二十年経った私の暮らし ①
「ふぅ……」
私は家の裏手の畑で、育てている作物の水やりをして一息をつく。
私が住んでいる家は、森の中にぽつんと存在している。一人暮らしだが、六部屋もあり十分な広さの平屋だ。レンガ造りの赤い屋根の一軒家。防御魔法も施されていて、滅多なことで壊れることはないだろうと言われている。
また王都でも有数の大工の手によってつくられた家というのもあって、外面も綺麗で、私はこの家の見た目を気に入っている。
今の私では一から作ってもらおうとしても間違っても作ってもらえないようなとても豪華な家だ。そんな家が森の中に存在しているって何だかアンバランスな感じがするけど、その不釣り合いだけど、何だかバランスが取れている様子も私は気に入っている。
家の周りには魔物が入ってこれないように柵が作られている。ただ柵だけでは魔物は柵を壊したり、侵入してきたりするため、柵には特別な処理が施されている。
また敷地内のあちこちに竜を模した魔物除けの置物が置かれている。これも実は高価なものである。……うん、私の今の収入では、手に入れるのは難しいものだ。
この柵と置き物も、この家が建てられた当初からおかれているものである。幸いにも効果が途切れることがなく、助かっている。ただいつか効果が途切れちゃうだろうし、切れた場合は自分で魔物除けを作るか王都に買い出しに行こうと思っている。
この森は王都の南方に位置していて、王都の民を危険から守るためにということである程度は騎士達によって対処されている。とはいえ自然豊かな地は魔物の住処であるので、対処をされていようがこの森は街よりも断然危険である。私なんて対処をしていなければ魔物の胃の中に収まってしまうことだろう。
家の裏側は元々花などが植えられていた庭だった。庭の真ん中に机と椅子が置かれていて、此処に来た当初はまだ希望を少しはもっていたので、優雅に入れてもらった紅茶を飲んだりしていた。
でも今はその面影はゼロである。
今は立派な畑や果実園と言った私が生活するための食べ物を育てるエリアになっている。あとはコッコという小さな魔物を育てている。食用でもあるが、卵目当てだ。
またお肉やお魚も食べたいので、なるべく自分で道具を使って獲って食べている。
街に行って買いに行くのもありなのだが、あまり人前に出たくない。いつも必要な時はこっそりいっているし。
色々目立たないように試行錯誤していっているから気づかれたことはないけど。まぁ、例え何も対処せずにいったとしても気づかれない可能性も大いにあるけど。でも念のためにね。
もうすぐ育てている果実が実るのよね。こうやって自分で育てているものが美味しく育つのは嬉しいものだ。一人で畑や果実園の面倒を見るのは大変と言えば大変だけど、楽しさを見いだせているし、問題はない。
畑などのお世話が終わったあとは、コッコの様子を見る。今日も元気にコケッコケッと鳴いていた。
コッコは家畜化されている魔物なので、比較的に大人しくて面倒が見やすい。もちろん、野生のコッコは狂暴だから気を付けないといけない。前に森の中で野生のコッコに遭遇して、追われて大変な目に遭ったことがある。
うん、たとえ慣れ親しんだ森の中だろうとも油断しない方が良いというのをその時より一層実感した。慣れてくると気を抜いて失敗してしまうから、気を引き締めないとね。
コケッコケッと鳴いているコッコたちの部屋の掃除をしてから、家の中へと入り、一息をつく。
家の外面を見ると、中もさぞ豪華だろうなと思われるかもしれないが、私の家の中は言ってしまえばちぐはぐだ。
確かに建てられた当初に設置されたベッドや照明などの家具に関しては豪華だが、あとから必要に応じて作った椅子や机などは木でつくられた簡素なものだったりする。王侯貴族が使いそうな家具と庶民が使いそうな家具が混在していると言えばいいのだろうか。中々不思議な空間になっていると思う。
正直、今こんな生活をしていると豪華すぎる家具は落ち着かない。売ってしまって、私の暮らしにあったものを買うべきではないかとさえも考えた事はある。とはいえ、流石に国がわざわざ用意してくれたものを売り払ったなどということを後からバレたらややこしい。
……今更、私の行動に気をむけてはいないだろうけれども念のためだ。あとから難癖をつけられても面倒だという思いから、結局このチグハグな空間を維持している。
そう『救国の乙女』になるなどと預言された私であるが、今はそれはもう放っておかれている。とはいえ、大層な預言をされた少女(もう少女って年ではないが)を目の届かない場所に置くわけにはいかず、そして騒動を起こされても困るということでどんどん肩身が狭くなった私は現在こんな森の中で一人暮らし中である。
森に住まう事になった当初はお世話係もいたし、訪れる人もまだいたのだが、今はほぼゼロと言える。
まぁ、『救国の乙女』になると預言されて、二十年も経過してもその片鱗を欠片も見せないので仕方もない事だろう。
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