第91話 レベルアップポイント

「アーノルド、ここは?」


「隠し鉱山だよ。滅んだバルト王国のね」


「なんでバルト王国が隠した鉱山の場所をアーノルドが……まあいいか」




 ヒンブルクを出た俺たちは、マカー大陸の北西部にある隠し鉱山に到着した。

 ここはバルト王家が隠していた鉱山で、金とプラチナが採れるという設定……本当に産出するが、わざわざ発掘はしない。

 ここではゴールドゴーレムとプラチナゴーレムも出るので、これを狩ればお金になる金もプラチナも経験値もザクザク手に入るのだ。

 この隠し鉱山、ゲームだとまず場所がわかりにくい。

 普通にプレイしていたら絶対に見つけられないので、かなりあとになって某有志プレイヤーから発見報告があったものだ。

 その辺の不親切さがシャドウクエストらしい、とも言えるのだけど。


「オードリー、ここなら存分に魔法の練習ができるぞ」


「本当ですか?」


 そう伝えたら、最後に仲間に加わったためレベルが低いオードリーが喜んでいた。

 相手はゴーレムなので、効果はともかく色々な魔法を実験できるのは素晴らしい。

 きたる暗黒魔導師との戦いに備えて、いっぱい練習してほしいものだ。


「『爆裂弾』!」


 隠し鉱山に入ると、俺たちを数十体のゴールドゴーレムとプラチナゴーレムが待ち構えていた。

 この近辺には回避の水晶が設置されていないので、荒ぶるゴーレムたちが俺たちを見つけると一斉に襲いかかってくる。

 だが、オードリーが練習がてら様々な魔法を放って対応した。


「いくぞ!」


「おおっ!」


 他にも、ビックスがオリハルコンの剣で、シリルがミスリルの槍で。

 次々とゴーレムを倒していく。


「食らえ!」


「命中しろ!」


「えいっ!」


 さらに、裕子姉ちゃんが鞭、アンナさんが弓、エステルさんが槌でゴーレムを倒し。


「とう!」


 リルルがゴーレムたちに次々と一撃入れていく。

 みんな大活躍だ。


「そして僕が、魔石と金、プラチナ片を回収する」


 俺だけまったく戦っていないが、これも作業分担なので仕方がない。

 みんな苦戦していないから助ける必要性を感じなかったのもある。

 

