第102話 パクリイベント?
「なあ、アーノルド。この迷路のような洞窟はなんなんだ?」
「モンスターは少ないし、大した素材も手に入らない雑魚ばかり。ここになにかあるの?」
「あるよ、あった!」
「この小さなコインがなんなんだ? ただの銀貨じゃないのか?」
「こんなものに価値があるの?」
「これを集めるため、俺はここに来たんだ」
翌日、俺たちは別の山奥の洞窟の中にいた。
シリルとローズの疑問に答えながら、迷路みたいに複雑な通路が多数ある洞窟を進んで行く。
魔王が倒れる前より、圧倒的に数が減ったモンスターたちを倒しながら、先へ先へと進んで行く。
ここで手に入るモンスター由来のアイテムは、雑魚モンスター『ブラックバット』の羽と魔石のみであった。
特に貴重なものは手に入らない。
ではなにが目的かといえば、今通路の奥で見つけた小さな銀貨であった。
「アーノルド様、なにか希少価値のある銀貨なのですか?」
「これ自体は古い銀貨でしかないよ。コレクターズアイテムとして価値が少しあるくらいかな?」
「コレクターズアイテムですか……」
コレクターズアイテムと聞き、ビックスが『どうしてわざわざそんなものを……』と言った表情を浮かべていた。
ゲームの設定だと、通称『古銀貨』と呼ばれる、最初使い道が意味不明な銀貨だったが、シャドウクエストを愛する有志たちの手によってその使い道が判明した。
「ええと……ここかな?」
なんということもない、洞窟のとある通路の真ん中。
壁を丁寧に探ると、そこにはボタンが一つあった。
「ボタン……なんでわかるんだ?」
「神のお告げです」
「もうそうとしか思えないな」
なぜ俺が色々と知っているのか。
シリルは、本当に『神のお告げ』という答えを見つけて逆に安心したようだ。
事実じゃないけど、彼が納得すればそれでいい。
「でも、『神託』とは違うよね?」
「そうですね」
エステルさんが指摘した特技『神託』は、才能があって神職者にならないと発露しないからだ。
俺は神官じゃないし、『神託』ってのはレア特技のくせに使いにくい。
なぜなら、寝ている時に夢の中でお告げを受けるので、宿などに泊まらないと神託が下されない。
さらにその内容が抽象的すぎて、ネットでシャドウクエストの攻略方法が公表されたら、その存在意義が消滅してしまった。
という、悲しい特技なのだ。
「俺、『神託』は持っていませんよ」
「じゃあ、期間限定なのかもしれないね。今だけかぁ」
エステルさん……。
ゆるふわ系なのに、時々鋭いよな。
俺はゲームの情報しか持っていないので、将来その情報があまり役に立たなくなっていくことを、まるで知っているかのように言うのだから。
「きっと、大人になるとわからなくなるんですよ」
「サラバ、少年の日々よ。だね」
「エステルさん、こんな子供、そうはいないと思うけど……」
シリル、俺の中身はすでに二十歳すぎなのだから仕方がないじゃないか。
おっと、ボタンを押さないと。
「隠し部屋ね。モンスターはいないみたい」
アンナさんが壁のボタンを押すと、入り口が開いた。
これもゲームどおりだ。
続けて彼女が安全を確認し、全員で中に入ると、十畳ほどの部屋があった。
剥き出しの岩が壁になっており、部屋というよりも箱という印象を受ける。
そしてその部屋には、七十代ほどと思われる老婦人がいた。
よく見ると彼女の足元は透明であり、幽霊なのもゲームどおりだな。
「あなたたち、私の思い出の銀貨を持っているわね。返してくれないかしら?」
「どうぞ」
俺は、躊躇なく彼女に古銀貨を渡した。
なぜなら、これはそういうイベントだからだ。
ゲームの本編にはなんら関係ないし、ここで得たアイテムは魔王討伐で必要不可欠ではないことはすでに確認されている。
いつでもクリアーできるので、魔王軍の残党討伐イベントのついでにやって来たわけだ。
「銀貨は全部で五十二枚。結婚してから、毎年夫がくれたものなの。全部集めてもらえるかしら?」
「わかりました」
「お願いね。勿論お礼はさせていただくわ」
老婦人の幽霊は、夫と結婚していた五十二年間。
毎年記念の銀貨を結婚記念日にプレゼントされていた。
だがその死後、大切にしていた古銀貨は洞窟のあちこちに散らばってしまった。
「(ねえ、どうしてお金持ちのお婆さんが毎年夫から貰っていた記念銀貨が、この洞窟のあちこちに落ちているの?)」
「(さあ?)」
俺は裕子姉ちゃんの問いに対し、首を傾げて同調した。
あえて言うのであれば、このシナリオを考えた人に問題があるのかもしれない。
とにかく、シナリオに整合性がなさ過ぎるのだ。
「(とにかく、古銀貨を集めればいいんだよ)」
「(集めると、なにか貰えるのよね。なにかのRPGで似たようなイベントがあったけど……)」
裕子姉ちゃん、それを言ってはいけない。
俺たちは隠し部屋を出ると、古銀貨の探索を始めた。
「見つけた」
「よくわかるな」
シリルが呆れていたが、俺はこのイベントで探す古銀貨の位置を大体知っていた。
ゲーム画面上と実際の洞窟との差を考慮すれば、そう苦労なく古銀貨は見つかった。
「残り五十枚だな」
まるで迷路のような洞窟を移動し、次々と古銀貨を拾っていく。
時間はかかったが、無事に合計五十二枚の古銀貨を老婆の幽霊に返すことに成功した。
「ありがとう、お礼に好きなものを選んでね」
実はゲームだと、古銀貨と交換できるアイテムのリストが画面に表示されるわけだが、現実では老婆の幽霊の後ろに埋め込まれている棚にアイテムが置いており、『何枚』と交換レートが表示されていた。
「(まるで、お店みたいね……)」
わざわざ棚に品を並べ、何枚で交換できますと札まで書いてある。
幽霊がこれを書いたのか?
