第95話 突入

「ああ、眠い……ったく、暗黒魔導師の奴め! こんな警備シフト、あり得るかっての! しかも一ヵ月連続だぞ! いつまで続けるんだよ!」


「モンスターにも休憩は必要だってのにな。あの野郎……」


「魔王城に、万が一でも勇者たちが侵入すると困るんだろう。やだねえ、保身ばかりに気を使ってよ。四天王もなかなか補充されないものだから、魔王様のナンバー2気取りだしな」


「その人間の勇者たちだが、五虎衆全滅後は音沙汰ないな」


「だから暗黒魔導師の奴は不気味がっているんだろうぜ。魔法のみの陰険野郎が! プラチナナイト様やブラックイーグル公爵様ならこんなことになってねえよ。いい人ほど早く死んでしまうんだな。結局、陰険な奴が一番しぶといんだろうぜ。あいつは臆病者だから、ムキになって配下たちに偵察させているそうだが、勇者たちは一向に見つからない。クレイジーチキン子爵様が倒されたあと、一ヵ月も消息不明だ。暗黒魔導師は臆病だから怖いんだろうな」


「怖いのは俺たちも同じだが、少ないモンスターだけで魔王城の二十四時間厳重警備と、周辺への強行偵察部隊の派遣は無理だろう。数が足りないぜ」


「上が無能だと困るよなぁ……」


「言えてる。もう来ないんじゃないか? 勇者たち」


「どうせ我ら魔王軍は、少なくともあと数百年は攻勢に出られないからな。やられ過ぎだっての」


「暗黒魔導師の野郎が無能だからだろう。戦犯のくせに威張り腐りやがって。死ねばいいのに」


「だよな、あいつはいらんわ」


「まあ、お前らも同類だけどな」


「「なんだと? お前ブチ殺すぞ!」」


「無理だな。死ね!」




 どうやらこの一ヵ月間。

 魔王軍は、いつ魔王城に襲来するかわからない俺たちに備えるため、神経をすり減らしていたようだ。

 クレイジーチキン子爵を倒したあと、隠しダンジョンに挑んでいてよかった。

 こちらはさらに色々と強化できて、魔王軍はその気質のせいで嫌われているナンバー2暗黒魔導師への不満が溜まっていたからだ。


「そんな杖……あぐぎゃ!」


「なんだ! その攻撃力は? 杖だぞ!」


「世間が狭いお前らは知らないんだろうが、世の中にはそういう杖もあるんだよ」


 隠しダンジョンにおいて二体の竜を倒して『風竜の爪』、『土竜の角』も入手し、俺の『古代王の杖』は、ゲームの設定では最強の武器となっていた。

 杖で攻撃されたモンスターが、一撃で消滅していく。

 攻撃力がもの凄いのと、俺はレベルが950を超えた。

 魔王城の雑魚モンスターなど、一撃で倒せてしまうのだ。


「アーノルド、その杖って凄いのな」


「シリルの槍もオリハルコン製だから、魔王城の雑魚モンスターなら一撃で倒せるよ」


「本当にそうだな……」


 シリルが、隠しダンジョンで見つけたオリハルコンで『置換』した、槍を振るって雑魚モンスターを一撃で倒した。

 ビックスはオリハルコンの剣で、時代劇の後半のようにモンスターたちを次々と斬り捨てていく。


「やあ! とう!」


 メイドなのに、『パティシエ』の特技持ちで『拳聖』でもあるリルルも大活躍だ。


「ついに現れたな! 人間の勇者たちめ! 一気に囲んでケリを……うっ!」


「こんな遠距離から矢だと! なぜ当たる?」


「逆に、私が知りたいわ」


 『弓術(上級)』の特技があることが判明したアンナさんも、オリハルコンの弓を用い、こちらに援軍として近づこうとしたモンスターたちを狙撃した。

 オリハルコン製の弓が最強……かぁ……。

 矢の素材も重要なのでは? 

 矢もオリハルコン製って無理じゃない? 

 などの疑問は、この世界がゲームの設定に似た世界なので気にしても……ということにしていた。

 なお、矢尻の素材は普段は鋼、特別な時にオリハルコン製を用いている。

 オリハルコン製の矢でも当たらなければ意味が……弓は扱いが難しい武器なのだ。

 ただ、魔法の属性がつけられる矢もあって、それも確保しているから、弓を使える人がパーティにいると便利ではあった。


「アーノルド君、私出番がないよ」


 エステルさんの場合、治癒魔法使いなので出番がないに越したことはないと思う。


「ボク、温存でいいんですか?」


「いいよ。暗黒魔導師で主役だし、それに……」


「ローザ様……」


 裕子姉ちゃんは『鞭術(上級)』であり、やはり隠しダンジョンで得た素材で強化したものを使っていた。

 鞭を振るい、一度に複数のモンスターたちを狩る様は……『別に、没落しても大丈夫なんじゃねえ?』と思わせるものがあった。

 没落しないに越したことはないんだろうけど。

 回復役のエステルさんと、温存しているオードリー以外が大活躍し、まずは魔王城の周囲全部のモンスターたちは全滅した。

 ゲームだと永遠に出てくるけど、現実ではあり得ないからな。

 モンスターたちを収容できる場所の問題があるのだから。


「ローザは、本当に鞭が似合うな」


「シリル、それはどういう意味?」


「そのままそう思っただけだが、なにか?」


「別に……」


 この世界の住民であるシリルに、SMの女王様の知識はないだろうからな。

 素直に似合うと思っただけであろう。

 俺も似合うと思っていたけど、それを口にしないだけの危機管理能力は身についているのだ。


「アーノルド様、次はいよいよ暗黒魔導師ですね。ボクの出番です」


「あっ、その前にやることがあるから」


「やることですか?」


「大切なことだよ。これは」


 そのあと、暗黒魔導師と戦った方が効率がいい。

 どうせやらなければいけないことなので、仕事は効率的に進めないとね。




「……遅い! 勇者たちはなにをしているのだ?」


「それが……ここにまっすぐ来ず、城内のあちこちでモンスターたちを掃討しております」


「ここがわからないのか?」


「それはないかと……」


「私と戦う前に、配下たちが全滅するまで戦う。消耗したあとに私とだと? 舐めてるのか!」


 人間の勇者たちめ!

 あいつらは、私の想定を次々と覆し、魔王軍に過度の負担を強いてきた。

 ようやく魔王城に突入してきたので一気に始末しようと思ったら、最後の最後まで人を翻弄しくさって!

 もう我慢の限界だ!

 その身をバラバラに引き千切ってくれよう!

 そして魔法で焼き払い、灰すら残さんぞ!


「勇者一行は、もうすぐここに来ると思います」


「本当にそうならいいがな!」


 イライラが募るばかりだが、これですべてが終わる。

 これまで散々迷惑をかけられた勇者たちを倒せば、魔王軍は暫く静かな時を過ごせるのだから。

 そして数百年後、この世界のすべてを魔王様に捧げるのだ!

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