第101話 植物四天王

「ポイズンローズ伯爵参上」


「レベルダウンキノコ伯爵だ、生き残りは少ねえな!」


「仕方あるまい。パラライズグラス伯爵だ。時間には間に合ったな」


「ストーン草伯爵だ。案の定、我ら植物軍団のみか……」



 四天王が倒れ、魔王様ですら倒れた。

 我ら魔王軍は、人間に追われる立場となったのだ。

 元々、暗黒魔導師のバカが戦力を魔王城に集めすぎていたために、城内で多くの仲間が討たれてしまった。

 人伝に聞いたが、勇者たちに全滅させられてしまったそうだ。

 どうしてこんなことになったのか……。

 暗黒魔導師の責任は大きいが、まさに『策士策に溺れる』とはこのことだな。

 我ら思慮深い植物軍団から、四天王を選ばなかった報いだ。

 我ら植物軍団は、その特性ゆえに魔王様が討たれたあとも潜伏して人間に姿を見せなかった。

 短慮にも魔王様の仇を取るのだと言って暴発した奴らから、数で勝る人間に殺されている。

 こうなったら、もう長期戦だというのに……。

 行動バカのブラックイーグル公爵。

 なにを考えているのかわからないプラチナナイト。

 暗黒魔導師と同じく策に溺れたアンデッド公爵。


 我らは、こいつらと同じミスはしない。

 しばらくは、魔王様がもしもに備えて隠した財宝と共に時を待つことにしよう。

 全員が人間どもにつけられないよう、慎重に移動していたからこそ、集合に時間がかかったのだ。

 しばらくはここに隠れて、人間の油断を誘う作戦である。

 幸いなことに、我らは植物のモンスターなので、水だけで数百年過ごすことも可能だ。

 人間を襲わないで済む分、安全に時を待てる。


「他の生き残りはいるのだろうか?」


「いるはずだ。だがな、パラライズグラス伯爵。今は下手にここを目指さない方が安全だ」


 人間どもは、今懸命に魔王軍の残党狩りをしている。

 野良モンスターたちも巻き添えというか、人間たちの中には我ら魔王軍のモンスターと、元からこの世界にいる野良モンスターとの区別がついていない奴が多い。

 我らは人間以上の知性があるが、野良モンスターたちは喋れないというのに……。

 まあ、野良モンスターたちはすぐに増えるので、我らのいい身代わりになってくれていると考えれば、そう悪いことでもないのか。


 将来、魔王軍を再建して世界征服をした時、それなりに報いてやればいい。


「我らもここで暫くは待機だな」


 一応仕切り役というか、リーダー役の私ストーン草伯爵としては、今は雌伏の時であると思っていた。

 魔王様に命令されて隠した旧バルト王国の財宝もあるので、人間たちの警戒が緩めば、これで奴らを買収するのもいいな。

 人間は下等な生物なので、金で同胞を裏切る奴などいくらでもいる。

 吐き気のするクズどもなので、滅ぼすのに抵抗がなくていい。


「そうだな。人間は金のためなら、どんな悪事でも働く。しょうもない生き物よ」


「それは否定しないけど、そんな人間は沢山いないし、お前らも似たようなものだろう?」


「「「「誰だ?」」」」


 この秘密の場所に我々以外の者が?

 仲間……いや違う!

 この声の主は……。


「人間か?」


「見てわかるだろう。観念するんだな」


 いつの間にか囲まれている?

 まさか、この秘密の場所がこうもアッサリと人間たちに見つけるとは……。

 これまで誰も近寄りもしなかったのに……。


「魔王様は、ここは安全だと……」


 だからここに、旧バルト王国の財宝を隠したというのに……。

 こうなれば……。


「隠し財宝の場所と、我らの潜伏先が知られた以上、生かして帰せないな。人間」


「魔王を倒した僕たちを殺せるかな?」


「「「「なんだと!」」」」


 姿を見せたガキが……こいつが、魔王様を討った人間の勇者だというのか?

