クロとの距離 ⑧
「ジャンナ、これどうしたらいい?」
「これはね、ってちょっとまって、それじゃ駄目だわ」
クロはあれからもっと私のお手伝いを申し出るように言ってくれる。
クロは私に対して、よく話しかけてくれるようにもなった。
クロの一日は、何かをやろうという意欲的な態度を見せてから、大体同じような毎日を過ごしている。
朝、私が目を覚ますよりもはやく目を覚まし、走ったり、体を動かしたり、剣を振るったりをする。私が起きてすぐは、朝食作りを手伝ってくれる。たまに私が疲れていたりすると、クロが作ってくれたりする。
クロはたまに失敗したりもしているけれど、クロがちゃんと自分のために作ってくれたものだと思うと焦げてたりしても食べてしまった。
昼までの時間は私と一緒に錬金をしたり、畑仕事をしたりしてくれる。
昼食を作るのも手伝ってくれるし、クロと一緒に食事を作れることも楽しい。
お昼が過ぎたらクロはまたお手伝いをしてくれるけど、その合間合間に剣を振るっている。
夜もそんな感じで進む。朝、昼、夜とどこかでクロは必ず剣を振るったり、体を動かしたりする。私が畑仕事などをしていない時もずっと訓練ばかりしているし。本当にそういう事が好きなんだなと思える。
「なぁ、ジャンナ、俺、魔物狩ってこようか」
少しずつクロが積極的にお手伝いをしてくる中で、クロはふとそう言った。
「それ、大丈夫なの?」
クロとただ穏やかにこの場所で過ごしていると、クロが『魔王』の側近と呼ばれていることを忘れそうになるけれど、その事実はかわらない。
そんなクロが外に出ても大丈夫なのか。捕まったりしないだろうか――。私はそんな不安にさいなまれる。
私はクロが優しい青年だと知っている。クロが理由もなしに、『魔王』の側近と呼ばれるようなことなどありえないと分かっている。
それでも、そんな言葉がクロの追手に通じるかは分からないのだ。
この私が住まう周辺に人があまりこないことは分かっているが……と私がクロにいえば、クロは笑う。
「大丈夫だ。人が来たら隠れる。魔力で誰かが近づいてくることは分かるから、どうにでもなる。ジャンナには迷惑をかけない」
「本当に大丈夫?」
「ああ。すぐに戻ってくるしな。ちょっと俺とジャンナで食べる分を狩ってくるだけだから」
クロは簡単にそんなことを言うけれど、クロが言っている事って難しいことだと思うのだけど。
私はクロみたいに自信満々に、それが出来るなんて言えない。クロはやっぱり凄いのだなと思うけど、やっぱりクロが見つかったら……という不安はある。
だってクロは捕まって、大変な目に遭ってきたのだ。
逃げ出したクロがまた捕まったら……と怖くなる。
「大丈夫だ。本当にすぐ帰ってくるから。それに俺もそろそろ感覚を取り戻しておきたいから」
「……そう、ならちゃんと帰ってきてね。ポーションも渡しておくから、ちゃんと戻っておいで」
「そんなに心配しなくてもいいと思うが。ちゃんと戻ってくる」
クロが少し森に行くだけというのも分かる。分かるけど、やっぱり心配になる。
心配性なことは自分でも自覚しているけれど、ポーションを渡したりとか、『救国の乙女』と呼ばれたころにもらった少し認識を阻害するような魔法具を見つけたから渡したりとかしてしまった。
クロは心配性だなと言いながらも、心配されて嬉しそうだった。
クロが森に向かうのを見送って、私はのんびりと過ごす。
いつも通り、畑を耕したり、本を読んだり、錬金をしたり――だけど落ち着かない。クロが外に行っているからだ。
クロは強いだろうから、森の魔物に殺されてしまうことはないだろう。でもクロの事を捕まえに来る人はどれだけ強大な人なのか分からない。クロが強くても、大丈夫なのだろうか……。
そう思うと、錬金で失敗をしてしまった。
駄目ね、考え事をしながら錬金をしたら。
私に錬金を教えてくれた人も、そう言っていたもの。錬金は危険もともなうから集中できる時しかやったら駄目って言っていたもの。一旦、クロが戻ってくるまで錬金はお休みしましょう。
そんなことを考えながら私はそわそわとクロが帰ってくるのを待つ。
ああ、なんだかいつもよりもずっと時間が経過するのが長く感じられる。人を待つ時間って、こんなにも長く感じられるものだったっけ、とそんな風に思う。
クロ、クロ、クロ……と、本名も知らないクロのことをずっと考えている。
本当に、大丈夫かな。無茶していないかな……そればかり考えていた私は、ドアの開く音がして慌ててそちらに向かう。
「おかえりなさい、クロ」
「……ただいま、ジャンナ」
そこにはクロがいてくれて、私はちゃんと戻ってきたとほっとした。
クロに近づいて、「怪我はない? 大丈夫?」と口にしてぺたぺたと体を触ってしまう。
「大丈夫だ。それより、魔物、外においている」
「そうなの?」
ぺたぺた触ってしまう私にクロが言った言葉に私は反応する。
確かにクロは手に何も持っていない。外にあるということかと外に行って、びっくりした。
「大きい。これをクロが? 大丈夫だった?」
巨大な魔物だった。これをクロが独りで、罠も使わずに? 凄い……とびっくりしてしまう。
「このくらいなら問題ない。いい慣らしになった」
「そう……やっぱりクロは凄いわね。今日はクロの取ってきたお肉で料理を一緒に作りましょう」
「ああ」
その後はクロと一緒に、料理を作った。クロが狩ってきてくれたお肉は美味しかった。
それからクロはたまに外に狩りにいくようになった。
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