第76話 イベントアイテム

「ギュワーーー!」


「よし! 倒したぞ! 『水竜のウロコ』をゲットだ!」


「アーノルド君、よくこんな人里離れた滝の裏側の洞窟の奥に、水竜がいるのがわかったね」


「勘です」


「アーノルド君、もう勘なんて言っても誰も信じないと思うな」


「(まさか、ゲームの知識ですとは言えないものね)」


「(裕子姉ちゃん、ようは勝てばいいのさ。『そんなのはズルだ!』と言い、正々堂々と戦って死んでいれば世話ないから)」


「(まあ正解ね)」


「アーノルド君とローザさん、なにを二人で話しているの?」


「将来の夫婦間の秘密の会話です」


「二人とも、大人みたいだね」


「「ギクッ!」」


 アンドレイの村を出て北上を続ける俺たち一行は、途中でとある大きな滝に寄った。

 ゲームだと滝の裏側に洞窟があって、その奥に小型の水竜が住んでいたからだ。

 魔王軍の配下ではないが、モンスターではあるので倒しておく。

 設定だと、ここに水を求めて寄った旅人がかなりの数食べられていたので、討伐する大義名分はある。

 しかもこの水竜は成長途上なので、俺たちのように強い人間が滝に現れても決して襲ってこない。

 生物としては間違っていないが、俺から見ると卑怯なので倒しておく。

 これで、この滝に水を求めて来た旅人たちも安全に水を飲めるはずだ。


 もう一つ。

 この水竜がドロップする『水竜のウロコ』が、俺が装備している『古代王のローブ』をパワーアップさせるのに必要なので、元々水竜は倒される運命だったのだ。

 『水竜のウロコ』、『火竜の牙』、『風竜の爪』、『土竜の角』。

 この四つがあれば、『古代王のローブ』は最強の防具となる。

 それも、他のオリハルコン製や霊糸を使った防具など問題ないほどに。


「(これで、あと二つだな)」


 実は『火竜の牙』はカジノの景品にあったので、これはすでに確保していた。

 魔王軍にカジノを襲われてしまうと、『火竜の牙』は一旦魔王軍の手に渡ってしまい、これを入手できるのは大分あとになってしまう。

 だから先に、カジノで景品を根こそぎゲットしたという事情もあったのだ。


「お昼にしようね。錬金で料理すると面白いね」


 自然と、エステルさんが調理担当となっていた。

 本人曰く、よくやっていて慣れているそうだ。

 家が隣同士のアンナさんにも毎日のように作っているらしい。

 癒し系美人で、胸が大きくて、優しくてほんわかしている。

 理想の奥さんだと思う世の男性は多く、学校でもとてもモテるそうだ。

 ただ、錬金でも優れているエステルさんと釣り合う男性……難しいみたいだ。

 アンナさんといつも一緒にいるから、男性たちも声をかけずらいという面もあった。


「今日は牛丼だよ」


 パーティを組んだので、調理用の錬金鍋を購入していた。

 ただの頑丈な鍋なんだが、調理専用にすることに意義があるのだと思う。

 毒薬を錬金した鍋と同じ鍋で、料理を錬金するのはどうかと思うからな。


「今日はミートパイにしました」


「やったぁーーー!」


 ミートパイは、シャドウクエストだと比較的ポピュラーな料理である。

 モンスターの肉、小麦粉、水、プリン玉、塩のみで簡単に作れ、アレンジも簡単だからだ。

 肉の味付けに醤油と味噌が使えるので、味の深いミートパイが作れるようになった。

 肉の量を増やしてボリューム感も出せるので、俺も好きな料理でもある。


「サラダもあるよ」


「俺、野菜苦手」


「シリルは意外とお子様ね。見た目は大人なのに」


 見た目は二十歳過ぎなのに、野菜が食べられないと言うシリルをアンナさんが笑っていた。

 確かに、見た目は大人としてどうかと思う。


「食べ物の好みと見た目は、関係ないじゃないか!」


「アーノルド君とローザさんは、普通にお野菜を食べているけど……」


「二人とも、聞き分けがいいんだな。教育がいいのか?」


 聞き分けがいいというか、日本にいた頃の影響であろう。

 ホッフェンハイム子爵家の教育もあるのかな?

 ローザもデラージュ公爵家の娘なので、食事がバランスがいいものが出ているはずだ。


「サラダは、錬金で調理すると美味しいけどね」


「そうか? こんなもの食べる意味あるのかね?」


「栄養のバランスを考えなよ」


「アーノルドは、俺のお袋みたいなことを言うんだな」


 サラダに使う野菜を必要量入れて錬金すると、サラダが完成する謎の仕様は気にしないとして。

 カットとボールに盛り付ける作業が錬金なのかね?