「(ねえ、弘樹)」


「(なに? 裕子姉ちゃん)」


 俺は、魔石などを拾う作業で忙しいんだけど。


「(一匹倒すだけで経験値が一杯入る○○れ〇タルみたいなモンスターはいないの?)」


「(いなくはないけど……)」


 滅多に出現しないし、遭遇してもすぐに逃げられてしまうのだ。

 基礎ステータスが100でレベル高いキャラよりも素早いので、逃げられたらどうにもならない。

 それにもの凄く弱いけど、まず攻撃が当たらない。

 そのレアモンスターの出現地域にいる他のモンスターたちは、経験値を稼ぐのに効率が悪い。

 以上の理由から、あえてそのレアモンスターを狙うよりも、この隠し鉱山で半分オート戦闘みたいな感じで経験値を稼いだ方が手っ取り早かった。


「(オート戦闘とか……ゲームじゃないんだから……)」


「(ゲームの世界観なのは確かだよ)」


 幸い、この隠し鉱山のゴーレムたちは、暗黒魔導師の秘術のおかげで荒ぶっている。

 倒しても倒してもすぐに発生するので、効率よく経験値が稼げるのだ。

 お金だって稼げる。

 なにしろドロップアイテムが、金とプラチナの欠片なのだから。

 魔石も、雑魚モンスターの割にはかなり品質がよかった。


「今日は一日ご苦労さん」


「アーノルド様、すげえレベルが上がりましたね。さすがはアーノルド様」


 隠し鉱山のとある奥まった通路で一度に数十体も湧くゴーレムたちを倒す。

 魔石とドロップアイテムを回収してそこを少し離れ、また戻ると数十体のゴーレムたちが出現する。

 これの繰り返しで、随分と経験値が稼げた。

 一度に数十体も出現するのは、暗黒魔導師の秘術のおかげだ。

 オードリーのレベル上げも順調なので、彼は自分に死をもたらす存在にわざわざ経験値を提供していることになる。

 知らないとは、本当に恐いことなのだ。


「今日は、カツ丼を錬金しました!」


「アーノルド様、俺、お腹が減っていたんですよ」


「うめえ!」


 ビックスとシリルは、カツ丼に舌鼓を打っていた。

 やはり男性陣は、一日中働いたらガッツリとした料理が食べたいもの。

 異世界でカツ丼が食べられるなんて、まさにシャドウクエスト様々なのだ。


「私もお腹が減っているから、沢山食べられるわ。太るかしら?」


「ローザさんは成長期だからいいのよ。私は……全然気をつけていないわね。マカー大陸に来てから少し痩せたみたいで」


「私も。沢山動くし、錬金するからね」


 確かに、アンナさんもエステルさんも少し細くなったような気がする。

 裕子姉ちゃんは、十歳のローザなので背が伸びたか?

 俺もそうか。


「これだけ動いていて、ダイエットなんて気にするんだな」


「シリルさん、それは女性の業みたいなものですよ。レミーさんも結構気にしてますから」


「お母さんは、最近なかなか痩せづらくなったって」


 そう言っているリルルは、やはり成長期なので気にせず特盛カツ丼を食べていた。

 成長期なのでいっぱい食べて欲しいと思う。


「私も少し錬金を習いまして。じゃじゃーーーん! プリンを錬金しました」


「美味そうだな」


 リルルは『パティシエ』持ちだが、つい先日まで魔王軍のテリトリーだった場所でノンビリと料理なんてしていられない。

 そこで、せっかく基礎ステータスの知力と器用が上がったので、錬金でできる料理を教えたのだ。

 今では、裕子姉ちゃんたち女性陣も混じってワイワイと料理をしていた。


「で、魔王を倒すにはどのくらいのレベルが必要なんだ?」


 シリルは、それを俺が知っていると確信しているようだ。

 ずばり直球で聞いてきた。


「そうだなぁ……最低でも、300はいるかな?」


 ただ、これも最低の数値だ。

 ゲームだと失敗してもコンティニューできるが、現実は一発勝負なので、ギリギリレベル300は危険だと思う。


「最低300で、安全圏っていくつだと思う?」


 逆に俺は、シリルに適性なレベルの数字を訪ねてきた。


「レベル300かぁ……そんなの極一流の有名冒険者くらいしか到達できない……もうすぐ到達するな俺たち」


 オードリーでもレベル200を超えているからなぁ……。

 基礎ステータスもカンストしているので、俺たちは数字上は世界で最高峰の冒険者パーティであろう。

 俺がそういう風に育成しているのだけど。


「レベル400くらいかな?」


「でもシリルさん。失敗したらそれで終わりですよ」


「確かにビックスの言うとおりだ……」


 ビックスは意外と冷静というか、明確な基準があると、人とは案外慎重になるようだ。

 逆に言えば具体的な数値を知らないからこそ、まだレベル100なのに『魔王なんて余裕だぜ!』と勘違いした結果、魔王に挑んで返り討ちとなり犠牲者が増えてしまうという側面もある。

