第92話 先回り

「やっと完成した……」


「暗黒魔導師様、いよいよですね」


「ああ、我らの逆襲の開始だ!」




 戦力がなかなか再建できない状況の中で、私は魔王軍を統率する仕事の合間に、コツコツとあるものを作っていた。

 それは、『死者の形代人形』という錬金物だ。

 これがあれば、死者の身代わりを務めてくれるようになる。

 アンデッド公爵は元々アンデッドなので、死んだというよりは浄化されてあの世に戻されただけなのだが、消滅したアンデッドにも死者の形代人形は使えるから問題はあるまい。

 錬金が非常に難しい死者の形代人形を、私が苦労して錬金した理由。

 それは、アンデッド公爵のようにアンデッドを統率しようとしているからだ。

 死者の形代人形を用いてアンデッド公爵の木偶を形成し、そいつにアンデッドたちを操らせれば、私が指揮しているのと同じだ。

 魔王軍の戦力再建が急務であるため、この錬金が難しいアイテムを苦労して錬金したのだ。

 いったい、何回失敗したか……。

 私は魔法はともかく、錬金はそこまで得意ではないからな……。

 それでも私は魔王軍の中では錬金が上手な方だから、他人に任せるよりはというわけだ。


「死の谷に向かう!」


「暗黒魔導師様、ついに死の谷にひしめく死者たちで新たな軍団を作るのですな!」


「ああっ、奴らは死なず、眠らず、常に活動できる優秀なモンスターだ。アンデッド公爵に模したこの死者の形代人形を介して、魔王軍は新たな力を手に入れるのだ!」


 アンデッド軍団の再生に成功すれば、魔王軍はようやく暫く落ち着くことができるだろう。

 あとは、時間を用いて魔王軍を本格的に再建していく。

 人間どもめ!

 数百年後に恐れ戦くがいいわ!


「留守を任せるぞ」


「畏まりました」


 こうして私は、急ぎ死の谷へと向かったのだが……。


「アンデッドがほとんどいないではないか! おいっ! どういうことだ?」


「あれ? 十日ほど前に偵察に来た時には、今にも死の谷から溢れ出んばかりでしたよ。なにしろ、死んだモンスターも人間も多いですから」


 なぜ、死の谷がこうも静かなのだ。

 アンデッドがいないわけではないが、こんなに少数では戦力にしないよりはマシ程度でしかない。


「どうして急に、アンデッドたちがいなくなったのだ?」


 ここのアンデッドたちは、我ら魔王軍がマカー大陸に侵攻してから出た大量の死者たちだ。

 供養などできないので、そう簡単に成仏するわけがない。

 なぜこんな短期間で大量に消えてしまったのだ?


「倒されたのか?」


「ええっ! あの数をですか? よほどの凄腕でなければ……」


「凄腕……人間の勇者たちか!」


 アンデッド公爵を討った連中……人間の勇者ならあり得るのか?


「暗黒魔導師様、これは危険なのでは?」


「危険だと?」


「放棄した占領地で彼らが暴れていても、我らは手を出しづらいです。それに、いつ魔王城に奇襲をかけてくるか」


「確かにそうだな……」


 残念ながら、今の魔王軍が攻勢に出るのは難しいか……。

 魔王城に篭り、別次元より多くの援軍を呼び寄せる準備に余念がない魔王様には多くの時間が必要だ。

 死の谷のアンデッドたちの戦力化に失敗してしまった今、あまり無理はできない……が!


「こんなこともあろうかと! もう一つ死者の形代人形を用意しておいたのだ! ブラックイーグル公爵の木偶を作り出し、怪鳥の森に巣食う多くの飛行型モンスターたちを従えれば! 魔王城は空からも守られ、勇者たちが接近しても見つけやすい! 私の策は完璧だ!」


「おおっ! さすがは暗黒魔導師様!」


「今はこれから予定があるが、数日のうちに怪鳥の森に向かおうではないか!」


 アンデッド軍団は駄目だったが、飛行モンスター軍団にて、必ずや魔王城を守ってみせようぞ。





「アーノルド、鳥型のモンスターが一杯だね」


「こいつらは元々野良モンスターだから、四天王だったブラックイーグル公爵くらいしか統率できない。今なら落とし放題だぜ!」


「経験値も貯まるからな」


「そうですね。ボクも早くレベル900に到達したいです」


 死の谷でアンデッドたちをほぼ根こそぎにしたあと、今度は怪鳥の森で飛行型モンスターを狩っていた。

 魔石以外は羽とか肉、卵しか手に入らないし、経験値も低めなんだが、一網打尽にできて討伐効率がいいのが素晴らしい点だ。

 えっ?

 環境破壊?

 いや、元々モンスター自体が自然の摂理に反しているところがあって、繁殖力も尋常じゃないからなぁ……。

 少しくらい倒し過ぎてもすぐに復活してしまう。

 伊達に、農家を始めとするこの世界の人たちを困らせていないので、大量に倒しても問題あるまい。


「ここ終わったら、次ね」


「アーノルド君、よく知っているわね」


「僕、『地図師』の特技持ちなので」


「そんな特技ないけど……」


 アンナさんに嘘は通じなかったか。

 全部、シャドウクエストにおける経験値稼ぎポイントを俺が覚えているからだけど。

 どうせ全部すぐに復活するから、回れるだけ回って経験値を稼いでおこう。

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