 まさかそんなことは……ないとは言えないが……。


「魔王を倒せた僕たちからすれば、その部下なんて余裕だね」


「その油断が死を招く。それを自覚しながら死ね!」


 確かに、我らは魔王様ほどは強くない。

 だが、弱いなりに戦い方があるのが、我ら植物軍団なのだ。


「ポイズンローズ伯爵」


「おう!」


 我らを何人かで囲んでいるようだが、詳しい数を確認するまでもない。

 それは決して油断しているからではなく、我らの特殊な攻撃なら全員を倒すことが可能だからだ。

 まずは毒バラのモンスター、ポイズンローズ伯爵が毒の霧をこの秘密の場所一帯に吐き出した。

 ポイズンローズ伯爵の毒霧は、通常の毒消し草では消すことができない。

 『猛毒』を食らえば徐々に体力がなくなっていき、わずか数分で完全に死に絶えてしまう。

 いくらレベルが高くても、猛毒の前には無力なのだ。


「レベルダウンキノコ伯爵だ」


「弱くなりやがれ!」


 レベルダウンキノコ伯爵はさほど強くはないが、その代わり『レベルダウン』という非常に特殊な特技を使えた。

 これは、対象のレベルを一定の間下げてしまうものだ。

 レベルが下がれば弱くなるし、当然猛毒による死までの時間も早まってしまう。


「パラライズグラス伯爵」


「おうよ!」


 パラライズグラス伯爵は、相手を麻痺させられる特殊な攻撃が使える。

 麻痺してしまえば、いくら高レベルの敵でも簡単にトドメを刺せてしまうのだ。


「そして最後に、この私ストーン草伯爵が、お前らを石にしてやる」


 私は、対象を石にできる特技がある。

 猛毒、レベルダウン、パラライズ、石化。

 これだけ食らえば、いかに魔王様を倒した勇者たちとはいえ、もう身動きは取れないはず。

 あとは、ゆっくりと調理すればいい。


「はははっ! 飛んで火にいる夏の虫とはお前らのことだ! 残念だが、この場所を人間どもに知られるわけにいかないのでな。そのまま死ぬがいい」


 功名稼ぎか、褒美稼ぎかは知らぬが、不幸な連中よ。

 我らは時を稼がねばならぬ。

 お前らを骨片一つ残さずに処分してやろう。


「あーーーはっはっ! もう動けないかな?」


「そうでもないよ」


「なっ! どうして?」


「バーーーカ! 僕がちゃんと対策も立てずにここに来ると思ったの? 所詮は植物だね」


 そんなバカな……。

 我ら四人の特殊攻撃がまったく効いていないだと!

 最低でも、どれか一つは必ず効果があるはずだ!

 四人とも、まったく効果がないなんてあり得ない。


「そのあり得ないことが起こることもあるのが現実なのでね。悪いが倒させてもらうよ」


 こうなれば、もう一度特技を用いるしかない。

 今回は、運悪くすべての特技が効果なしだったのであろう。

 次で、どれかしら効果があればいいのだ。

 必ずや、お前らを血祭りにあげてやる!




「手間だったけど、効果あるなこれ」


「『ミサンガ』が、一番強いアクセサリーとはね……」


「防御力は皆無だから、別にアクセサリーが必要だけどね」


「『全特殊異常無効』は凄いわよ。しかもこれ、元々お土産品じゃないの」


 裕子姉ちゃんの言うとおり、最強の特殊効果を持つアクセサリーが元はお土産品なのは、シャドククエストの設定か変わっている証拠であった。

 他にも、大して意味がなさそうなアイテムが錬金で生まれ変わる設定がいくつかあるから、これはもうシナリオを担当した人の好みなのだと思う。

 俺もそういうのは嫌いじゃないな。


「アーノルド、お前、とんでもないアクセサリーを作れるんだな」


「まあね」


「アーノルド様、『まあね』で表現していい錬金レシピじゃないですよ」


「そうは言うが、ビックス。他に言いようがないのも事実だぞ。ここでドヤ顔しても恥ずかしいじゃないか」


 やはり、魔王軍の残党は隠し財宝と共に潜伏していた。

 俺はその場所を知っていたのですぐさま向かい、みんなで連中をそっと包囲して逃がさないようにしたのだ。


 俺たちの存在に気がついた植物軍団の四天王は、すぐさま特殊な特技を用いて魔王を倒したはずの主人公たちを苦戦に追いやる……というのが、ネット上に公開された外伝小説の内容であった。


