クロのことを思い出す ①
ずっとずっと祈っていた。
クロが無事でいますように。クロが幸せになりますように。
ただ、それだけを。
クロが何処かにいってしまって、早二カ月。
クロがいない日々にも慣れて来た。とはいえ、クロがいないことに寂しさを感じることはもちろんある。
「クロ」
そう無意識に声をかけてしまって、ああ、いないんだと実感して悲しくなってしまい、寂しくなることも当然ある。
けど、きっとクロは大丈夫。
クロはきっと生きている――。そう信じる。
あれから王城からの遣いはこちらに訪れていないけれど、クロが捕まったということもないようだ。
たまに森の中を探している人たちも見かけるしね。この前来た王城からの遣いの人たちの言動を見るに、国全体で探しているらしいけど、クロは見つからないのだという。
クロが『魔王』の側近だということは、広く知れ渡っている。
クロの顔も知れ渡っていて、クロは普通に暮らすことがままならない。
その成し遂げたいことを叶えようとしている中でも、国はクロを排除しようと動いているのかもしれないのだ。
どうしてクロが国の敵のような扱いを受けなければならないのか私にはさっぱり分からない。
私は現在、ポーションの作成に勤しんでいる。
というのも以前王都を訪れてからまた時間が経過していて、そろそろ納品をしにいこうと思っているからだ。
この森の中で自給自足の生活も出来るが、やはりお金が減ると心もとない。
それにもしクロがこの場所に戻ってきた時に怪我をしている可能性だって十分ある。クロが怪我を負っていた場合、治せるようにという願いを込めていつもより気合を入れて錬金をしている。
……ああ、もうクロがもう少しゆっくりしてくれていたら、錬金で作ったものをもっとクロに渡したりも出来たのに。
クロはそんな暇を私には与えてくれなかった。私が作ったポーションは持っていったみたいだけど、それ以外のものも、もう少し時間があれば作ることが出来たのに。
ぐつぐつと音を立てる錬金窯をじーっと見つめながら、そんなことを思う。
クロのことばかり考えて、錬金を失敗してしまいそうになっている時もあるから、いつもより気を付けて錬金をしている。
錬金をして、いつも王都に売りに行く時の容器にポーションを注ぐ。
そういえば、このポーションを容器につめている時、クロは何かを言いたそうにしていたっけ。私のポーションを使った事があったのかとか、そういう細かい、小さな事さえも私はクロの事を知らない。
ポーションを詰める作業を終えて、ベッドに横になる。
ぼーっとしながら、私は思考し続ける。
『救国の乙女』になると預言された私のこと。
そして何も教えてくれずに成し遂げることがあると去って行ってしまったクロのこと。
何も成すことが出来ない自分に無力さを感じて仕方がない。
私に特別な力があったら――。
クロはその成し遂げなければならないことに、私を連れて行ってくれただろうか。一緒にそれを成し遂げることが出来ただろうか。
クロのために何かをすることさえも出来ない私。
そんな私の元へ、クロが戻ってくることなどあるのだろうか。
――なんだか、そんな暗い感情ばかり考えてしまう。
それは一度、『救国の乙女』になるだろうと言われながら挫折したからだろう。私は特別などではないと、思い知らされた。
目を閉じる。
そうすると、眠気が襲ってきた。
私はそのまま瞳を閉じた。
夢を見ていた。
初めて預言者に、『救国の乙女』になるだろうと言われた時の夢。
あの日は私にとっても特別で、鮮明にその日の事を覚えている。
あの預言者に私は問いかけたことがある。
――私はどうやって『救国の乙女』になるのですか。
と。
それに預言者は、
――『救国の乙女』になることは見えても、どのようになるかまでは知らないよ。
とそう答えていた。
あの預言者に見えていたのは、私が『救国の乙女』になるという事実だけだった。——その事実だけを予言し、その過程までは預言してくれない。
起こることを預言するだけで、それまでの道しるべを知っているわけではない。預言者の預言は、未来を知らしめるだけなのだ。
百発百中と言われていたあの預言者――、でもその預言は現在、外れている。
私は『救国の乙女』になんてなれていないのだから。
懐かしい記憶が夢として現れる中で、クロが此処に戻ってこない夢も見てしまった。この場所に戻ってくることがなく、クロの誤解が解けて、クロが誰かと幸せになっていく夢。——私は良かったね、とクロに向かって笑いかけている。
あまりにもリアリティがあって、現実かと思ってしまうほどだった。
クロが此処に戻ってこない確率は私が思っているよりもずっとずっと高いだろう。——戻って来てくれたら、私はクロとどんな暮らしをするだろうか。
私はこの国が好きで、何だかんだ感謝をしていて――だから請われるままに此処で暮らしている。けど、クロが戻ってきて、本当にクロとずっと一緒に居たいなら暮らしも変えなければならないだろうか。
――クロは『魔王』の側近と言われて、恐れられているから。
そんなことを考えながら夢を見ていたら、急に目が覚めた。
そして目を覚ました時、
「え」
私はクロが誰であるかを、唐突に思い出していたのだった。
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