第6旅 川上にある川を管理している場所

 龍の掃討。

 それは容易なものではない。なにしろ龍はこの世界の中ではトップクラス……いやほぼ頂点に君臨する種族だからだ。龍より上なんて魔王と呼ばれる魔を統べる者か、神様ぐらいだ。

 しかし上、国というのは愚行者で、五千余の兵数を使用する【討伐】をまず行った。龍の力を推し量る為の出兵。あわよくば掃討出来ればとのことだった。

 だが、結果は悲惨なものだった。

 討伐できた龍の数は無し。死者四千超、負傷者数百人となった。唯一持って帰れたものといえば、一つの情報だけだった。

 その情報は龍――胴の長い体の生物ではない、もう一つの生物がその住処にはいたことだった。それは竜と書き【ドラゴン】と呼ばれるものだった。

 龍の頭に巨大な胴体、四足。それは二本足で立ち、背には大きな翼を携えている。その体は硬質な鱗で覆われていて、並みの剣士じゃ剣を無駄折りしてしまうだけとのこと。

 だがその事実を知っても国は諦めない。策を弄し兵数を増やし土地をも使って討伐を目指した。

 それでも無数の死者、土地の破壊を作り遊ぶことになるだけで竜を討伐することは結局のところ叶わなかった。

 国は考え、最後の手段を【犠牲になった者達のため】と理由をつけて行うことにした。それは二人の天に届かんとする者に討伐依頼をすることだった。

 それが剣聖様と魔聖様である。


「そしてその二人が竜と龍を掃討した」


 物語を大まかにまとめると、こうなるだろう。

 物語を読んだ自己解釈と感情が入っているが、そんなに出兵した国がバカで竜と龍は無罪。そして剣聖様と魔聖様とやらがこの世界でぶっ壊れ性能をしている……か。

 辺りの本を見渡しても剣聖様と魔聖様の名前と、龍の絵が描いてある辺り、この話が一番知られていて最近の話なのだろう。もしかしたら昔話の派生作品が沢山あるだけかもしれないが。

 カイバは本を本棚に戻すと、次の本を探すために歩き出す。次の本は完全な歴史書……を読みたいのだが、それほど時間があるわけでもないので簡潔な物を探す。しかしあるのは立派な五百も六百のページがある本で、カイバが求めているような少ないページでわかりやすいものは無かった。


「お師匠様、お待たせしてしまいすみません」

「大丈夫、待ってなかったから」


 リーシェが茶色の本を片手に立っていた。荷物を背負っていない彼女に一瞬疑問を覚えたが、その理由を聞く前に自ら話してくれたおかげで理解する。


「先程の青年に会いまして、先に宿泊予定の場所に荷物を置くことを勧められたのでまた何か荷物で後れを取っては、と思ったので置いてきました」

「なるほどわかった。では軽い観光といこうか」

「はい!」


 図書館を出るとアルカが少し遠くから走ってくる。図書館には一緒に来なかったのでどこに行ったのか、なんて気遣いはなかったが、アルカはアルカ自身の用事があってそれを済ませていたようだ。


「カイバとリーシェちゃんもう揃ってたのかい。夕方までは時間あるとは言っても、どこかにい行くなら早めにね」

「どこに、という目的はないな……あるとすれば観光しつつ村民に聞き込みって感じかな?」


 目的であったリーシェの同族、龍人族を探すための聞き込み。その目的自体は忘れていない。だが、その目的を進めることよりも今は自分の、文字の通り自分のことで手一杯なのだ。