 主人公たちは、猛毒を食らう者、麻痺する者、レベルを下げられる者、石にされてしまう者と。

 最初は命からがら逃げだすことになる。

 その後、新しい武具やアクセサリーを新錬金で作り出し、十分に対策をしてから再戦。

 見事勝利するという内容なんだが、俺は新錬金の内容を知っているので先に整えていた。


 このゲームで、一番使えるアクセサリーは『ミサンガ』だ。

 元は、『お土産用のミサンガ』というアイテムで、正直なんのためにあるのかわからないのだ。

 換金アイテムにもならないほど安価で、装備しても防御力が上がるわけでも、なにか特殊な効果があるわけではない。

 ところが、これを材料に錬金できる『ミサンガ』は、すべての状態異常が無効という最強の効果を持っていた。

 その材料は、『お土産用のミサンガ』一つ、霊糸十個、水、プリン玉、魔石である。

 霊糸は出現率を考えると、パーティメンバー全員に揃えるのは難しいはず。

 俺と裕子姉ちゃんは運の基礎値が高いので、とにかく沢山レイスを倒して貯めていたのだ。

 こうなることを予想して。

 なかなか大変だったけど、もし俺たちの運が人並みだったら人数分のミサンガを揃えるなど不可能なので、それはラッキーだった。


「どうだ? 通常の毒とは違って効き目が早いだろう?」


「レベルが下がって弱くなるのは辛いな」


「どうだ? 動けまい」


「すぐに石にしてくれよう」


 四匹とも、余裕綽々な態度を見せていた。

 すでに俺たちは、彼らの……植物系のモンスターたちに性別があるのかは不明だが……特技をすべて防いでるのだが、まだ気がついていないようだ。

 これまで、植物軍団四天王の特殊攻撃を防げた者はいない……WEB小説からの知識だ……からであろう。

 まさか、ミサンガを全員分揃えるなんて、そもそも連中がミサンガの存在を知っているとは思えないな。

 俺が、この世界で最初に錬金に成功したというのもあった。


「そんなに面白い?」


「当然だろう。魔王様を倒したと自慢しているバカたちを一気に地獄に叩き落とせるのだから」


 ポイズンローズ伯爵、レベルダウンキノコ伯爵、パラライズグラス伯爵、ストーン草伯爵と。

 全員性格が悪いんだろうなと、俺は思った。

 植物がいい奴というのも変というか、だからなにって話になってしまうけど。


「で、効果ある?」


「なにを愚かなことを! 我らの特殊攻撃が効かない者など魔王様以外には……あれ? 猛毒が効いていないのか?」


「麻痺してないぞ!」


「石化もしていない!」


「ということは、レベルダウンもしていないのか?」


 ドヤ顔で語る前に、よく確認しておけばよかったのに。

 お前らの攻撃は、すべてミサンガで無効になっていたのだから。

 これまで一度も失敗したことない特殊攻撃が効かず、植物軍団四天王の動揺は大きいようだ。

 なかなか通常攻撃に移行しない今が、最大のチャンスだ。


「みんな! 手筈どおりに!」


 高い位置から四天王を包囲していたのも、次の攻撃で最大の効果を発揮するためであった。

 俺の合図と同時に、全員で事前に用意していたものを大量に彼らに投げつけた。


「なんだ? この液体は?」


「ポイズンローズ伯爵、この臭いは……」


「まさか!」


「逃げるんだ!」


「逃がすか!」


 逃がしたら厄介なことになるのだから、確実にここで仕留めるに決まっている。

 俺たちが投げつけたのは、大量に錬金した『火炎放射器の燃料』であった。


「オードリー!」


「はい!」


 さらに、俺の合図でオードリーが火炎放射器の燃料を大量に浴びた四天王に火魔法で火をつける。

 そんなに強い魔法ではなく、種火程度だ。

 それでも火炎放射機の燃料に引火し、一気に燃え上がった。

 四天王は炎に包まれる。


「熱いーーー!」


「ポイズンローズ伯爵! このままでは、植物である俺たちは!」


「だが、レベルダウンキノコ伯爵。我々は完全に包囲されているのだ」


「我らの状態異常攻撃が通用しないとなると、逃げるのも困難だぞ!」


「魔王様を倒した連中だからな! 数も多い!」