 そして返り討ちに遭う人が増えれば増えるほど、魔王の恐ろしさが人々の心に植え付けられていくわけか。


「レベル500くらい欲しくない?」


「私もアンナちゃんの意見に賛成!」


 女性は現実的な人が多いので、レベル500は欲しいと言ってきた。

 自分の命がかかっているから当然か。


「じゃあその線で。時間はかかるけど」


「つっても、今日のペースを考えると、せいぜい一ヵ月かそこらだろう? 俺らは、最後の定期試験だけ受ければ進級できるんだ。学校の授業はこの際考えないようにしよう」


「それがいいわね。変に焦ると思わぬ怪我をするわよ」


 シリルと裕子姉ちゃんとの意見が合うなんて……学校をサボれるからか。


「まあいいけどね」


 特に急ぐ理由もないということで、俺たちは隠し鉱山においてゴーレム狩りをして経験値を稼ぐことにした。

 毎日同じことを続けて、効率よく経験値を稼ぎレベルを上げるわけだ。

 飽きるのは確かだが、ここで手を抜くと魔王に殺されてしまうから、みんな真剣にやっていた。

 そして一ヵ月後、俺たちの平均レベルは500を超えた。


「もういいかしら?」


「待って、アンナちゃん」


「どうしたの? エステル」


「もう100上げた方がよくないかしら?」


「エステルさん、600って、最低限必要なレベルの倍ってことですよね? さすがに安全係数を取り過ぎな気がしますよ」


 エステルさんの意見に、ビックスが反論した。

 さすがに時間がかかりすぎだと。


「アーノルドはどう思っているんだ?」


「どうって……安全係数かぁ……」


 前世で親父にチラっと聞いたのだけど、エレベーターの積載量は三倍の安全係数を取っているらしい。

 つまり一トンと書かれていると、実は三トンまでは大丈夫なのだそうだ。

 ということは、実は600でも足りないのか?

 ゲームでは蘇生できないので、死ぬとコンティニューなわけだが、俺たちはコンティニューなんてできない。


「失敗したら死か……」


 失敗できないからこそ、ここは慎重に行くべきか?

