第94話 寄り道

「またカジノなの?」


「出番だよ、ローザ」


「私は、出入り禁止じゃないものね……」


「そういうこと」



 レベル上げが無事に終わり、パーティの平均レベルが900を超えたので、俺たちは再びカジノの前に立っていた。

 前に俺が色々とやり過ぎて出入り禁止となり、その後魔王軍に襲撃されて景品を奪われた。

 価値ある景品の大半は俺が獲得していたので、魔王軍の成果は不本意だったと思うけど。

 その後、復興したカジノは無事に営業再開となった。

 賭博ギルドは金があるので、一回カジノが壊滅したところでそう簡単に潰れないのだ。

 ゲームでも、ちゃんとカジノは復活するしな。

 再びいい景品が多数並ぶようになり、魔王軍の脅威が続いているにもかかわらず、カジノは多くのお客さんで賑わっていた。

 そこで、今度はローザが特技の書で得た『博才』を利用して、豪華景品を多数ゲットするという作戦だ。


「お前ら、酷すぎ」


「そうかな? ギャンブルは胴元が一番儲かるけど、それが真理でないケースもあるってことだし、みんなの装備を強化したり、新しい特技を覚えてもいいし。とにかく、これも世界平和のためさ」


「言っていることは間違ってないよな。世界中でモンスターが暴れているのに、貴族らしいのがカジノで遊んでいるし……」


 別に遊ぶなとは言わないが、今はやめた方がいい。

 俺たちはそう思うのだが、駄目な貴族とはこんなものかもしれない。


「頼むね、ローザ」


「任せて!」


「ローザ、あんまりやり過ぎるなよ」


「大丈夫よ」


 シリルの心配をよそに、裕子姉ちゃんはカジノへと入って行ったのだが……。


「大量ゲットね。私も出入り禁止になっちゃった」


「だろうな」


 随分と……俺よりも収奪が激しいかも。

 俺よりも裕子姉ちゃんの方が頭がいいから、きっと効率よく勝ったのだろうし。


「これであとは、魔王城かな」


「いよいよね」


 必要なことはもう全部終わらせたわけで、あとは最後の強化をして魔王を目指せばいい。

 俺たちはオードリーの『縮地』で、再びマカー大陸へと戻るのであった。




「……『杖術(中級)』かぁ……こんなものか……」


「私だって、『治癒魔法(中級)よ』


「ローザは、『鞭術(上級)』があるからいいじゃん」


「お前ら、戦いに来たのか、駄弁りにきたのかどっちなんだよ! ぶち殺すぞ!」


「うるさいわね、鳥のくせに!」


「悪いか! 俺は将来ブラックイーグル公爵様の跡を継ぎ、飛行モンスターたちを束ねて魔王軍による世界統一で大活躍する存在。その名も、『クレイジーチキン子爵』様だ!」


「アーノルド、この微妙なネーミングセンス。なんとかならないの?」


「僕に言われても……僕が名前をつけたわけじゃないし……」


「でこれ、五猫衆の中で何番目くらいに強いの?」


「このガキ! 五虎衆だ! お前、わざと間違えただろう!」


「正解よ。アーノルド、これを倒すとなにが手に入るの?」


「『鶏ガラ』だよ」


「欲しいわね。じっくり鶏で出汁を取った白湯スープが飲みたいわ」


「僕も!」


「ガキどもが舐め腐って……ふぎゅら! 熱いぃーーー!」


「オードリーの魔法も大分仕上がったわね」




 魔王城の前に、あと三匹の五虎衆を倒しておく必要があった。

 『合金ゴーレム伯爵』という様々な金属が混じった合金風のゴーレムに、

 『ビックツリー子爵』という巨大な木のモンスターは、どちらもオードリーが火炎魔法で焼き払った。

 レベル900超えなので、合金ゴーレムはドロドロになり、ビックツリーは灰になって消えた。

ドロップアイテムも微妙なので、あまり詳細は語らない。

 五虎衆最後の一人?一匹?は、鶏のモンスターであるクレイジーチキン子爵だが、やはりオードリーの火魔法で火達磨になった。

