第75話 カジノ襲撃
「ふっ、ふっ、ふっ。ここが人間が好んで遊ぶというカジノという場所か……下賤な下等生物に相応しい、知性の欠片もない場所だな」
「暗黒魔導師様、襲撃の準備ができましたぞ」
「いいか。目的を忘れるなよ。人間なんぞいくら殺してもいいが、カジノの景品に被害を出すことはまかりならん」
「へへへっ、我ら暗黒魔導師様の配下にそんなアホはいませんよ」
「そうであったな。カジノに多数保管されている『能力値のタネ』と『特技の書』を奪い、我らの強さを底上げするのだ」
今、私暗黒魔導師は、人間たちが営んでいるカジノを上空から見下ろしていた。
それにしても、魔王様と我らの軍勢によってマカー大陸の同胞が大変なことになっているというのに、ギャンブルで遊んでいるとはな。
本当に、人間とは度し難い生き物だ。
そんな奴らだからこそ、もしここで死に絶えても大した問題でもない。
我ら魔王軍からすれば、人間など一人でも少ない方が好都合なのだから。
私たちがカジノを襲う理由は、景品として多数所有している『能力値のタネ』と『特技の書』だ。
これがあれば、私たちは強くなれる。
さすれば、先日の大敗など大したダメージでもない。
一時後退はしたが、将来戦況を回復させ、マカー大陸から人間を叩き出すことも可能であろう。
そして、次の大陸、国へと軍団を進めていく。
いつの日か、人間を根絶やしにするのだ。
そんな理由で、私と直属の軍団はカジノを襲撃しようとしていた。
特技の書で、使える魔法やその威力が増えれば、また人間を沢山殺せるのだから。
「暗黒魔導師様、準備が整いました」
「では、始めるとするか。愚かな人間どもめ。せいぜい泣き喚くといいわ」
私の合図で、次々と配下たちが突入していく。
そして、カジノの中で炸裂する魔法の数々。
暗黒魔導師たる私の配下たちは、全員が魔法の名手だ。
彼らをさらに強化できれは、魔王軍は再び盛り返せる。
プラチナナイトとブラックイーグル侯爵のことは残念だったが……ここで活躍できれば、私の四天王筆頭、魔王軍のナンバー2への昇格は固いな。
アンデッド公爵に先を越されずによかった。
「暗黒魔導師様、カジノの中の人間は殺すか逃げましたぜ」
「深追いはするなよ」
「当然ですよ」
バカで脳味噌筋肉な、プラチナナイトとブラックイーグル侯爵の配下でもあるまいし。
さすがは私の配下。
今回の最大の目的は忘れていないか。
「よくやった。では、景品を奪うとするか……」
「暗黒魔導師様ぁーーー!」
「どうした? そんなに慌てて」
この暗黒魔導師の配下らしくもない。
作戦は成功したのだ。
不用意に騒ぐことなど、我らの品位を落とすことになるのだぞ。
「景品なのですが……」
「バカ者! それが目当てなのに魔法でも撃ち込んでしまったのか? 少しは頭を使えと……」
「いえ、そうではなく。全然景品がないのです」
「どういうことだ? それは!」
まさか、逃げた人間に持ち出されたのか?
ならば追撃を……。
「いえ、最初からあまり景品がなかったのです。誰も持ち出してなんていませんよ」
「見せろ!」
急ぎカジノに入り、景品が展示されているスペースや保管庫を探ったが、世界一のカジノという割には景品が少なかった。
いったいこれは……。
「田舎の賭場ではないのだぞ! こんなに景品が少ないわけないだろうが!」
高価な景品などほとんどなく、当然というべきか、『能力値のタネ』と『特技の書』は一つもなかった。
「事情を知る者はいるのか?」
「それが、逃げるか、殺してしまったので……死体をアンデッド公爵に頼んで吐かせますか?」
「できるか! そんなこと!」
この私が魔王軍のナンバー2になるに際し、一番のライバルが彼なのだ。
こんなことで彼に借りなど作れない。
もし彼が、私を同じようなことを目論んだらというのもあった。
「では、いかがなされますか?」
「カジノ襲撃は成功したのだ。見れば高貴な身分の人間も結構混じっているから功績ではある。これを魔王様に報告すればいい」
「確かに、他国の貴族や金持ちたちを複数殺せましたね」
そうだ。
この作戦は完全な失敗ではないのだ。
他国の貴族を複数殺せた。
これは、将来魔王軍が他国に侵攻するに際し、事前に支配階級にある貴族たちを間引いておくという作戦だったのだ。
「私に失敗はない。このように、作戦とは複数の目的を立てておいた方がいいのだ」
「おおっ!」
「さすがは、暗黒魔導師様」
なんとか誤魔化せたか……。
それにしても、何者がカジノの景品を?
まさか、誰かがバカ勝ちして持ち去ったとか?
それこそまさかだな。
世界一の規模を誇るカジノにあった高価な景品の大半を得られる確率など、我らでもまずあり得ないのだから。
また高価な景品が貯まったら、もう一度襲撃すればいいか。
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