鬼の扱いは超絶難しい
時御門智尋
第1話 消えて儚き理想郷
「夜姫!もうやめろ…そんなに斬ってどうする。都の刺客はもう逃げたから心配ない。」
「…もう、いないの?旦那様」
「ああ」
世は鎌倉の時代。平安時代に滅ぼされた妖の理想郷大江山。その子孫たちは異界を通し日本の各地に散らばった。大江山の王と女王、酒呑童子と茨城童子の子は奥州の陸前に逃げた。その子は薬莱山という山に國を作った。
夜姫は國王の妃で、特徴的な金の鈴を刀の柄につけていた。
「殿!」
「ああ、沙汰雪か。被害はどうだ」
沙汰雪は人狼の青年で浅葱色の目をしている。性格が明るく、王に忠実だが、少々口が悪い。
「怪我等の軽症者は多いものの、死者や重症者は全くいません」
「それが1番良い。住居等の被害は?」
「それが…麦畑の古城が全壊しました!」
麦畑の古城。それはこの國を守る要塞的な立ち位置のもの。
「それは誠か。」
「確かに!」
あの要塞が壊された…この國の壊滅を示唆しているかもしれない…
「すぐに要塞を立て直すぞ。2ヶ月以内に」
「了解!」
「他の被害は?」
「古城の周りの麦畑の麦が半分以上焼けてしまいました。食べ物の備蓄は先の戰で三割程使用したため、再備蓄には米を…」
この瞬間雷鳴が鳴り響き麦畑から煙が上がった。
「なんだ?火事か?…すぐに消炎隊を呼べ。それと沙汰雪、一緒に行くぞ」
消炎隊は名の通り火消しや救助等を行う部隊。
「旦那様…私は?」
「夜姫は鋼の神殿へ。一緒に最奥も行け。お前には護衛を頼む」
最奥は夜姫の側近の吸血鬼。紅の眼に茶髪の青年。無口だが、愛想はある。鋼の神殿は王族やその側近たちが住まう場所。一度も敵に襲われることがない場所である。
「了解。夜姫には誰も触れさせない。」
「殿。消炎隊が到着しました。」
「消炎隊隊長、朱斬…今、参上しました。」
朱斬は半分は妖、半分は猫の少し小さな美形な女。この國では女の側近は珍しい。
「よし、全員揃ったな。では行くぞ。」
小麦畑の古城の畑に向かう王。だが不可解なものが…
「これは…火事ではないな」
そこにあったのは小さな渓谷。元々こんなものはないはずだが…
「おそらく、地裂きの術と雷鳴の術を合わせた雷帝の術かと」
「お前は…爽秊」
こいつは妖術を駆使する狐。夜姫の眷属である。他には、最奥も眷属である。
「だが小さ過ぎだろ」
「完全に扱えないと基本は小規模だ。そんなこともわからないのか。沙汰雪。」
「うるせぇな。小汚い狐目が」
「喧嘩すんなよ」
沙汰雪と爽秊は仲が良くない。
「帰るぞ」
鋼の神殿に帰る王。しかし、そこにあったのは…
「夜姫!どこにいるのだ!」
そこにあったのは燃え果てた神殿…そして焼け野原の城と城下町。
「王!」
「…最奥。夜姫は…夜姫のは?」
「姫は死んだ。呆気なく。」
「きっ…貴様!」
「だがな、我が王。俺がしっかりとしていれば朝廷の刺客に切られることはなかった。」
「朝廷の軍勢が…来たのか…」
「そうだ。俺は貴方と同じように愛した鬼の最期を見たのだ。刺客に捕まり、火炙りにされる最愛の鬼を。彼女は踠き苦しみ、最後にあなたの名を叫び、灰になった。しかし、彼女の紺色の鮮やかな髪は燃えていたのに、いつもの何倍にも、美しかった。だが、悔やんでも悔やみきれないし、あなたにも謝罪しなくてはいけない。あなたの妃を、最愛の鬼を見殺しにしてしまったからだ。……すまない。」
「分かった…お前はもういい。充分に活躍した…そしてこれからもだ。もうこの國は堕ちて、立ち直るほどの力もない。薬莱山の理想郷は消えたのだ。故に私は…自害する。」
「王…」
「最奥、沙汰雪、爽秊、朱斬は生き残った妖を異界に導け。お前らも異界に…」
「殿!あんまりです…」
ここで沙汰雪は声を上げた。
「私はあなたの背中を追いかけて、追いかけ回して…やっと追いついた。なのに…なのになのに…あなたは私から消えるのですか?」
「沙汰雪…よせ…國王の命だ。」
朱斬が止める。
「沙汰雪…俺は、もう疲れたのだ。夜姫がいない今、俺はこの國の残りの住民を異界に移す。それが俺の最後の使命だ。お前たち四人に俺達について来いと言っておいて、ここ切り離すのは…はっきり言って、違う。」
「なら、何故、私たちも冥界に一緒に行っては行けないのですか?。」
沙汰雪が俺に問う。
「それはお前たちと俺との使命には違いがあるからだ。俺は冥界…いや地獄に行く必要があるが、お前たちは異界に行かなくてはいけないのだ。」
「そんな使命…誰が…誰が指示を」
沙汰雪が泣きながら必死に問う。
「瓦解したこの國の”王”がお前らに命じた。お前ら一人一人に文を書く。書く間に生存者をここに集めろ。」
「…了解。」
四人衆は小さい声で返事をし、四方に散った。
「殿…発見生存者…17名。」
全員が戻ってきた。どうやら17人らしいな。
「分かった。…ほら、お前らへの文だ。そして、最後に命ずるのは俺がお神酒を飲み、辞世の句を読み終え、腹を切るまでをしっかり見ることだ。」
そう言うと、王は一気にお神酒を飲みほし、句を読み出す。
「避けられぬ 終わりなき者 何作れ 我思うに 一片の悔いなし」
書いた紙を小刀に包み、腹に刺しいれた。
返り血が飛び、最奥にかかる。そして…
「“國王…死亡”」
朱斬が言い、その後、辞世の句と返り血が付いた小刀を鞘に戻し、沙汰雪が脇にさした。その後、全生存者を異界に連れて行った…
鬼の扱いは超絶難しい 時御門智尋 @digger
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