第15話『横並び』


RE滅鬼の刃 エッセーノベル    


15・『横並び』       






 日本人て横並びですよね。




 いいか悪いかは別にして、周りの人と同じであることで精神の安定を保っていると思うんです。


 お祖父ちゃんは、1953年生まれですから、団塊の世代の尻尾の先だと思います。


 職場は公立の学校でしたから、同僚の先生たちは日教組です。


 あ、日教組という括り方をすると「それは違う」とお祖父ちゃんは言います。


 お祖父ちゃんは府の教職員組合が分裂してゼンキョウというのが出来た時に組合を辞めています。


 ゼンキョウ……全日本教職員組合? よく分かりませんが、1991年に日教組から分離した組合組織で、日教組とは一線をひいている……だそうです。


 日教組も全教も、まあ左派の組合です。高校生のわたしには、違いがよく分かりません。


 立憲民主党系と共産党系? アハハ、立憲民主と共産党の区別もついていません(*ノωノ)。


 その中で日の丸賛成! 卒業ソングは『蛍の光』と『仰げば尊し』を叫ぶんですから勇気があります。


 お祖父ちゃんも最初は組合には入っていたようです。


 最初の学校に新任で入った時、諸手続きの中に組合加盟の用紙があるし、説明してる人は一緒だし、なんか「皆さんそうなさってます」的な空気の中で入ってしまったんだそうです。


 なんで辞めたのかを面と向かって聞いたことはありません。なんか古傷っぽいですしね。


 お祖父ちゃんはFacebookをやっています。


 毎日、お友だちの投稿を見ては「ほう」とか「へえ」とか言ってます。


 友だちの友だちは、みんな友だちだ! という感覚でフレ承認していたら、いつのまにか300人ほどお友だちができたようです。


 リアルのお付き合いは、ほとんど無くなったお祖父ちゃんですので、たとえSNSでも人の繋がりがあるのはいいことだと思います。


 ただ、歳の割には左翼っぽくないお祖父ちゃんなので、お友だちの投稿間違っていたり見当違いだったりすると、きっちりと反論を書きます。


 たとえば――総理は記者たちの呼びかけを無視して去っていきました――という書き込みがあったとします。


 お祖父ちゃんは、色々調べて確認します。確認の結果以下のようなことを知ります。


 総理は、記者たちに呼び止められて振り返りましたが呼び止めた記者は手を挙げません。それで、総理は再び去ろうとしますが、再び「総理!」と声が掛かり、再び振り返りましたが、やっぱり名乗り出る記者はいませんので、三度立ち去ろうとします。すると、三度目の「総理!」の声が上がりますが、三度目は振り返らずに、そのまま立ち去りました。


 この三度目の時だけを取り上げて――総理は記者たちの呼びかけを無視して去っていきました――と非難するのです。


 そこまで調べて反論するのですが、反論された方は、やっぱり不愉快ですよね。


 たいていの人は反論された中身が問題ではなく、反論されたということに戸惑いと反感を持つんですよね。


 もう、現役のころのしがらみも無いのですから、思い切りやればいいと思います。


 でも、健康にだけは気を付けてくださいね。このごろ血圧も血糖値も高いんですからね。




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 Sのドクロブログ☠!


 


 開き直るんじゃねえよ。


 人生100年とかいう時代だぜ、友だちがいねえことを自慢すんじゃねえよ!


 夜中にひっくり返ったって、あたししかいないんだぞ。


 クソジジイだから長生きだと思うけどさ、死ぬまで無事でさ、なんも患うこともなしにポックリいってくれたらいいよ。


 何回もひっくり返って、救急車呼んだり、度重なる入院とかで付き添いだとか看病だとか介護とか勘弁してよ!


 あたしだって、自分の人生あるんだからね。クソジジイのことで青春台無しにしたくねえよ。


 なんか、そういう予感がするからさ、頼むよ、ちゃんと、これからのこと準備しといてくれよ( ノД`)!!


 年末の事だったよな。


「しおり、もう年賀状やめようか」


 ミカンの皮剥きながら背中で聞いたよな。


「好きにすればあ……」


 そう言ったけど、本心は――クソジジイ、とうとう来やがった――て思った。


 年賀状たって、50枚無いじゃん。


 みんな義理で出してくれてる年賀状だけどさ、それでも、やっと残ってる人間関係じゃん。


 SNSだってさ、いちち反論とかみっともないよ。適当に『いいね!』押しまくって、かわいらしくしときゃいいんだよ。ひまでYouTube観まくりなんだろうけど、安倍さんとかトランプを贔屓にすんじゃねえよ、年寄りのトレンドは『安倍政治を許さない!』だからな。世間の年寄りは、総理辞めたって安倍総理許さねえんだからな! 右に、いや、左に倣っとけよ。


 失った人間関係は、取り戻せないんだからさ。


 だいたいさ、適当に世間に合わせときゃよかったんだよ。


 学校に勤めていてさ、日の丸とか君が代とか言ってんじゃねえよ!


 はいはい言って付き合っとけば、ここまで孤立してねえと思うよ。


 あたしだって、家の外じゃイイコしてるよ。


 ご近所の人に遭ったらきちんと挨拶するしさ、ゴミ出しだってやるよ。


 回覧板回すときだって、時候の挨拶だけじゃなくってさ、「腰の具合どうですか?」とか「夕べの地震びっくりしました!」とか「つまらないものですが」とか言って年に一回くらいは出かけた時のお土産添えたり、町会の運動会にも進んで出たりとか、クソジジイに万一のことがあった場合のセーフティーネットの構築に勤しんでるよ。


 学校じゃ『着かず離れず深入りせずに』をモットーにしてさ、クラスのどのカーストからも「おはよう」とか「オッス」を言い合えるような関係保ってるよ。


 制服の改造とかはしないけど、ブラウスの第一ボタンは外してリボンはルーズを心がけてるよ。


 ローファーの踵は踏みつぶさないけど、スカートは校則よりも三センチ上にして、アクセとかはしないけど、左手のミサンガは外したことがない。


 しおりは緩め方がうまいよなって、生活指導の竜崎に言われた時はギクってしたけどさ、まあ、生活指導部長に、そう言わせるくらいには気い配ってる。


 ジイチャンも、頼むよ。


 元気でいてよ、あたしが玉の輿に乗るまではさ。


 


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