 鶏なので焼けると美味しいかもと思わせておいて、モンスターなので倒すと消えてしまうけど。

 ただ、クレイジーチキン子爵を倒すと『鶏ガラ』が手に入るのだ。

 これも、錬金で鶏の出汁が永遠に取れるようになる素晴らしいアイテムであった。


 元日本人としては、もし運悪く俺や裕子姉ちゃんがホルト王国から追放されても、これがあれば生きていける。

 錬金もあるから大丈夫か。


「あとは……」


 俺は、クレイジーチキン子爵が座っていた出城の玉座の裏を探し始めた。


「アーノルド……なんか出るんだろうな……」


 シリルは、今回の魔王退治において俺が無駄なことを一切しないと理解していた。

 俺が椅子の裏側を探すということは、そこになにかがあるとわかってやっているのだと理解したようだ。


「あった」


「アーノルド君、なにがあったの?」


「このボタンを押すと……椅子の横の床がスライドして、地下ダンジョンが出現します」


 実はこのダンジョンこそ、シャドウクエストにおけるラスボス魔王よりも強い、破壊神ベルクチュアが最下層に鎮座するものであった。

 そこに至るまでのモンスターも魔王城内を上回る強さであり、このダンジョンがクリアーできれば魔王も余裕で倒せるというわけだ。


「ここに潜るのか?」


「すげえお宝があるよ」


「『すげえお宝』ねぇ……。アーノルドがそう言うのなら、そうなんだろうな」


 その発言に嘘はないけど、俺が持つ『古代王の杖』を強化する『風竜の爪』、『土竜の角』が、このダンジョンの途中で手に入るのだ。

 途中なので、別に破壊神ベルクチュアを倒す必要はない。

 それに、実は『古代王の杖』を強化しなくても魔王には勝てた。

 そもそも、実はこの隠し地下ダンジョン。

 一度ゲームをクリアーしていないと入れないという。

 現実ではこうして、場所さえ知っていれば魔王退治前でも入れたけど。


「武器や装備品の強化もしたいしね」


「万全になるのなら、ボクは賛成です」


 この中で一番戦闘経験が少ないオードリーが、俺の意見に賛成した。

 まあ、言うほど俺たちも戦闘経験はないけどね。

 レベルはとても高いのだけど。


「でもさぁ……こういうのって、クリアーに時間がかかりそうね」


「一ヵ月もあれば大丈夫だよ」


「(地下ダンジョンで一ヵ月も? ちょっと慎重すぎないかしら?)」


「(裕子姉ちゃん、ゲームではコンティニューできるけど、現実は……)」


「はいはい、わかりましたよ」


 裕子姉ちゃんを言い負かす……説得することに成功したな。

 勿論、安全に魔王を袋叩きにするためであるが、実は途中からシャドウクエストプレイヤーとしての本能に目覚めただけだ。

 このまま魔王を倒せば終わりだが、あのクソの中のクソである、非常に難易度の高い裏ダンジョンをクリアーしないなんて!

 そんな奴は、シャドウクエストプレイヤーの資格がない。

 同士たちが裏ダンジョンスルーの事実を知ったら、ネットの掲示板や〇イッターで俺の手抜きを糾弾するはずなのだから。


「さあ行こう!」


「いいけどよ」


「自分はもっと剣術で高みに昇りたいので大歓迎です」


「私は、いつでもアーノルド様についていきます」


「新しい錬金の材料が手に入るかも」


「それはいいね、アンナちゃん」


「ボクはもっと魔法を極めたいです」


「(みんな……レベル上げジャンキーになりつつあるのかしら?)」


 裕子姉ちゃんだけ少し引いていたが、同行しないわけではないので気にしない。

 これから魔王退治よりも多くの困難が予想されるが、このメンバーならきっと潜り抜けられるはずだ。


 さあいざ行かん!

 パーフェクトクリアーへの道!

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