 多少質の悪い野菜でも、錬金すると採れたての美味しい野菜になるのもよかった。

 なにより調理の手間を省くという点においては、錬金は最強だと思う。

 鍋に入れる材料と調味料の量を間違えて、味が薄すぎたり、濃すぎる料理になり、錬金術師でも飯マズの宿命から逃れられない人は多いらしいけど。


「「「「「「「ご馳走様」」」」」」」


 食事を終えると、また北に向かって歩き出した。

 途中街道を少し外れて、遠くからも見える大木の根元へと向かう。


「あの大木になにかあるのか?」


「あるな」


「お前、預言者かよ」


 とは言いつつも、これまでの実績のおかげであろう。

 シリルは、特に反対もせずについて来た。

 大木の根元が見えてくると、そこで一人の商人が巨大な虎に似たモンスターに襲われていた。


「アーノルド様、助けなければ」


「ひいぃ……旅の方々。私は商人なので、こんな大きなモンスターには勝てません。お礼はしますのでお助けを!」


「わかった。借りるぞ、シリル」


「えっ? 俺の槍? お前、ちゃんと使えるのか? 『槍術初級』もないだろうに……」


「大丈夫だから」


 俺はシリルから槍を借りると、全力で商人と虎のモンスターの下へ駆けつけた。

 なお虎のモンスターは、『ブラッドタイガー』というのが正式名称だ。

 見た目は強そうだが、実は中級の並くらいの強さしかなかった。


「お助けいただけるとは! お礼は必ずしますから! あのモンスターを!」


「あれか……」


 ブラッドタイガーに襲われ、商人の服はかなりボロボロであった。

 よく攻撃を回避してここまで生き延びられたものだ。

 俺は槍を構えると、そのまま横にいる商人の心臓部分を突き刺した。

 まさか俺から攻撃されるとは思っていなかったのであろう。

 商人は俺の攻撃を防げず、一撃で致命傷を受けてしまった。


「なっ……なぜ……」


「アーノルド、お前なにをしているんだよ! 彼は人間だろうに!」


「シリルさん、どうやらアーノルド様の判断は正しかったようですよ」


「本当か? ビックス。なっ! もしかしてあの商人は!」


 そう、ゲームではモンスターなのだ。

 実は、ブラッドタイガーは商人に化けた魔王軍幹部の配下で、人間が商人をブラッドタイガーから助けようとして彼に背中を向けると、いきなり後方から攻撃されてしまう。

 いきなり後ろから攻撃されれば、よほどの実力者でなければ回避できない。

 人間の善意を利用した、悪辣な罠というわけだ。

 俺はそれを知っていたから、逆に商人を奇襲して一撃で倒してしまったけど。


「なぜ……ばれた? 『人間鑑定』がなければ……」


 さすがの俺も、『人間鑑定』という超レア特技は持っていないが、シャドウクエストの設定やストーリーについてはよく知っている。

 俺の前で商人に化けた魔王軍幹部は、ただ運が悪かったというわけだ。

 即死だった魔王軍の幹部は、高品質の魔石と金属の塊を残して姿を消した。

 そして同時に……。


「おりぁーーー!」


 いつの間にか、ビックスがブラッドタイガーを一撃で倒しており、やはり魔石と毛皮を残して消え去ってしまう。


「消えた……ということは、あの商人はモンスターが化けたものだったのね……」


「アーノルド君、よくわかったね」


「勘です」


 勿論嘘だけど。

 シャドウクエストで同じイベントがあったのを覚えていただけだ。


「アーノルド、商人に化けたモンスターが残した鉱石だけど……これはなに?」


「オリハルコンだね」


「随分と呆気なく手に入るのね」


「まあね……」


 実はオリハルコンの鉱石は、ゲームだとそう手に入らないわけでもない。

 この偽商人のイベントなんて序盤後半がいいところなので、比較的早く手に入るアイテムではあった。

 だが、調子に乗って錬金や『置換』に使えば、初期の知力と器用ではほぼ失敗してゴミになってしまう。

 早く手に入るが、後半にならないと使えないわけだ。


「今は『置換』できないの?」


「いや、僕はそんなことないけど」


 すでに基礎ステータスはカンストし、レベルも160を超え、『錬金術師』の特技も持っている。

 まず失敗しないであろう。


「ビックス、剣を貸して」


「はい」


 俺は、ビックスが持つミスリルの剣、オリハルコン鉱石、水、プリン玉を錬金鍋に入れ、魔力を篭めて『置換』を行った。


「成功だ」


 『置換』は無事に成功し、ミスリルのインゴットとオリハルコンの剣になっていた。

 霊糸だと、『置換』すると消えてしまうのだが、金属は錬金に失敗してゴミにならなければ消えようがなかった。

 インゴットは……今のところ使い道もないけど。

 最悪換金すればお金になるので、『収納カバン』に仕舞い込んだ。


「これで最後まで大丈夫」


「あの……アーノルド様。オリハルコンの剣なんて、そう滅多に手に入らないのですが……」


 手に入ろうと入るまいと、要はビックスの攻撃力が上がって魔王を倒せればいいのだ。

 なにも問題はない。


「ビックスは『剣聖』なのだから、相応しい装備を使って魔王軍討伐で活躍すればいいんだ。僕たちが剣を使っても大して活躍できないからね」


 これで対魔王戦で前衛を任せられる、優秀な剣士が誕生した。

 あとはレベルを上げまくればいい。


「さあ! 次に行こう!」


「まだモンスターがいるのか?」


「いるね」


 残りはさほど重要なアイテムを落とすわけではないが、比較的錬金で使いやすいアイテムをドロップしてくれる。

 新しい剣を得たビックスに任せれば、みんな斬り伏せてくれるはずだ。


「我がホッフェンハイム子爵家の先駆けよ! そのオリハルコンの剣ですべての敵を切り裂くのだ!」


「お任せください! アーノルド様」


 オリハルコンの剣を下賜され、よほど嬉しかったようだ。

 その後、俺がゲームの知識から得たボスモンスターの居場所に到着すると、ビックスが全部斬り捨ててくれた。

 労せず沢山のアイテムが手に入り、これは効率がいいと喜びながら次の目的地を目指す俺たちであった。

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