 ゲームでもWEB小説でも、パーティメンバーは四名だが、こんなものはゲームのシステムやメモリーの問題であり、小説も書き手からすれば八人もいたら描写が面倒だからだ。

 人数が少ない方が、キャラを立てやすいというのもあるか。


 だが現実の世界なら、八人パーティで四天王を包囲して袋叩きにするのもアリというわけだ。

 火炎放射器の燃料で燃え上がる四天王は、ゲーム画面だと毎ターン大ダメージを受けている。

 体の水分が抜ければ余計に燃えやすくなり、このまま逃がさないよう放置しておけば、あとは時間の問題というわけだ。


「アーノルド様は凄いです。モンスターの弱点をすぐに見極めて対応できるのですから」


 リルル、それは君の誤解だ。

 俺はそれを知っていたから、事前に対策できたのだ。

 火炎放射器の燃料に関しては、野良モンスター狩りで需要があるから常に在庫を多く持っており、『実は、事前に知っていたのでは?』という疑惑を誤魔化すためでもあった。


「あっ、そろそろ」


「アーノルド、トドメを刺すの?」


「違うよ、ローザ。はい、これ」


「なにこれ?」


「毒マスク」


「そんなのあるんだ……」


 これがあるんだな。

 なぜか錬金でちゃんと作れる。

 四天王は放置しておけばそのうち燃え尽きるが、その間俺たちは煙たいし、酸素が不足するかもしれない。

 快適なボス討伐のため、事前に錬金しておいたのだ。

 毒マスクと銘打ってあるけど、実は水中などでの活動にも使えると説明には書いてあった。

 シャドウクエストにおいて、水中で戦ったり、水中で消化するイベントは存在しなかったけど。


「もうすぐかな?」


「こっ! こんなバカなことがあっていいものかぁーーー!」


 最後まで残っていたポイズンローズ伯爵が消え去り、本編終了後のイベントの消化に成功した。

 一番強力であろう魔王軍残党である植物軍団の頭を潰すことに成功したので、これ以降はホルト王国に残敵掃討を任せて問題ないであろう。


「アーノルド、火を消さないの?」


「火炎放射器の材料って油だから、水で消さない方がいいよ。燃え尽きるまで外で待とう」


「そうね」


 それから数十分後。

 四天王の潜伏先に戻ると、すでに炎は消えていた。


「オードリー、お願い」


「わかりました」


 ただ、まだとても熱いので、オードリーに吹雪魔法で冷やしてもらう。

 彼女はさらに魔法の腕を上げており、すぐに熱くなくなった。


「じゃあ、あとはドロップアイテムとバルト王国の財宝は……あった」


「すげえな。あるところにはあるんだな」


 シリルが驚くのも無理はないか。

 一国の財宝だからな。

 ただ、これまでの魔王軍にはさほど使い道がないものであった。

 おかげでバルト王国の財宝はそのまま残されており、これがあれば復興予算にもある程度目途が立つはず。

 そういうことにはお金がかかるので、必ずしも十分という保証もないけど。


「独り占め……はできないよな」


「シリル、そんなに国外に移住したいの?」


「冗談だって」


 今回は、マカー大陸副総督……俺もそうか!……であるロッテ侯爵からの依頼であるし、この状況で『俺たちが見つけたんだから、全部俺たちのだ!』などと主張すると、俺の死亡フラグやら、国外追放フラグの発生が予想されるからだ。


「報酬を貰って、みんなで分けた方が利口だよ。シリルは、妹さんにお店をプレゼントできるじゃないか」


「シリルさんよりも、アーノルド君の方が大人なんだね」


「見た目はなかなかの年齢に見えるのにね、シリル君」


「アンナさん……それは言わないで……」


 シリルも冗談で言っただけで、その辺は理解しているはずだ。


「で、植物の四天王のドロップアイテムだが……よく燃えなかったな。これはなんなんだ?」


「『バラの棘』と『植物の液体』が三つだね」


 一見、あれだけのモンスターを倒したとは思えないドロップアイテムだが、実はかなり貴重なアイテムであった。


「バラの棘は、ローザの鞭を強化できる」


 これで、ローザの『バラの鞭』は彼女にとっての最強の武器となるであろう。

 えっ?

 魔王やその残党のリーダーたちが倒れたあとに必要なのかって?


