第2話 間違い

 思い返すも一年前の事。

 叔父が困ったように私に差し出してきたのは、一枚のチケットだった。


「アベイユ福岡ってしってるでしょ。会社がスポンサーやってるんだけど、次の試合は大事だから、絶対五人お客を連れてこいっていうんだ。悪いんだけど、一緒に試合みにいってくれないかな」


 そういわれて私は何気なく受け取った。サッカーには全く関係なかったけど、おじさん一家と一緒に何かするのもたまには悪くないかなって思った。

 でもそれが最初の間違いだった。何とおじさん達は子供が熱をだしてこれなくなったのだ。そりゃあ下の子供はまだ二歳だから、急に熱を出す事もあるだろうけど、残された私は一人でどうすればいいのかわからなかった。


 幸いチケットはあるので中に入る事はできる。


 しかしサッカーには全く興味がなく、かつ知り合いが誰もいない状態だ。何をしたらいいのかもわからない。


 ただせっかくの休日にちょっと遠いスタジアムまでわざわざきて、ここから何もせずに引き返すのも業腹というものだ。


 行くすがらときどきアベイユの旗がお店の軒先に立てられていた。引き返さなかったのは、その時の旗についてる選手の写真がけっこうかっこいいなぁなんて思ったので、ちょっと興味をそそられたとか、そういう訳ではない。断じて違う。

 でもまぁ少しくらい見てみてもいいかなと思ったのは確かだった。


「それで、えーっと。入り口ってどっちだろう」


 メインゲートとかバックゲートとかなんとか書いてあるけど、どこにいけばいいのかわからない。アウェイゲートっていうのもある。メインとかバックはなんとなくわかるけど、アウェイって何? アウェイ。響きだけはなんかかっこいいような気もするけど何だろう。これ。

 とりあえず誰かについていってみればいいかな。


 いちおう私もアベイユ福岡について少しは知っている。青っぽい服の方がアベイユで、黄色っぽい服の人達が敵チームの人だ。なんていったっけ。えーっと、ジェル千葉とか何とか。


 とにかく青い服の方がアベイユだから、ついていったらいい。私ってば賢い。


 まぁ成績はあんまりよくないけど。文学少女っぼいのにとか言われるけど、うん、国語とか社会系は得意。でも数学はだめ、数学は。

 と、話がそれた。それはともかく、私はアベイユの服をきた人達についていって、バックゲートという場所から中に入った。


 そしてそれが第二の間違いだった。


 私がついていった人達が向かったのはいわゆるゴール裏という場所だ。ゴール裏というのはコアなサポーターが集まる場所で熱心な応援をしている人達の場所だった。


 私がもらったチケットは本当はバックスタンドという場所で見る事の出来るチケットだった。でもゴール裏はチケットチェックがないから、そのままするーっとついていけた。ゴール裏以外の席は入れるチケットが決まっているので、チケットを提示しないと中に入れないのだ。


 でもゴール裏はそんな事はない。誰でも入れてしまう。そしてチケットには自由席と書かれていたので、私はそのことに気がついていなかった。


 この辺で見ればいいのね、と思って席を適当に確保する。周りをみると何か荷物をおいたりして席をとっているようだったから、私もまねして文庫本をおいておくことにした。こんなところで少女小説を置いていくのは私しかいないと思うから、これなら席を間違える事もないだろう。


 おなかがすいたのでさきほどの入り口の辺りにあったお店で何か買おうと思って、そのまま席を離れた。


 これが三番目の間違いだった。正直ここさえ間違えなければ、私はこうはならなかったのかもしれない。


 お店はけっこういろんなお店が出ていて、どれもすごく美味しそうだった。目の前の店舗ではもつ焼きうどんを売ってた。美味しそうと思ってこれにした。

 奥の方にあったテーブルが開くのをまって座って食べた。味はとても美味しかった。


 と、そうこうしているうちに「選手の紹介です」とかアナウンスがきこえてきていた。時間をみると、そろそろ試合が開始するみたいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る