 タイミリミットでもあれば別だが、別にそんなものはないからな。


「それだよ。ここは安全を取った方がいいと思うな」


「私は、エステルさんの意見に賛成です」


「私も。死んだって生き返れないのよ。最悪、アンデッドにされてしまうじゃない。私は嫌よ」


「アンデッドになるのは、私も嫌ね」


 エステルさん、リルル、裕子姉ちゃん、アンナさん。

 女性陣は全員が慎重だった。

 いつの時代も、女性は堅実というか現実的である。


「シリルはどう思う?」


「俺もなぁ……姉貴に心配かけられないし、妹にお店を持たせてやりたいし……となると、ここはもっとレベルを上げた方が安全だよな」


「俺もそう思うようになってきました」


 これで全員が、さらなるレベル上げに賛成か……。

 では、もっとレベルを上げるとしよう。

 そして、さらに三ヵ月の時が流れた。


「……ねえ、アーノルド」


「なに? ローザ」


「ゴーレムが出ないじゃないの」


「ああ、これは!」


「なに、一人でわかったような声を出して」


「ごめん、ごめん。隠し鉱山が廃坑になったんだと思う」


 ゴールドゴーレムとプラチナゴーレムを倒すとドロップする、金とプラチナ片。

 これがどこから来るのかといえば、当然隠し鉱山に埋蔵されている金とプラチナなわけだ。

 ゴーレムたちをひたすら倒し続けた結果、鉱山の金とプラチナが枯渇。

 ゴーレムは出現しなくなってしまった。

 ゲームだと無尽蔵に出るんだが、これが現実というやつか。


「どうするの? まだ平均レベル830超えよ。安全係数が三倍とか、アーノルドが言い出したんじゃない」


「それじゃあ、次の効率よく経験値を稼げるポイントに向かおう」


「まだあるのなら、もったいぶってないで言えばよかったのに」


 いや、まさかここまでレベル上げを極めるとは思わなかったんだよ。

 とにかく俺たちは、新しいレベル上げをしやすい場所へと移動した。


「アーノルド、ここは?」 


「『死の渓谷』だね。ここはアンデッドの巣なんだよ」


 運悪く討たれたアンデッド公爵の屋敷がある場所で、彼が世界中の様々な生物の死体や魂を引き寄せ、時には冥界から呼び寄せてアンデッドを作り出している場所であった。


「ここなら、そう簡単にはモンスターが尽きないと思う」


 魔王軍によるマカー大陸侵攻の影響で、モンスターにも人間にも死人が多かった。

 アンデッド公爵からすれば、材料はいくらでもある状態だったのだ。

 そして彼らは、ここに集まってくる。

 特に戦乱で死体を埋葬できないケースが多かったので、ゾンビの増加が著しいようだ。


「『治癒魔法』と、ゾンビ系には火炎魔法かな。あとは傷薬でも……これはもったいないのでパス」


 高価な傷薬を用いて雑魚モンスターを倒すのは勿体ない。

 『治癒魔法(上級)』の才能があったエステルさん。

 『火魔法(上級)』のオードリー。

 地味に『治癒魔法(中級)』の俺。

 この三人で、迫りくるアンデッドを次々と倒していく。

 他のみんなは聖水を撒いてアンデッドたちの動きをコントロールしたり、ドロップした魔石や拾ったりと、俺たちを補佐する仕事を続けた。


「裕子姉ちゃん……そんな無理に魔力回復ポーションを飲ませてくれなくてもいいかな」


「いいじゃないの、このくらい。私たちは婚約者同士なんだから」


「それはそうだ」


 珍しく、シリルが裕子姉ちゃんの発言に賛成した。

 明日は雨かもしれない。


「魔力回復ポーションを飲む時に、手が塞がれなくていいだろうが。あの数だぞ」


「僕たちの反応が遅いと、シリルたちが困るか」


「俺たちは、アンデッドを倒せないんだから当然だ。アンデッドたちの数も多すぎて引くわ!」


 まさに、人もモンスターも死に過ぎただよなぁ……。

 死の谷が、アンデッドだらけなのだから。

 これは今倒さないと、確実に魔王討伐後に問題になっただろうなというレベルだ。


「今のうちに倒しておけば、魔王軍の戦力補充を邪魔できるんじゃないか?」


 確かにそれは一理ある。

 どうやら、アンデッド公爵が不慮の死を遂げたため、暗黒魔導師も死の谷の戦力を生かすところまでいっていないようだ。

 四天王最後の一人として、死ぬほど忙しいだろうからなぁ……。


 永遠に湧くわけではない……普段の自然死なんてたかが知れているというか、その程度で死の谷が過密状態にはならない。

 やはり、魔王軍のマカー大陸侵攻で死者が出すぎたのであろう。


「レベル上げと、戦後の面倒も解消できるからいいか」


 どうせ手に負えないからと、俺たちに依頼がきそうだからだ。

 ならば、今のうちに駆除しておけばいい。


「ここで暫くアンデッド狩りだな」


 とはいえ、ゲームみたいに永遠にアンデッドが大量に湧くわけではない。

 一週間も戦っていたら、もう大分勢いは劣えていた。

 レベルも順調に上がり、ドロップアイテムとしての霊糸も少しは手に入っている。

 俺と裕子姉ちゃんは別として、他のみんなは運が平均値なので、どうしてもパーティを組むとレアアイテムの入手率が下がってしまうので少なめだったけど。


「ほぼアンデッドもいなくなったな。やったじゃないか」


「そうだね」


 あれから一週間ほど。

 俺たちは、ただひたすら死の谷のアンデッドたちを駆除し続け、ついにほとんどいなくなった。

 その性格上、死の谷からアンデッドが消えることはない。

 常に人も生物も死ぬからだ。

 そして、死んだ者が一定の割合でここにやって来る。

 さすがにこれまでは数が多すぎたのだが、俺たちが適正数にしたというわけだ。

 ついでに経験値と霊糸と魔石を手に入れたけど、これはオマケみたいなものだろう。


「レベルの平均が850を超えたね」


「まだだなぁ……まあいいか」


 どうせモンスターの群生地など、俺にはお見通しなのだから。

 次々と駆逐していけばいい。

 文句も出ないだろう。


「次は、ピータルカ高原でモンスターを狩るか」


 シャドウクエストの設定を知っているおかげで、効率よくモンスターを狩れる場所はよく知っている。

 ゲームとは違って意外と早くモンスターが枯渇してしまうけど、次の場所に移ればいいのだから。

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