第78話 ブラッドツリー子爵

「アーノルド様! ヒンブルクが魔王軍の大攻勢を受けていますよ!」


「アーノルド、これではヒンブルクに入れないぞ」


「どうするの? アーノルド」


「これは予想外の出来事だったな……」




 シャドウクエストの進行チャートに従って城塞都市ヒンブルクに到着したのだが、魔王軍による大攻勢を受けていた。

 すぐに陥落しそうにはなかったが、せっかく城壁などの修理と外城の増改築が進んでいたのに、これでまた一からやり直しだな。

 バルト王国軍と派遣軍の司令官たちは頭が痛いだろう。


 俺たちは、ヒンブルクにモンスターの大群が攻め寄せる光景を目撃する羽目になっていた。

 ただ……。


「ビックス、ヒンブルクは落ちるのか?」


「なんか、モンスターたちは纏まりに欠けますね……」


 数が足りなくて、その辺の野良モンスターたちを無理やり集めて攻撃に参加させているようだ。

 実は大昔からいる野良モンスターたちは、他の世界から侵攻してきた魔王軍の命令にあまり従わない。

 無理に数を集めると、逆に烏合の衆になることもある。

 というシャドウクエストの設定なんだが、確かにそんな印象を受ける。


 ヒンブルクを防衛している味方は、かなり有利に防衛戦を進めていた。

 もっとも、魔王軍が無尽蔵に野良モンスターたちを集め、数で押し切ろうとすれば危ないかもしれない。


「どうする? アーノルド」


「裏側に回って、ボスモンスターが弱そうな場所で数を減らす」


 まさか四天王はいないと思うが、それなりの数のボス、幹部クラスのモンスターはいるはず。

 どうせヒンブルクに入れない俺たちは孤立無援の状態なので、攻城戦に夢中になっているモンスターたちの背後を襲って減らせばいい。

 経験値稼ぎにもなるだろう。


「というわけだ。裏手に回ろう」


「こちらの考えを読んで、裏手に四天王がいたりして」


 裕子姉ちゃん、そういうフラグを立てるのはやめてほしいな。

 と思いながら裏口に回ったが、現実ではそうそうフラグなんて立つものではない。

 四天王は勿論、ボスモンスターにも大したものはおらず、俺たちの奇襲により数を減らしていった。

 

「全員で火炎放射器だ!」


「せっかく、オリハルコンの剣が手に入ったのに……」


 ビックスはそう言うが、なにしろこの敵の数だ。

 いくら彼が華麗に剣を振るっても、数の暴力の前にはどうしようもない。

 今のところは、火炎放射器で焼き払った方が圧倒的に効率がいい。


 全員分の火炎放射器と、燃料も大量に錬金しておいてよかった。

 俺たちによる火炎放射器攻撃で、次々とモンスターたちは焼かれ、魔石とドロップアイテムになっていく。

 拾っている暇はないので、今は城壁に近い敵から焼き払っていった。

 城塞都市ヒンブルクは、シャドウクエストだと序盤後半といったところなので、火炎放射器で簡単に焼き払えた。


「なんだ? 貴様らは? 俺様の部下たちを!」


「お前こそ、誰だ?」


「聞いて驚くな! 俺様は、ブラッドツリー子爵だ!」


 ヒンブルクの裏口付近では、木のモンスターが指揮をしていた。

 俺が名前を尋ねるとすぐに自己紹介を始めたが、彼の寿命はもうすぐ尽きる。

 なぜなら……。


「焼き払え!」


「「「「「「了解!」」」」」」


 火炎放射器の集中砲火を浴び、ブラッドツリー子爵は瞬時に火達磨となった。


「熱ぃーーー! 助けてくれぇーーー!」


 自分で火を消せないブラッドツリー子爵は悲鳴をあげ続けるが、多くの人間を殺してきた報いだ。

 それに木のモンスターなので、あまり罪悪感も湧かない。

 それよりも、死に際にこちらに来られると迷惑だな。

 俺たちまで火達磨にされたら堪らない。


「ビックス、出番だ!」


「お任せください! デビューだ! オリハルコンソードよ!」


 ビックスは、ようやく出番となったオリハルコンの剣を抜き、そのまま流れるような動きでブラッドツリー子爵を斬り捨てた。

 彼の一撃が致命傷になったようで、ブラッドツリー子爵は消え、あとには魔石と木の枝が残された。


「『神木の枝』かぁ……雑魚の割には貴重なドロップアイテムを持っているんだな……」


 ブラッドツリー子爵はシャドウクエストに出てこなかったが、ブラッドツリーという木のモンスターはいた。

 そういえば、レアアイテム扱いで神木の枝が出たな。

 いい杖の材料になるんだが、今のところは杖は作らない。……実は所持しているだけで魔力量の補正と錬金の成功率が上がる杖を作れるのだが、今の俺に補正が必要かって話である。

 とはいえ、使い道はいくらでもあるので、これはすぐに拾っておいた。


「あとは、残敵掃討かな?」 


「ある程度数を減らさないと、ヒンブルクに入れないものね」


「それもあるね」


 というわけで、俺たちは残ったモンスターたちを火炎放射器で掃討していく。

 シャドウクエストだと、効率よく経験値を稼ぐ時間、オートモードでプレイする時間だな。

 次々と火炎放射器で焼き払われ、魔石とドロップアイテムになっていく。


「魔石もお宝も一杯ですね」


 少し余裕が出たので、リルルが拾った魔石とドロップアイテムを『収納カバン』に放り込んでいた。

 あとで誰かに奪われるのも癪だからだ。


「このままだと、裏口のモンスターたちは全滅だろうな」


「シリル、油断は禁物じゃないの?」


「お前、本当に十歳か? ってくらい冷静だな」


「そうでないと不安でしょう?」


「それはそうだけどな」


 そんな話をしつつも、モンスターの掃討は順調に進んでいた。

 これなら、沢山の経験値が稼げそうだ。

 要塞都市ヒンブルクを超えると、いよいよシャドウクエストは中盤に入る。

 強いボスも続々と出てくるので、レベル上げを怠ってはいけないのだ。

 レベルがあれば、大抵の敵には対処できてしまうのだから。

 ただし、基礎値をちゃんと上げた人のみに限る。


「深追いはしないけど、倒せるものは倒して経験値を稼ごう」


「「「「「「おおっーーー!」」」」」」


 『燃料』の予備も十分なので、俺たちは火炎放射器で雑魚モンスターを焼き払う作業に集中するのであった。

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