(本編完結まで投稿済み)『救国の乙女』になると預言されて、早二十年経ちました。
池中 織奈
『救国の乙女』になると、預言された。
「この娘は『救国の乙女』になるだろう」
私は辺境の村に住んでいたどこにでもいるただの村娘だった。
その日、村に百発百中であたる予言をすると噂される預言者がやってきた。
何もない小さな村にかの有名な預言者がやってくるということで、村は沸き立っていた。その預言者は時に国を救う予言をあて、この大陸でも名が知れていた。私にとっては雲の上の存在であると言える王侯貴族の尊き人たちからも頼られているような存在だ。私は他の村人たちと同様に、そんな凄い預言者がこの村にやってきたんだと、喜んだ。
あの有名な預言者がこの村に訪れてくれるなんてと両親は顔を破顔させ、村人たちは今年は良い年になると喜んでいた。皆が嬉しそうにしていて、私は余計に嬉しかった。
「あの預言者がこんな辺境の村にやってくるなんて」
「どういう理由でこの村を訪れたのか分からないが、めでたいことだ」
「預言者に是非とも将来を見てもらおう」
その預言者の来訪は、もう日がくれる頃だった。だから預言者は村長の家にその日は泊った。予言を見てもらえるとしても翌日だろうという話だった。
有名な預言者と話せるんだとおもうと私はわくわくして、その日、中々寝付けなかった。落ち着かなくて、興奮して――、お母さんに呆れながらもう寝なさいと叱られた。
翌日、私の将来はどうなるんだろうと胸を弾ませて、預言者に私を視てもらった。
預言者の語る予言は、全てを語るわけではないけれど、この予言者の言葉はどんな些細な預言でも叶うことであると言われていた。だから例えば些細な預言でも喜んで受け止めようと思った。もし悲しい預言だったらどうしようという不安もあったけれど、預言を聞くという興奮の方が不安より勝った。
――そして、言われた言葉が『救国の乙女』になるだろうという言葉だった。
「『救国の乙女』になる?」
「ジャンナが?」
私は驚いて、何と口にしていいか分からなかった。村人たちの前で預言をしてもらったから、多くの村人たちがその言葉を聞いていた。
――『救国の乙女』になるという予言。
それに声をあげる村人たちの言葉は頭に入ってこなかった。突然の言葉に私は頭が真っ白になっていたのだ。
我に返って、冗談ではないかと思った。
だけど、預言者は言うのだ。
「いや、そなたは『救国の乙女』になる少女だ。どういう形でそうなるのかまでは視えないが、国をいずれ救うだろう。我は『救国の乙女』が現れるという預言を視て、此処までやってきた」
預言者は言う。
『救国の乙女』が現れる未来を視たのだと。だからこそ、この村にまでやってきたのだと。
だけど、預言者は万能であるわけではなく、どういう形で『救国の乙女』に私がなるのかは分からないそうだ。
何度も視てもらったが、預言者が視た『救国の乙女』は私で間違いがないらしい。
「そなたを王都につれていこう」
『救国の乙女』になる私をこの辺境の村に置いておくより、王都に連れて行った方が良いと判断したらしい。
「本当に大丈夫なのか?」
「ジャンナはまだ八歳なのに……」
「大丈夫! 預言者様が言ってくれているんだもん。私、頑張る!!」
両親は不安そうにしていた。それは私を心配しての言葉だった。
だけど、私は特別な存在なのだと浮かれ、同時に王都への強いあこがれもあった。だから、王都に行くと両親にはっきり言った。
そして私は預言者と共に王都に向かうことになったのだ。
――それが私、ジャンナが八歳の時の出来事だった。
それから二十年。
「お、これは中々品質の良い薬草ね」
私は王都の南方にある森でのんびり一人暮らしをしていた。
『救国の乙女』にはなれていない。
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