第12話『卒業ソング』


滅鬼の刃12・『卒業ソング』   





 今年(2021年)も卒業式のシーズンがやってきました。


 日本全国四万校あまりの、小学校から大学まで、学校の数だけ卒業式が行われます。

 中には、卒業式とは言わずに、卒業証書授与式というところもあります。


 ちょっとしっくりきません(^_^;)。


 わたしのいる大阪などは、公には卒業証書授与式となっていますが、みんな卒業式と言っています。


 卒業式で歌う歌を「卒業ソング」とか「卒業生の歌」とか言います。

 ちなみに検索してみると、以下のような歌が出てきました。


 〇贈る言葉         海援隊


 〇卒業写真         松任谷由実


 〇My Graduation       SPEED


 〇3月9日          レミオロメン

 

 〇道            EXILE


 〇桜の栞          AKB48


 〇Yell           いきものがかり


 〇旅ダチノウタ       AAA


 〇Best Friend        西野カナ


 〇振り向けば…       Janne Da Arc(ジャンヌダルク)


 〇桜の木になろう     AKB48


 〇10年桜         AKB48


 〇手紙 〜拝啓 十五の君へ〜 アンジェラ・アキ


 〇Best Friend        Kiroro


 〇遥か           GReeeeN(グリーン)


 ○卒業          斉藤由貴


 〇卒業          尾崎豊


 〇卒業-GRADUATION-   菊池桃子


 たいていの学校では、卒業生が候補曲をいくつか出して、投票で決めるケースがほとんどでしょう。だから、240人の卒業生がいて、候補曲が7曲ほど出て、50人ほどの賛成で決まってしまうこともあります。そう言う場合、残りの190人は不本意で、斉唱するときにも意気が上がらないこともあるのではないでしょうか。

 

 これらの卒業ソングの中には、定番と言っていい言葉があります……。


 桜 友 友だち 思い出 旅立ち 別れ 春 卒業 君 果てしない 道 喜び 懐かしい 涙 等々。


 逆に、ほとんど出てこない言葉があります……。


 師 教え 先生


 師に至っては、このエッセーを書くにあたり聞いた卒業ソングの中には出てきませんでした。学校生活で、もっとも濃密な関係は、友だちと先生でしょうね。

 わたしが小学生のころは、『仰げば尊し』と、在校生や先生、保護者、来賓の方々の『蛍の光』と決まっていた。今でも地方や私学では、この二つの曲を大事にされているところがあります。公立の学校ではほぼ絶滅してしまったように感じます。卒業ソングで検索しても、この伝統的な二曲は、ほとんど出てきません。



 昭和30年代までは、この二曲は定番でした。


『ビルマの竪琴』という映画があります。

 水島上等兵が、ビルマの僧侶になり、捕虜収容所の仲間たちのところに会いに行く有名なシーンです。

「水島、水島じゃないか。いっしょに日本に帰ろう!」

 仲間達は、鉄条網の中から、水島に呼びかける。

 水島は、一言も語らず、竪琴で『仰げば尊し』を奏でます。それで全てが伝わります。水島は日本人であることさえ卒業して、戦争で亡くなった人たちの冥福を祈ることに、残った人生をかける。その想いと決意が、この曲を奏でることだけで通じます。

『二十四の瞳』の中でも、校庭での卒業式のシーンは、この『仰げば尊し』です。この曲は明治17年から歌われ、長年作者不詳となっていましたが、『The Song Echo: A Collection of Copyright Songs, Duets, Trios, and Sacred Pieces, Suitable for Public Schools, Juvenile Classes, Seminaries, and the Home Circle.』の中にあるアメリカの楽曲の中にあるということを一橋大学の桜井雅人名誉教授が2011年に突き止められたそうですが、まだ作者不詳と紹介しているものもあります。

 いずれにしろ、これは日本軍国主義が作ったものではないことは確かなようです。

「仰げば尊し」と歌いだした、この曲はわたし達日本人が歴史の中で育んできた感性の発露であると思うのですが、どうでしょう。


 授業前の「起立・礼・着席」などに、その名残が残っています。また師を「先生」と呼ぶ言い方もそうでしょう。わたしは現職のころ心配しました。「先生」という呼称が「教育士」などにならないかと。


 ここまで読んで、大橋というのは「なんというアナクロ!」と言われるかもしれませんね(^_^;)。師の恩とは何事かと。

 よく、命の大切さを教えるときに「人の命は山よりも重い」と校長先生が言いますね。これは、その「アナクロ」そのものであることに先生自体が気づいていないように思います。この言葉の大元は司馬遷の報任少卿書の中にあります。

「人の命は泰山より重く」からきています。そして、この言葉には下半分があります「鴻毛より軽し」

「人の命は泰山より重く、或いは鴻毛より軽し」が正しいのです。

 我々は、『君が代』を取り戻しました。式典で起立斉唱しない教職員は、ほとんど皆無になってきましたね。そして皆無になったことを嘆く日本人もほとんどいないのではないでしょうか。

 

 もう、ナショナルスタンダードとして、『仰げば尊し』を思い出してもいいのではないでしょうか。


 むろん、いわゆる卒業ソングは否定しません。Graduation ceremonyに続くプロム(舞踏会=パーティー)のようなところで大いにハジケればいいと思います。アメリカでは、公の卒業式が終わった後、生徒達自身で企画して、こういうイベントをやります。型を決められた卒業式で、わずか数分意気の上がらない卒業ソングを歌うのではなく、自分たちで、自分たちのためのイベントを企画してはどうでしょう。それとも、そんな自由も発想も、今の若者にはないのでしょうか。スタンダードでトラディッショナルな卒業式は、きちんと受け継ぎ、自分たちがハジケルためのものは、自分たちでやればいいとオッサンは思います。



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