 そういう間の悪い部分を楽しむのも、シャドウクエストというゲームなのだ。

 それに、この世界は俺たちが死ぬまでずっと続いていく。

 今後、バラの鞭が必要なことがあるかもしれない。

 なにより野良モンスター相手になら無敵に近いので、冒険者としても、素材を集める錬金術師としても、バラの鞭は邪魔にはならないだろう。


「アーノルド君、この植物の液体はなにに使うの?」


「研究しますけど、なにか魔法薬を作れるでしょうね」


「へえ、そうなんだ」


 エステルさんにはこれから研究すると嘘をついたけど、実は植物の液体は、『エリクサー』の材料だったりする。

 これと、品質がSランクの『傷薬(大)』と『毒消し薬』、『魔力回復ポーション』、水、プリン玉、魔石が材料だ。

 エリクサーを用いると、二十四時間以内なら細胞が一個しかなくても生き返れる。

 HP、MP、状態異常全回復なのは言うまでもない。

 伝説クラスの魔法薬で、シャドウクエストのゲーム中でも一個しか手に入らなかった。

 死者でも蘇らせるとはいえ、ゲームシステム上だと、HPがなくなると戦闘不能扱いで死んでいるわけではない。

 パーティ全員が戦闘不能になると、そのままゲームオーバーとなるけど。

 勝利するなり戦闘から逃げ出すとHPが1の状態になるので、エリクサーの死者を蘇らせるという効果はまったくの死に設定だけど、全回復アイテムではあった。

 一個しか手に入らないので、勿体なくて使わない人も多かったけど。

 なにを隠そう、俺もそうだった。


「植物の液体は三つあるから、なにかが三つ作れるのね」


「はい」


 エリクサーが三つ。

 これを売ればひと財産になるので、危険な隠し財宝で欲をかく必要はなかった。


「あっ、そうそう」


「まだなにかあるのか?」


「ちょっと寄り道だよ」


「寄り道ねぇ……」


 裕子姉ちゃんを始め、みんなが疑いの目で俺を見ているが、これも安定した将来のためだ。

 財宝の隠し場所から少し北上した草原に移動すると、そこでモンスターたちの群れと戦闘になった。

 これは、全員で簡単に排除してしまう。


「ここで野営するからね」


「ここで? なにもないじゃない」


「それがあるんだな。暗くなればわかるよ」


 レベル900超えメンバーばかりなので、『魔物除け』と『回避の水晶』を置くと、周囲からモンスターの姿は消えてしまった。

 調理錬金したグラタンと肉ジャガを食べていると、徐々に空が暗くなっていく。


「暗くならないと駄目なのですか?」


「そうだよ。ビックスは目がいいよね?」


「はい」


「あそこを見てごらん」


 俺が指差した方の草原が光っており、ビックスもそれを確認できたようだ。

 実は、あまり目がいいとか悪いとか関係ないかも。

 よほど目が悪くなければ、必ず確認できる光だったのだから。


「アレはなんなの? アーノルド」


「『光り草ひかりそう』だよ。貴重な草なんだ」


「貴重なんだ」


 光り草は、数百年に一度しか生えてこない。

 そして、わずか一年ほどで枯れてしまう。

 ただ、貴重なのはいいのだが、使い道がないというか研究途上の草なのだ。

 なにか錬金に使うはずだと、長年多くの錬金術師たちが研究を続けていた。

 滅多に生えないがゆえに、なかなか使用方法が判明しないという悲しい現実もあったけど。


「まずは確保しようか」


 他に、光り草を採取しにきた人はいないけど、念のため先に採取しておく。


「根っ子ごと採ってね」


「いいの? 次に生えてこなくなるわよ」


「それはない」


 光り草は、他の薬草の類とは生態が違うからだ。

 どうせ根を残しても、次にそこからは生えてこない。

 光り草は、どういうわけかランダムに生えてくるからだ。


 どこに生えやすいとか、そういう条件がまったく不明なのだ。

 では、どうして俺が光り草が生えた場所を知っているかって?

 外伝で描写されていたからだ。

 ここのを採取したら、あとはどこにいつ生えるのか、俺にもわからなかった。


「なあ、アーノルド。俺も光り草が希少なのは知っているけど、この群生地は凄いな。大きな錬金工房や国の研究所に高く売れそうだ」


 光り草に関しては。各国の錬金術師が懸命に研究……するほど量がないので苦戦している。

 なにか凄い錬金素材でありそうだが、なかなか答えに辿り着かない。

 だからこそ、市場に出回ると高値で取引されていた。

 そして俺は、この光り草の使い道を知っていた。

 シャドウクエストの設定や外伝の情報からだけど。


「こんなものかな」


「根こそぎだね」


「エステルさん、光り草は他の薬草とは違って、根を残しても枯れるだけなんです。次は数百年後、他の場所に生えます」


 それに根も貴重な錬金素材なので、これを放置するなど俺的にあり得なかった。

 もしかしたらこの世界のどこかにまだ生えているかもしれないが、俺はここの光り草しか知らないので、ここのを採取しておけば問題ないと思う。


「アーノルド君、光り草を使う錬金のあてがあるみたい」


「なくはないです」


 アンナさんの疑問に、俺はふんわりと答えておいた。

 錬金工房に戻れば、すぐにわかることだからだ。


「アーノルド様、あとは?」


「寝る。もう用事ないしね」


 光り草さえ採ってしまえば、もうこの草原に用事はない。

 明日になったら、他の場所に採取に出かけようと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る