色々とおかしな点はあるが、気にしても仕方がない。
ただ素直に、お礼の品を貰って帰ればいいのだから。
「アーノルド様、この『カタナ』という変わった形の剣はいいですね」
「そうだね……」
シャドウクエストの世界に日本風な国や地方はないんだが、調理錬金で和食も作れるし、刀が特殊な武器としてあったりと。
日本的な要素がなくもなかった。
ビックスは、古銀貨二十枚で交換できる刀に興味を示したようだけど、実はそれはハズレである。
なぜならそれは、ただの『呪われた刀』だからだ。
本当に普通の刀が呪われているだけなので、これに古銀貨二十枚では割に合わない。
この幽霊の婆さん。
どうやっても、古銀貨五十二枚分以上の品は交換してくれないので、交換は慎重にというわけだ。
「(なにと交換すると、一番効率がいいの?)」
「これだな」
俺が選んだのは、古銀貨一枚で交換できる『えりくしゃー』であった。
「これを五十二本で」
「「本当にそれでいいの?」」
老婆の幽霊と、なぜか裕子姉ちゃんまで声を大きくして聞いてきたけど、他のアイテムは換金用としては優れたものも多かったが、役に立つのかと言われるとかなり微妙だ。
それに、お金は錬金でいくらでも稼げるからな。
その点、この『えりくしゃー』はこのイベントでしか手に入らない。
非常に貴重なアイテムであった。
「本当にいいの?」
「ええ、もしかして五十二本ないんですか?」
「ちゃんとあるわ。でも後悔しないでね。はいどうぞ」
俺が五十二本の『えりくしゃー』を手にした瞬間、一瞬強く光り輝いた老婆は消え去ってしまった。
「あっ! 棚にもなにもない!」
交換しなかったアイテムも一緒に消えてしまい、それに気がついたシリルは驚いていた。
幽霊が成仏して消えるのは理解できるが、アイテムが消えるのは納得できなかったのであろう。
ゲーム的には、それほどおかしな事象ではないのだけど。
「アーノルド君、『えりくしゃー』なんて変な名前のアイテム。本当に使えるの?」
「ええ、これも優れた錬金素材ですよ」
『えりくしゃー』、純水、プリン玉、魔石を入れて錬金すれば、あっという間に『エリクサー』の完成であった。
ちゃんと錬金できれば、エリクサーが五十二個も手に入る。
「(植物四天王を倒してようやく材料が三個手に入るのに、お婆さんの幽霊の古銀貨を集めると五十二個も貰えるなんて……やっぱり、ゲームバランスがおかしいわよ)」
と、言われてもなぁ……。
そういうゲームだから仕方がない。
変えようもないという。
「(不人気ゲームだからよ)」
裕子姉ちゃんの一言をまったく否定できない俺であった。
「ええと次は……」
「まだあるの?」
「あるよ」
魔王撃破をある程度優先した結果、消化していない小さなイベントがいくつか残っていた。
ここで手に入るアイテムは、ゲームでは役に立たないけど高換金アイテムだったりするので、事前に回収しておこうと思う。
「僕はバルト王国の財宝の回収依頼は受けたけど、他の依頼は受けていないもの。先に回収した人に権利があるのは冒険者としてのルールだから」
ロッテ侯爵には悪いけど、魔王城周辺は百年以上も魔王軍に占領されていた。
色々と残っていたり、魔王軍が放置して逃げたお宝もあるので、記憶の限り回収させてもらおうと思う。
これが終ったら、ロッテ侯爵との報酬交渉が始まる。
少しでも多く報酬を得られるように頑張ろう。
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