第2旅 赤髪の女
向かう先は未定。だけど目的は確定しているこの旅。
村や町で聞き込み、情報を得られるとそれの真偽を確かめに現地へ。その繰り返し。そうカイバは思っていたが、現実ではそんな簡単な話ではなかった。
旅立ちから僅か五、六時間で足が悲鳴を上げ、早くもギブアップ状態のカイバ。足の裏も。モモの筋肉もヒカガミと呼ばれる膝の裏の部分も限界だった。
歩く度に先に述べた部分が痛みを放って止まない。ジンジンと痺れる感覚と共に襲ってくるその痛みは確実に増していき、はじめはリーシェに格好悪い部分を見せれないと耐えていたがもう限界である。
「ちょ、ちょっと。ちょっとだけ休憩しようか、リーシェ」
「わかりました。リーシェはいつでも大丈夫なので、お師匠様の準備が終わったら言ってくださいね!」
「ありがとう、リーシェ」
近くの木の下、太陽の日が入り込まない位置に腰を下ろして足を休める。カイバが据わるとその横にちょこんとリーシェも座り木々を見ている。
まだどこかの村や町への途中。整備はされてないが明らかに使用形跡のある獣道を通っている。その獣道を少し外れたところに緑を主張した木々が植えられており、中には赤い果実が生っているものもあった。現実世界、ここに来る前の世界の山の中と、あまり変わり映えのない景色に少し落胆はしていたが安心もしていた。
安心といえばもう一つある。こういう異世界と言われる世界、そして龍人族と聞いて思ったのが明らかなファンタジー世界。ならば道中でモンスターに襲われるのではないのか、という心配だ。
だがそんな心配の意味はなくモンスターらしきものは今のところ全く見ず、ここまで安全な旅が送られている。
長めの散歩。それもこんな可愛い子との。見方によればデートと言っても間違いないだろう。デート最高だぜ。
「デートじゃありませんよ、お師匠様」
「え、何声に出てたの恥ずかし……」
「そんな浮ついた気分じゃもし、急に襲われたりしても対応しきれませんよ」
ド正論である。
そして今の反応で、さっきのモンスター見ず事情の事について聞いても違和感のないでのでリーシェに質問する。
「やっぱり、モンスターとかいるのか?」
「いはしますよもちろん。さっきから気配では察知してます。でも、誰も好き好んで龍人族になんて手を出してきませんよ」
「龍人族ってこの世界だとかなり強い方なのか?」
「うーん、多分ですけど。ドラゴンスレイヤーという存在がいなければ上位の方の種族。龍王の家系であれば魔王と呼ばれる魔の支配者や、天人と同等かと思いますよ」
上位と、謙遜しているのは目に見えて明らかだった。そしてドラゴンスレイヤーを忌み嫌っているのも、わかってしまった。
それにしても龍王の家系であれば魔王、つまりは自分の知識の中ではラスボスに位置する者と同等。天人というのがどれほどかは未知数だが、名前の響きからしてこの世を超越してそうなのは確かなこと。そんな龍王がいてもドラゴンの殺害を主にしたドラゴンスレイヤーには勝てないことに驚いた。
ならば魔王スレイヤーなどもいて特化している人物がいるんじゃないかと想像したりしてしまう。そうなればこの世は今までいた世界と何ら変わりない、人間が星を支配している世界ということになる。
それは安心、安全だが。ファンタジー世界ということを考えると、想像とのギャップや相変わらずの人間第一主義に少しだけ心が痛んだ。この世界は発展のためと生き物の住処などを荒らさなければいいのだが。
そんな杞憂を起こしているカイバがどれだけ傲慢なのか、それを自覚することは今はないだろう。なぜならこの思考はとある乱入者によって止められたのだから。
「そこの二人、旅行者かい?」
男勝りな女の声が聞こえた。
声のする方向を見ると赤髪ショートのショートパンツにへそを見せた女が立っていた。見た目からすると二十台。腕や足を見ると細くスラっと伸びているが、僅かに見える鍛えられた筋肉がある。
「リーシェ、今って旅行という扱いになるのか? それとも……放浪?」
「放浪……は強ち間違いとは言い切れないですけど言い方が……。綺麗に言うならば捜索旅行ですね!」
「捜索旅行、って……。まぁ旅行ならいいんだけどさ」
「旅行者にしか頼めないことなんですか?」
「あぁ……少し公にできないことなんだが」
女は唾を飲んで話の重要性を雰囲気で表す。それを見たリーシェも合わせて唾を飲んだフリをし、カイバは何を話すのかと聞く意志はあるが、目線を合わせられずに髪の毛を見る。
「ちょっとばかりカルパ村の村長と喧嘩しちゃって今出禁なんだ。家に大事な物忘れちゃってさ。でも村に入ろうとするとどこからか見つかって入れさせてくれないんだ」
「それで変装して同行させてほしいってことですか?」
「そうそう! 君、話がわかるの早いね! 今何歳?」
「十三です!」
「えぇっ!?」
驚きの声を上げたのはカイバだった。龍人というものがどういうものかわかってなかったが、想像だけで年百歳と年を取っていると思っていた。それだけに声に出て驚いてしまった。
「それはそうとして、リーシェはどう思う。俺はひとりぐらいその村に詳しい者がいて欲しいと思うのだけど」
「私はお師匠様が決めたことに従いますよ。お師匠様の言ってることも納得できますし。ただ……」
リーシェは女のことを見て一つの不安要素を話した。
「喧嘩にしては村から追放はやりせぎではありませんか? もしかしたら喧嘩では済まないことをしてしまったのでは? と。そして密入国、ではなく密入村の手伝いをしたとして私達はどうなるのか。それだけが不安なのです」
確かに、バレればすぐに処断、なんてことももしかしたらあるかもしれない。その可能性があるなら一緒にいれるなんて恐怖でしかない。リーシェは自衛できるかもしれない俺はどうなのだろうか。そう思うと一緒に入れるのが怖い。
だが、リーシェの不安要素を聞いて女はバツの悪そうに困っている。
「多分だけど、この人は大丈夫じゃないかな。いい人な気がする。理由はないんだけど、なんとなく」
甘いことはわかっている。でも、困った表情をみてしまっては断れなかったのだ。
「お師匠様に従いますよ。大丈夫ですよ。もしなにかあったらお師匠様だけでも守りますから」
「ありがとう! リーシェちゃんとお師匠様さん? 私はアルカ。よろしくね!」
「カイバだよ。アルカ、よろしく」
カイバの名前を聞いて頷くと、恐らく村のある方向を指差してアルカは言った。
「じゃあ行こう! カルパ村へ!」
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