーブルの上に置いた。


「私はこれで失礼する……今日の事を、これから上司に報告しに行くのだ」


「はい……今日はお疲れ様でした」


「ああ……明日から、また宜しくな」


そう言い残し、立ち去り際に人差し指と中指を合わせて軽く振った後……真緒さんは店の外へと出て、窓から見える人通りの波へと消えていった……


……帝真緒さん。


極道の血が混ざりながらも、生まれ育った環境とは正反対の警察という役職に就いていた彼女。


本当に皇組に対して敵対心は無いのか……友好的な性格をしていたが、本当の目的は何だか分からない、まだまだ謎の多い油断ならない女だ。


……色々考えている内に、俺の方のコーヒーもいつの間にか無くなっていた。


俺は俺の方で報告すべき人物の元へと帰る前に……まだまだ時間がある事だし、少し寄り道をしていこう。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「いらっしゃいませなのぜー!」


「えっ」


黒百合に行くと、この間会った時とは違う清潔感のある格好をしており、ブルヘッドさんや長内さんと同じくエプロン姿の瀬名さんが俺を出迎えた。


「瀬名さん……その格好は」


「ああ、私がスカウトしたのよ〜」


カウンターを見ると、そちらの方へと俺が来るのを待っていたブルヘッドが事情を説明した。


「ここのお店、働いていると賄いとか食べさせてくれるからお得なのぜ!」


「……それが目的ですか」


「えへへ〜、それじゃあお席までご案内するのぜな!」


そして瀬名さんはカウンターの方に手を差し出しながら歩き出し、皆がいるその場所へと俺を案内した。


「いらっしゃい、仁藤くん……」


「……どうも」


手を体の前に合わせて、顔はこちらを向いているが体は微動だにしない長内さん。


相も変わらず無表情であり、黒百合に来る度に長内さんの身に何か嫌な事でも起こったのかというふうに思ってしまう。


「お疲れ様〜」


「こんばんは飯田さん……お隣失礼しますね」


「あっ、どうぞどうぞ」


そしてすっかりと黒百合の常連と化していた飯田さん。


彼女はノンアルコールカクテルのような色をした飲み物を飲んでおり、カウンターに項垂れていたが、俺が隣に座った瞬間に姿勢を正した。


「おしぼりをどうぞなのぜ!」


「あっ、ありがとうございます……」


「とみー、よく働いてくれて助かるわぁ〜、常連のお客さんからも、あの子元気だからって評判がいいのよぉ」


「えへへ……ありがとうなのぜ!」


瀬名さんは自身の頭を撫でて、分かりやすい恥ずかしがっているリアクションを取った。


「私は……?」


「も、勿論ちーちーもお客さんから人気よ! お人形さんみたいで可愛いって!」


嫉妬の目でブルヘッドをじっと見つめている長内さん。


それに気づいたブルヘッドさんは、慌てて長内さんの事も褒めて彼女を安心させていた。


「良かった……」


「確かにひとみって接客業とか向いてそうだもんね」


「そうかなー……全然気がつかなかったのぜ!」


「何なら凪奈子ちゃんも、今すぐに明日からでもここで働いていいのよぉ」


「ははっ……私はキャバクラの仕事があるので、すみません」


「キャバクラのお仕事は、大変……?」


「そうねー……お客さんがいつも沢山来るから、次から次へと相手をしていく、流れ作業みたいな感じね」


「接客業も楽じゃないわ……ふぅ」


長内さんからの質問に、飯田さんはカウンターに肘をつきながら答えて溜息をついた。


「キャバ嬢も接客業なら……あたいでも出来るのぜ!?」


「えっ」


瀬名さんがそう言った瞬間に、ブルヘッドさんは困惑しているように言葉を漏らした。


折角スカウトしたのに、そちらの方に働きに行ってしまうのかという事なのか。


「やめときなさい。 入ったら入ったで色々と厳しい世界だから……ここで働いてる方が全然楽だと思うわ」


「えっ、そうなのぜか……じゃあここで働いてるのぜ!」


ほっと息を吐いて、胸を撫で下ろしたブルヘッド。


そんな彼を見て、何の事だか分からないかのように、長内さんは首を傾げて不思議そうにしていた。


……しかしこれが外の世界で、相手が飯田さんでは無く別のキャバクラ関係者であったら、構わずスカウトをされていた事だろう。


だがその時に声をかけてくる相手が、必ずキャバクラ関係者であるとは限らない。


昨日飯田さんに街中で声をかけていた、恐らく怒澪紅のメンバーである者と遭遇する確率もかなり高い。


もし瀬名さんがその者に話しかけられた場合、きちんと怪しいと気付いて断るような対応をして欲しいものだ。


「……そういえば仁藤くん、あのアルバイトの件はどうなったの?」


「……ああ、もう応募して採用もされて、今日から仕事してます」


「えっ、やまちゃんも何か新しいお仕事始めてたのぜ?」


「どんなお仕事……?」


「基本的にはパソコンを使うお仕事でした」


「あらまぁ、デスクワークってやつねぇ」


真緒さんとは違い、今度は皆から仕事についての質問責めを受ける。


仕事内容やその感想を軽く話すのはいいが、引き続き余計な事は言わないように気をつけなければ……


……だが、沢山の親しい者達に囲まれて、会話をするというのは嫌いじゃない。


「ずーっと机に座ってパソコン弄ってる訳でしょ? 疲れない?」


「はい、それにパソコンの操作って結構難しくて……スマホの方が全然簡単ですね」


「スマートフォンだけで、お仕事が出来たらいいのに……」


「それならお家でも出来そうなのぜ!」


隠し事が多いせいで、彼女達に申し訳ないと思う一方で……その楽しさが俺に、また明日も黒百合に来ようという気持ちにさせるのであった。

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