第3旅 カルパ村

 今カイバ達三人は、カルパ村へと向かって歩いている。


 カルパ村とは農業が発達している農村である。辺りを見渡せば中央の居住区以外では畑が見える場所。春夏は緑を主としたその村は「癒しを運ぶ村」だなんて呼ばれ方もしたぐらいだ。

 それだけでカルパ村は観光地として有名な場所なのだが、大概の人物はもう一つの別の目的、観光のためにここにくる。それは――信仰だ。それも巨大な、赤く燃えて、頭上に居座っている存在……太陽だ。


 我々人間の活動エネルギーを、そしてこの星に生命エネルギーを、最後に破壊のエネルギーを。


「……って村長がいっつも事ある度に言ってて、内心ちょっとうざかったなー」


「うざかったって……アルカはカルパ村の生まれじゃないのか?」


「生まれも育ちもカルパ村だよ。ただ、ちょっとばかり考えが違っただけ。だから喧嘩になったんだけどね、あはは……」


 自らの赤い髪を触ってアルカは空笑いした。

 先程までカイバやリーシェに視線を向けて話していたが、今は歩いている獣道や側に立つ木や空などを眺めている。目を合わせるのが気まずい、そんな考えが伝わってきて聞いてはいけないことを聞いたことをカイバは悟った。


「でもきっと、いつかは仲直りできますよ!」


 リーシェが優しい言葉で返す。その優しさは、彼女にとって痛いほど突き刺さった。それが不可能であるとわかってながらも、こう返事するしかなかった。


「ありがとう、リーシェちゃん」



 ――――――――



 カルパ村の面影が遠方から見えた時、アルカは元気よくアレだよと言って変装の準備に入った。村の面影が見える、と言ってもまだまだ村からは遠く、到着にはまだ少しばかり時間を要する。なのになぜ、アルカは見えた村がカルパ村だとわかったか。それは辺りの風景を覚えていたからでもあるが、もう一つの理由が答えなのは明白だった。


「なんだ……あれ」


 村の上空に浮かんでいる巨大な球体。茶色のそれは村全体と同等以上の大きさを誇っている。異様な光景だ。

 しかし、それこそがカルパ村の特徴であり、日常なのだ。あれがないカルパ村はカルパ村じゃないと言える。


「第二の太陽――サン。村ではあの魔力の貯蔵庫のことをそう呼んでいたよ」


「えらく直球なネーミングセンスなことは置いとくとして、魔力の貯蔵庫……ってことは何かに使ったりするの?」


「太陽の再現、って言ってた。信仰してる物の再現なんて罰当たりだと思うのは私の勝手かな」


 白いワンピースを上から着て、赤い仮面を付けて変装を終えたアルカが目を伏せて言った。

 話と違い場も違うことはわかっているが、今一つわかったことがある。アルカは外見に出やすいタイプだと。

 外見とは、顔の表情や体を使った仕草などで、困ってる時は表情にわかりやすく出ていたし、今も目を伏せているところから想像がつく。だから――


「……いいえ、そんなことはないと思いますよ」


 そんなアルカの様子を見て、リーシェが答えた。


「考えること、思い、想うことは誰にだって等しく自由なことです。それがどれだけ強欲であったり、傲慢な考えだとしても、声に、行動にさえ出ていなければまだ未遂なことですからね」


 持論だろうか。

 語ったそれは、思いにふけていた気がした。幼いリーシェでもアルカに共感し、思うことがあるのだろうか。カイバは語るリーシェを見てそう思った。


「……あっ、でも悪いことは考えちゃダメですからね!」


 遅く訂正したリーシェを見て、アルカとカイバが思わず笑ってしまう。


「アハハ、もちろん。私は悪いとわかってて行動なんてしないさ」


「もちろん、俺もそんなことはしないよ」


「ほんとうですか?」


「ほんとほんと、俺は悪人にはならないよ。それにもし、道を間違えそうになったらリーシェが止めてくれるだろうしね。そうでしょ? リーシェ」


「それはもちろん、そうですけど」


「頼りにしてるよ、リーシェ」


 話を更に別の方向に流し、リーシェに期待をするカイバ。

 リーシェの頭を撫でながら本当に期待をしてる旨を伝えると、覚悟をするかのような、未来を見据えている真剣な眼差しになる。だが、それもすぐに崩れ、徐々に口元が緩み始めれば目も緩んだ。

 その緩んだ口からは「にへへ〜」と可愛らしい声が漏れていて非常に癒される。

 これがゲームならHPが間違いなく全回復してただろう。フェニックスのなんちゃらやフルポーション、応急キットなどと同等のレベルとは、恐ろしやリーシェ。


 リーシェの可愛さについて語っていたいところだったが、到着してしまったためにそれは中断されることになる。到着、というのはもちろん村――カルパ村である。

 その村の一番外、そこに簡易的に作られたであろう検問所が設置してあった。石造りとはいえ、窓から見える光景は木製の椅子と机だけの貧相な内装だ。その椅子に座っている一人の笑顔の青年がこちらの存在に気が付いて声をかけてくる。


「貴方たちは旅行者……旅の人ですか? それとも商人?」


 村の住人でないことは顔を見て判断したのだろう。だからそのことは質問することなく二択の質問。商人ならば事前の許可の有無などを質問してきただろう。だがカイバ達は旅の人だ。


「三人全員、旅をしてる者だ。こっちが可愛い妹で、この赤髪の子は……幼馴染だな」


「なるほど了解しました。では入村の儀式を行います。代表者一名の方、この紐を掴んでください」


 何か文句を出さずに言う前に無言でアルカを見た。頭を掻いてもう片方の手で謝罪のアピールをして見せた。

 つまるところ、単純に説明忘れである。

 その間に青年は空へと続く紐を持ってきて、誰がやりますかと急かしてくる。

 何かわからないというのは非常に怖い。紐を持ったらそのまま空中に浮いて地上に戻れないやら、実は風船が付いててそれを飛ばさないようにだとか、そんな未知なるものへの考察を勝手に行って止めない。

 青年がカイバを見ている。先に紹介をしたので代表の方だと思われているのだろうか。勝手に決めつけるのは止めて欲しいが、これ以上ここで停滞するのもそれはそれで馬鹿馬鹿しいので手を挙げて代表になる旨を伝えようとした、その時だった。


「私がやります!」


 リーシェが手を挙げて示した。

 青年はそれに少し驚いたようだったが、すぐに平静を装うと「どうぞ」とリーシェに紐を渡した。なにが起こるのかと、期待と緊張、後は少しの恐怖感が現れた時、想定外の事が起きる。


 ――紐が光に覆われた。

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