第7旅 油断
驚きの表情をした二人は固まらずにはいられなかった。
掃討された龍や竜と人間が混ざり合った存在がここにあると言われたからだ。見た目は可愛らしい女の子。だが、龍人族と明かしたその時から、リーシェを見ると全身に震えが走っていることにアルカは気づいた。
その震えに遅れてミルフィーが気づいて、その震えを抑えるように自らの体を少しだけ抱いて落ち着ける。
カイバは二人の震えなど気づいてはいなかった。
「龍……っていうとアレかい? 神が作った均衡を守るとかいう生き物かい?」
先に震えを抑えたアルカがリーシェに、自分の知る知識と合致するか確認をする。
その答えにリーシェは首肯すると、続けて語った。
「皆さんが長らく教えられてきたその龍です。近日に、均衡の崩れを察知して均衡を保とうと人間を襲い始めると思われていたその龍です。掃討作戦が決行され、龍が掃討されたのは三年前でしょうか。掃討された、その龍です」
一般的に知る龍。それを箇条書きにして読み上げるが如く、一つ一つの事例を淡々と述べたかと思うと、最後の掃討された話を言葉にする時は悲壮感を感じた。
その話を聞いたカイバは調べたものと一致する事実に、少しばかり安堵を覚えてしまっていた。
どれだけ自分のことで手一杯と言えど、人が、龍が悲しき過去を語って耐えているというのに、安心の感情を得てしまうなどあってはならないのだ。たとえそれが、自分の命がかかっている重要な確認事項だとしてもだ。
そんなカイバとは違い、アルカやミルフィーの二人はリーシェの言葉を聞いて申し訳ない気持ちが溢れてきていた。自分達がその場にいなく、決定権もない立場の、一方は村娘。一方は話し方から気品が見られる通り、先日国家に所属することになったばかりの魔法使い。国家所属といっても何の権限もなく地方の、この川を管理している場所を任されただけのただの魔法使いだ。
「申し訳ない、ですわね。私達がなにか指示したわけではないですけど、国に所属している魔法使いとして謝罪させてもらいますわ」
「あっ、いえ。そういうつもりでは……。悪いのは勝手に決めつけた一部の大人だって理解できてます。ミルフィーさんが国に所属しているからって別に責任があるってわけじゃないです」
「……そう。リーシェちゃんは大人なのですわね」
ミルフィーはリーシェのその考えの在り方を知ると、ミルフィーはそれに感化されていた。リーシェの頭を撫でながら自分のこれからの在り方を、見直した。
「マナドレインの時から何か普通とは違うと確信してたけど、まさか噂にしか聞いたことない龍人族だったのかい、リーシェちゃんは」
「隠してたつもりはないのですが、騙してしまったのならすみません」
「いやいや、いいよいいよ。むしろ噂通りの魔力量を見られて嬉しいってもんだい。都合がもっとよくなったし」
手を振ってアルカが答えた。
「噂にしか聞いたことないってことは、噂で龍人族について聞いたことがあるってことか?」
アルカの話している中に気になる点を見つけたカイバがその部分を訪ねた。
聞いたことがあって、そして別の龍人族について知っているならそれで今回の旅は終いだ。それならそれでカイバの記憶がどうとかが、リーシェに気づかれないだろうからそれがいい。
カイバの心中は、まだリーシェのことより自分のことだけで手一杯だった。
「噂で聞いたのは龍と人のハーフのような種族がいるってだけだね。どこのだれがそんな話をしていたかすら覚えてないや、すまないねぇ」
「いえ、噂だけでも出回っているとわかっただけありがたいです」
噂だけでもここに出回っているとなれば、いつか本当に知っている人に出会えるはず。もちろん、ほら吹きの可能性や、リーシェの住んでいた場所の話の可能性も全然あるのだけれど。
二人からの情報を拝借して、その後軽い雑談を繰り広げた。
陽が傾いて夕陽に近づいた時、カイバ達は村長の手配によって予約されている【サンストーン】に向かうことにする。ミルフィーはこの管理所に当分の間は住み込みでいないといけないらしく、しばしのお別れとなった。
「もう少し昔話をしてたかったのですが、時間ですから仕方ないですわね。カイバ君、リーシェちゃんのことよろしくね」
「あぁ、任された」
カイバが返事をすると、ミルフィーはカイバの耳に顔を寄せたかと思うと、小声で話した。
「アルカは少し危ないところがまだ抜けてないと思いますわ。少しばかり、警戒を」
「ぁ、はい」
いや耳がこそばゆい! 他の伝え方あっただろうになぜに小声なのか。正直ドキッとしたしゾクッともした。
会話の内容などお構いなしに、カイバの脳内は小声で話されたことに対する反応で埋め尽くされていた。非モテだから仕方ない!
「では、ミルフィーさん、お仕事頑張ってください。また会うことがあればいつか」
「えぇ、またいつか」
ミルフィーに別れを告げて去ろうとした、その時だった。
「……ん? なんか熱くないか?」
カイバが、自分自身の異変に気付く。
それはまるで、自分の間隣にストーブがあるようなそんな感覚。となりに熱を放つ物がある感覚がカイバにはしていた。突然の熱にカイバは声に出ていたのが功を奏したのか、リーシェやアルカも熱さに気が付いた。
「そうですね、どこかに熱源がありそうな。……っ!? お師匠様! 危ない!」
「……え?」
リーシェの叫び声に反応したが油断をしていた。何が起こるのだろうかとじっくり構えすぎていたのだ。もし、何か起こったとしても、噂の龍人族の力でどうにでもなると思っていたし、そんな何かの危険なんかよりもリーシェだけに警戒しすぎていたからだ。だから反応も遅れたし対応を誤った。
リーシェの叫び声と同時にカイバが一番に感知していた熱源、カイバの真横にあるそれが火を噴いてカイバを押し出したのだ。それは良くか悪くか川を管理している場所に。
そこは深い湖となっていて、底は見ただけでは測れない。その湖にカイバが押し出されたのだ。
全身に打ち付けたような痛みと熱い物に触れた時の火傷の感覚が襲う。痛いと熱いが同時に襲ったのだ。
「うああああぁぁぁ!!!」
痛い熱い熱い痛い痛い、痛い痛い痛い。喉が燃える全身が燃える。
叫ぶしかない。喉に炎が伝い燃えたとしても叫ぶしか出来ない。
叫んで痛みと熱さに耐えきれずに意識が段々と遠のいて。赤の炎と夕陽とこちらに向かってくるリーシェを見て。最後に感じたのは頭から水に浸かった衝撃だけだった。
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