二十年経った私の暮らし ②

「今度の納品分を作るか……」




 独り言をつぶやきながら私は立ち上がって奥の部屋へと向かう。




 一人暮らしをしていると、どうしても独り言がおおくなってしまうものだ。ぶつぶつと一人で何かを言ってしまう私は、この場に誰かいたのならば変な人間認定されるかもしれない。まぁ、今は悠々と一人暮らしをしているので問題はないけれど。




 玄関を入ったところにある一番最初の部屋はダイニングだ。一人暮らしにしては勿体ない広さと豪華さがある。キッチンは全て魔法具と呼ばれるもので、魔石を入れるか魔力を注入することで稼働してくれるものだ。

 これも家が建てられた当初に導入されたもので、とても高性能なもので助かっている。




 玄関から入って左隣に並んでいる二つの部屋は、お世話係が住むように作られていた部屋だ。ベッドもそのまま置いてある。




 残りの部屋は奥に二つ、右の扉から入った先に一つである。正直、奥の二つとダイニング以外は使っていない。

 一人暮らしには広すぎる家に、一人でぽつんといるのは最初は寂しかったが、今では慣れたものだ。






 私は奥の部屋の一つに向かう。

 その部屋は私が錬金をするために設置している部屋である。元々は私が『救国の乙女』として活躍できるものは何か分からないため、錬金に必要なものだけではなく、魔法書や政治の本、武器、裁縫道具とか様々なものを試すための場だった。






 この国に貢献してきた乙女たちは多種多様にわたる。

 圧倒的な魔法を使い、この国を勝利に導いた乙女。

 力はないものの政治的な手腕から、この国を大国へと押し上げた乙女。

 女性の身でありながら、その剣一つで英雄に上り詰めた乙女。

 裁縫という特技を武器に、ファッション界に旋風を引き起こし国に貢献した乙女。

 ……歴史に名を残してきた女性は、様々な面で活躍をした。






 預言者が『救国の乙女』になるだろう、と預言した乙女である私だが、何が出来るのかというのは分からなかった。どういう形で国に貢献するのかも不明であった。




 そのため、私は様々なことを学ぶことになった。村では出来ないことが沢山出来、村では学べないことを学べることは楽しかった。けど、結局私はどれも才能はなかった。天才や秀才と呼ばれる者たちは私以上にそれぞれを出来た。




 この森に住まうことになった時、まだかすかな希望を持たれて、様々なことに挑戦するための設備や道具をもらった。


 錬金術に使う設備も、その時にもらったものだ。国が用意したものなので、こちらも性能が抜群で助かっている。試させてもらった様々な事の中で、唯一趣味として続いているのはこの錬金だけなのだ。一番、私の性分に合っていて何よりも楽しい。他のことをするための設備や資料などは全部空き部屋になっている一室に押し込み、この部屋はすっかり錬金専用の部屋になっている。









 森の中で取ってきた材料が立ち並んでいる。錬金に使うための魔物の尻尾などが、特別な液体につけて瓶につけているので、はじめて見た人はぎょっとするかもしれない。沢山の素材が視界一面に広がっていて、見る人によっては嫌悪することだろう。そもそも錬金はそれをたしなまない人には怪しいとか、不気味だとか口さがなく言う人がいるようなものなのだ。






 ……錬金窯で材料を煮詰め、錬成するっていうのは確かに傍目から見ると不気味だと思う。そもそも錬金は調合とは違って、魔力や魔法を使うことが出来なければ出来ない技術だ。私は幸いにも平均的な魔力と魔法を使う才能はあり、錬金が出来ている。魔法が使える存在の中でも魔力量はそこまで多くないし、魔法が得意なわけでもないから、『救国の乙女』なのにって色々言われたのはよく覚えている。錬金を忌避する人がそれなりの数がいるのは、それが才能がなければ使えない技術だからだろう。この国においても魔法を使えるものはそれなりの数がいるが、使えない者の方が圧倒的に多い。




 私は本当にたまにだが、王都に行き、自分の錬金したものを作り手が分からないように偽装して、売りにだしている。

 というのも、現状私は自分で稼がなければ収入はない。

 『救国の乙女』になるからとこの森に住まい出した当初も、それなりにお金をもらっていたが、前述したとおり今は放っておかれているし、『救国の乙女』にもなれない女に税金を使わせるのも忍びないし、自分で稼ぐようにしているのだ。





 幸いといっていいのか、長年ずっと錬金をしていた私の商品は売るだけの価値があると判断されたようでどうにか収入を得る事が出来ている。




 自給自足生活を行っているので金銭がなくても生きていけるだろうが、王都で買いたいものが出てくることもあるし、何よりお金はないよりあったほうが良いということで貯金をしている。








 今、作っているのは傷を治すことが出来るポーションだ。





 試行錯誤して普通の苦いポーションとは違い、味や色がつくようにしている。冒険者の女性には「可愛いポーション」と人気らしい。男性も好みの味を見つけるとリピーターとなってくれたりしているようだ。

 自分の商品にそんな感想をくれる人がいると思うと、やっぱり嬉しかった。








 取引をしている商人には、「これを作った方に専属になってほしいのだが」と持ち掛けられたこともあるが、それはもちろん断っている。





 『救国の乙女』になるなんて預言がなければ、喜んで頷いたかもしれない申し出だが仕方がない。

 そう思いながら私はポーションの作成を黙々とこなすのだった。

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