クロの帰還 ②
やばい。
本当にときめく。クロの言葉と表情の破壊力が強すぎる。
「ク、クロ」
「顔真っ赤で可愛い……」
「え、えっと、い、いいの?? 私の傍にいること、選んで」
「当然じゃん」
クロはそう言って、私の目を真っ直ぐ見る。
「大体ジャンナは色々勘違いしているよ。ジャンナは自分の事を何の力もないっていうけど、そんなことない。俺がこうして立ち直れたのも、全部ジャンナのおかげだ。
俺は……、『魔王』を倒して王城に戻ってすぐに、呪術をかけられた」
クロはそう言って語りだす。
「王城でゆっくりしていたら急に周りが皆、俺のことを『魔王』の側近だとか言い出して、仲間だった連中が俺のことを追い回して――、婚約者だったあいつと一緒に過ごしていたら、急にそれだからな。
あいつとも仲よくしていたが、本当にショックだった。俺は何が何だか分からないままに捕らえられた」
王城でクロがのんびりしていたら、急に呪術をかけられたらしい。だからこそ、クロはこれだけ強いのに、不覚をとって捕らえられてしまったらしい。
……自分がもしその立場だったらと思うと恐ろしくなる。
突然味方だった人が敵になって、突然自分の事を相手が正しく認識しなくなる。婚約者であった人が自分の事を信じない。
それは怖いことだ。
「――俺が違うと幾ら言っても、あいつらは聞く耳を持たなかった。何か変な力が働いていることは分かったけれど、誰一人俺の言葉を聞いてくれないなんて思っていなかったよ。でも、誰一人俺の言葉を信じなかった。俺のことを『魔王』の側近だと思い込んで、俺の言う事は全く聞かなかったんだよ」
幾らクロが声をかけても、誰もクロの事を信じなかったんだという。
誰一人としてクロの言葉を聞くことがなく、クロを捕えたのだという。
「俺は正直、絶望していたよ。誰も俺のことを信じないし、意味が分からないし。俺は体が丈夫だから幾ら拷問されてもすぐに治るしさ。それで益々色々言われるし。何がつらいって仲よくしていた連中が俺にかける言葉だよ。
俺のことを敵対している人としか見ずに、俺のことをいなくなればいいという態度をする。けど、俺は諦めたくなかった。意味が分からないまま死にたくなかった。
だから逃げ出した」
二年間、ずっと捕らえられていたクロは二年の間に絶望していて、けど死にたくないという気力から抜け出した。
「でも俺が抜け出しても、王都の人たちも誰一人として俺を覚えてなんていなくて。俺の話なんて一切聞いてくれなかった。
もう誰もが俺のことを信じてくれないし、どうしたらいいか分からなかった。そんなときに、ジャンナに出会ったんだ。
ジャンナは俺のことを拾ってくれた。そして俺のことを受け入れてくれた。最初はジャンナのこと、信じられたりしなかったけど、そんな俺にジャンナはずっと優しかった」
――クロは私の事を過大評価していると思う。私はただ自分が放っておけないからクロに優しくしたのに。
「ジャンナが俺自身を見てくれて、ジャンナが俺が呪術にかけられていても俺のことを信じてくれて――ジャンナがそうだから、俺は変な方向にいかずに済んだんだよ」
「変な方向?」
「うん。自棄になりそうだった時もあったけど、ジャンナが優しいから俺はそんなことをしなくていいと思ったんだよ」
「自棄になりそうだったの?」
「うん。最初は呪術が原因とかもわからなかったし、『魔王』を倒した後だったから、『魔王』の呪いかなとか思ってたし。このままどうにもならないなら国ごとどうにかしようかって考えなかったわけじゃないし……」
……案外、クロは色々ヤバい状況だったのかもしれない。
ああ、でも確かにクロの立場だったら自棄になっても仕方がないかもしれない。
呪術のことも何も知らないのならば、この状況が永遠と続くのかもしれないと思っているだろうし。クロのように国内最強みたいな存在が、国で暴れたら大変なことになっただろうし……。
「正直、呪術だって知った後もどうでもいいかと思ったんだよ。俺のことを一切信じなかった連中が破滅しようがどうでもいいし。
俺に呪術がかけられているっていうなら魔族が好き勝手しているんだろうけど、別にそれはいいかなって。どうせ俺の事を信じなかった連中だし」
おおう、クロ、大分、ダメージ受けていてそんな風にすさんでたのかもしれない。
クロはそこまで追い詰められていたのか。ああ、でもそれでもクロはやっぱり優しい子だよなと思う。
「でもジャンナがこの国を好きだっていったし、この国が大変なことになったらジャンナが悲しむって思ったから、とりあえず呪術の主をぶちのめすことにしたんだよ。だから俺が国に何かをしたりもせずに、ちゃんと呪術の主を倒せたのって全部ジャンナのおかげだよ。
ジャンナがいなかったら俺はあのまま絶望して、国自体を襲ったかもしれないし、少なくとも誰かを殺してはいたと思う」
……私のために、クロは魔族を倒しにいったらしい。他でもない私のために。他の人のためでは全くないのだという。
それにしてもクロは生きていくためにもあのまま一人だったら、そのまま大変なことになっていたかもしれないというのか。
クロは『魔王』の側近と呼ばれていたけれど、クロと接していれば、クロがそんなことをしないと分かるのに。
「――私はただ、クロはそんなことをしないというのを信じただけだもの」
「そうやって信じて、その通りに行動が出来るだけでもジャンナは凄いんだ。それだけのことが、皆出来ないんだ。——だから、ジャンナは俺の女神だよ。俺を救ってくれた女神なんだ」
私を女神だなんて、クロは言う。
「ジャンナ、俺はジャンナのことが好きなんだ。他の誰もいらないから、ジャンナの元へ帰ってきたくて、頑張ったんだ。ジャンナは?」
もうきっとクロは私がクロに惹かれていることを分かっている。分かっていたうえで問いかけている。
「……私も、クロのこと好きよ。クロとずっと一緒がいい」
私がそう口にすれば、クロは満面の笑みを浮かべた。
そして私に口づけを落とすのであった。
それでまぁ、クロと一緒に笑いあっていたわけだけど――、コンコンッと扉がノックされた。
私が誰が来たのだろうと、身構えていれば、クロは「そんなに怯えなくていい」とそう言って当たり前のように扉を開ける。
「クラレンス、『救国の乙女』様の所に直行したかったのは分かったけどさー? そろそろ王城に行かない? 王城でもクラレンスのこと、皆待ってるんだけど」
――そこに居たのは、クロと一緒に『魔王』退治に向かった英雄の一人である、『七色の魔法師』と呼ばれる青髪の青年だった。
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