クロと共に王城へ ①

「えっと? ランダン様が、なんで??」

「あはは、『救国の乙女』様、凄く驚いてるねー。それにしてもクラレンスが『救国の乙女』様とそんな仲になるとはびっくりだよ。何でも何も、俺が此処にクラレンスを連れてきたんだけどなー?」




 そんなことを言って、ランダン・フィッシガは私に向かって笑いかける。私がじーっとそちらを見ていれば、クロに抱きしめられた。





「お前はジャンナに近づくな」

「あはははは、なんなのもう。これだけべた惚れなの超面白いんだけど。って、睨むな睨むな。俺もクラレンスの事を『魔王』の側近と思い込んで酷い扱いはしたけどさー。呪術解けて真っ先に迎えにいったんだぜ?」

「それは感謝している。それでこれだけはやくジャンナの元へ帰って来れたし。でもそれとこれは別だ」





 ……そうか。クロがどうしてこんなにはやく戻ってきたかって、呪術が解けて、この国最強の魔法師と言える存在がすぐに迎えに行ったからということなのか。




「ふぅーん、それにしても本当に『救国の乙女』様は『救国の乙女』になったんだね。俺達、クラレンスのこと、『魔王』の側近って思い込んでいて殺す気満々だったし。……本当、クラレンスを殺してなくて良かった。でも本当にすまなかった」

「ああ。俺がこうしているのもジャンナのおかげだ。ジャンナは俺の女神だ」

「って、おーい、俺の謝罪は無視なのか。……王城に行ってほしいんだけど、あとエレファーはどうする気だよ」

「ランダンの謝罪とかどうでもいい。王城に行く気も特にしない。俺を捨てたのはエレファーだし、俺はジャンナと一緒にいる」

「……おおう、俺達のせいだけどさ、クラレンスは本当冷たくなったな。本当にごめんな。お前が『救国の乙女』に救われて、『救国の乙女』と一緒に居たいのはわかるけどさ。王城には行った方がいいぞ。それに『救国の乙女』が王城で、金食い虫とか言われて扱いがひどいのは知って――って、睨むな。これを言っているのは俺じゃなくて、王城の連中だからな!! 『救国の乙女』の事を愛しくてたまらないって思っているならちゃんと、『救国の乙女』のおかげでクラレンスが救われたっていうことを示すべきだろう」






 ……クロに抱きしめられたままそんな声を聞いていた。






 というか、エレファー様って『白銀の聖女』様よね。クロの婚約者であった。……クロが呪術をかけられたからそんな扱いになったとはいえ、向こうは呪術のせいでクロに酷い扱いをしてしまっただけで、クロと婚約を結んでいる状態のままなのかもしれない。




 となると、私が幾らクロと一緒に居たいと望んだとしても――と暗い思考にいってしまう。






「それもそうか。じゃあ王城にいって、どれだけジャンナが女神かを力説しよう。いや、駄目だな。ジャンナが馬鹿にされるのも嫌だ。ジャンナのすばらしさを国中に広めないと」

「……え、ク、クロ?」






 クロがなんか張り切っている。

 ……私がどれだけ女神かを力説するって何。私のすばらしさを国中に広めるって何……。





「そうかそうか。じゃあ、『救国の乙女』も一緒に王城に行こうか」

「ああ。ジャンナも一緒じゃないと行かない」

「え、ちょっと、クロ。私が王城に行く、なんて……」

「大丈夫だ。ジャンナには手出しをさせない」

「そんな怯えなくて大丈夫だよ。俺もクラレンスから散々、『救国の乙女』にどれだけ救われたのか聞かされてたからね。ちゃんと俺も説明するからさ」






 私が王城に行く……? というそのことに戸惑っていると、そんな私にクロとランダン様は私を安心させる言葉をかけてくる。






 王城に行くのなんて、久方ぶりだもの。

 私なんかがいっていいのかも分からない。——それに王城に行ったら、元婚約者とか、親しくしていた人たちと会うことになるかもしれない。






 色々と不安も大きいが、クロが「大丈夫だ」と笑ってくれたから私は結局頷いてしまったのだった。








 そしてランダン様が魔法を行使する。

 ランダン様は、転移という難しい魔法を使うことが出来る魔法師だ。だからこそ、クロの事を迎えにいって、此処まで連れてきたんだろうけど……。






 短い距離だとはいえ、王城までの距離を移動できるなんて、すごすぎる。







 気づけば私はクロに抱きしめられながら王城に移動していた。

 ……何で私がクロに抱きしめられたかといえば、私が初めての転移を経験するということで不安がったら抱きしめてくれたのであった。






 というか、王城にクロに抱きしめられながら行くとか大丈夫なのだろうか。——そう思った時にはもう移動していたのだ。




 しかも周りのざわめきから、此処って謁見の場……!?

 いやいやいや、こんな場所で抱きしめられたままとかおかしいでしょう。そう思って、クロから離れようとしたけど、クロは私を離してくれなかった。









「――クラレンス・ロード。よく戻ってきた。そして済まなかった」

「謝罪は受け取ります。陛下」






 ああ、そこに元婚約者がいるのか、クロに抱きしめられていてそちらを見ることも出来ないけど、それが分かる。







「それで、その女性は……?」

「貴方達が『救国の乙女』と呼んでいる存在ですよ。そして、俺にとっての女神だ」




 って、クロ!!

 此処は陛下とかいる場所なんだよね? そんな場所で何を言っているの……??

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