「そうですね。私の故郷から少しばかり近いとは言っても噂などでこの村に入ってるかもしれないですし」

「じゃアルカ、オススメの聞き込みついでに観光スポットとかあれば教えてくれよ」

「祭壇を紹介した、うーん……川上にある川を管理している場所、とか?」


 川上って単語なかったら、動物の皮でも扱ってると思ってしまうぐらい雑な紹介だ。

 そしてそんな雑な紹介を受けた、川上にある川を管理している場所は石造で建築された場所。場所によっては恐らく鉄製だったりここだけ違う文明のような場所だった。

 真ん中に大きな池があり、その池の四方に川がある造りだ。一方の川にだけ水が流れるようなことが起きないように管理している場所だ。

 まぁ、観光スポットかと言われればまぁそうだと言えるけど、一つだけツッコミたい。


「いや、村の外だしここまで一時間は絶対歩いてるんだけども!」

「カイバ、急にどうしたんだい。足の裏痛いのかい?」

「それもあるけどここカルパ村じゃないじゃん、なんなら別の村の方が正しいじゃん!」

「仕方ないんだ。なぜなら本当に祭壇くらいしか知らないんだから」


 アルカが思ったよりも地元について詳しくないことにリーシェは驚いていた。恐らくリーシェは地元について詳しくて馴染み深いものなのだろう。

 カイバ自身も地元について聞かれてば、かなりの知識持ちだと自負できるぐらいだ。

 カイバもリーシェも地元を知っている人間であったから、アルカに聞くことは何もおかしくはなかった。ただ単にアルカが知らないだけで。


「アルカは本当に元気ですわね」


 少し離れた場所にいた一人の少女が独り言を呟いた。それは独り言というには少しばかり大きい印象を受けた。

 その少女は、長い金色の髪に蒼眼、そして髪にある青色のリボンが可愛らしい少女だった。見た目からして十四、五歳辺りだろうか。


「ミルフィー! 久しぶりじゃないかい!」

「本当に久しぶりですわね、アルカ」


 二人の反応や、この後に受けた説明から見るに久々の再会を果たした友人同士。幼馴染とは言い難くも、この年で十五となるミルフィーの四歳の時から十三になる時までの友人だ。

 二人は抱き合って軽く語り合うと、カイバ達にアルカが紹介する。今上記に書いた内容を。

 その紹介を終えると、カイバ達の紹介を軽く済ませる。そうした後に旅の目的である他の龍人族の住処について質問する。


「そうだ。この子……リーシェみたいな子を見たことあるか? 今探していて、その聞き込みのためにカルパ村に寄ったのだが」

「こんな可愛い子、二人としていないと思いますわよ」

「あぁ、リーシェちゃんに似た可愛らしさを持っていたら覚えていると思うよ」


 どうやら二人は龍人族についても知らないらしい。アルカの話はともかく、偉い人みたいな話し方をするミルフィーが知らないとなると、本当に知らないんだろうなと思った。


「お師匠様、その聞き方だと私の姉妹の存在を聞いてるみたいでダメなのです」


 リーシェがカイバの前に立つ。そしてカイバの手を取って自らの頭に乗せて話した。


「そのまま撫でててください、そうすればわかります」

「……口で説明するのじゃダメなの?」

「ダメです、続けてください」

「はい……」


 それ以上の反論はリーシェの小さな背丈から出てくる威圧感で消されるだろう。

 カイバは無言でリーシェの頭、髪の毛を撫でる。肌触りがよくてさらさらで気持ちがいい。許されるならこのままずっと触っていたのだが、世間やアルカやミルフィーが許してくれなさそうだ。

 リーシェは下を向いていて身長の関係上、表情が伺えない。触り方気持ち悪いんだよ! だなんて思ってないといいのだが。

 そんな少しの邪な考えをしながら撫でていると嫌でも気づく。


「あれ、角に当たり判定がない……?」

「辺り判定という言い方はなんだか不満ですが、その通りなのです」


 頭を撫でる手が一切引っかからずに、撫でていられる。それは見えている角の部分が透けて頭を触ることが出来るからだ。


「お師匠様と、一部の人間だけしか見えないのですよ。だから『私みたいな子』という探し方をしてしまうと、私似の女の子を探すことになります。ちゃんと言うならば……龍やドラゴン、龍に人が化けるという噂を聞いたことはありますか? です。そしてどうでしょうか、アルカさん、ミルフィーさん」


 リーシェは綺麗にまとめて言うと、話を聞いていたアルカとミルフィーは驚くしかなかった。

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