第6話『500枚のイラスト教材』 


滅鬼の刃 エッセーノベル    


6・『500枚のイラスト教材』   






 勉強はせんかったなあ……。



 わたしが学校の勉強を投げ出したくなった時に、ことのついでのように言います。


 こころは『俺も勉強嫌だったし、しなかったけどなんとかなったぞ、気にするな』という、お祖父ちゃんなりのフォローなんです。


 お祖父ちゃんは、病気で辞めるまで三十年近く高校の先生をやっていました。


 本当に勉強はしなかったようで、高校を四年、大学を五年行っていました。


 まともに就職したのも二十八の歳だったようで、まあ、豪傑です(;^_^。


 わたしは留年なんかしたら、ぜったい心が折れてしまうので『テヘペロ(#^_^#)』的なリアクションしておしまいにします。


 お祖父ちゃんは地歴公民の先生だったのですが、生徒や学生のころの成績は無残なものです。じっさいに通知表を見せてもらったんですが社会科でも欠点を取っていました。


 でも、高校で教えていたのですから、どこかで勉強はしていたんです。


 お祖父ちゃんの部屋にはたくさん本があって、そういう本を読んで勉強の代わりにしていたようです。


 専門書とかじゃなくて、ほとんどが文庫本とか新書本の類です。中には『マンガ日本の歴史』みたいなのがあって、手に取ると、かなり読み込んだ形跡があります。


「生徒に教えるのには、マンガ的なアプローチの方がいいんだけどな」


 そう言いながら開けたクローゼットの中には岩波とか中央公論とかの歴史の本もありましたが、あまり読み込んだ形跡はありません。


 数年前には『岩波歴史講座』の日本史・世界史をまとめて捨てていました。


「本屋の営業が可愛そうだから買ったんだけどな、これは悪書だ」


 岩波って、学校の図書館にもあって、たまに先生が読んでいます。左翼っぽい本なのかなあ……ちらりとめくってみると、新鮮なインクの匂いがして、ペッタンコになった紐の栞、ページに跨って挟んだままの発注伝票。まるで本屋さんのデスストックという感じでした。


 いつだったか、年末の掃除をしていたら、お祖父ちゃんが授業で使っていた手作りの教材がいっぱい出てきました。


「こういうのを見せると、一瞬だけだけど、生徒は前を向く」と言うのです。


 歴史上の人物だけで三百枚ほどあります。


「黒板に名前を書いたら、その横にマグネットで貼り付けるんだ」


 なるほど、これなら人物がビジュアル的に記憶に残ります。


 人物は、たいてい二頭身で、顔が強調されています。


 教科書に載っている挿絵的なものではなくて、マンガ日本歴史的……いえ、今どきのアニメキャラ的でした。


 いろいろ面白いんですが、笑っちゃったのは徳川家康。


 三方ヶ原の戦いの姿だそうで、武田信玄に追い回され、方法の態で城に戻って、眉を寄せて爪を噛んで、ほんとうに困ったというかビビった姿。


「ああ、これは見本がある」


 そう言ってパソコンを開くと、お祖父ちゃんが見本にしたのがありました。


「自分が、いちばん困ってみっともないところを絵師に描かせたんだ。自分に対する教訓だな」


 なんだそうで。


「信玄に追いかけられて、ほんとうに怖くてな。城に戻った時には馬の鞍にウンコを漏らしてしまったんだ」


 と言います。


「で、口の悪い家来が『これは、ウンコを漏らすほどに怖かったんですなあ(^▽^)/』とからかたんだ!」


 すると、


「ばか、それは腰に付けた味噌が零れたんだ!」と強がります。


 それで、アハハと笑っちゃったんですが、疑問が残ります。


「でも、お祖父ちゃん。当時はヨロイとか着て、袴とかフンドシとかもしてたんでしょ、どうやって漏れるの?」


「それはな……」


 そう言うと、戦国時代のフンドシの事情を身振りを交えて教えてくれて、転げまわって笑い死にしそうでした。


 そう言えば、あんな鎧兜を身に着けてトイレとかはどうしていたんだろうて大河ドラマ見て、子ども心にも思ったものです。実に面白い話なんですが、又にします。


 お夕飯の用意をしなくちゃ。


 あ、今夜はカレーの予定でした(-_-;)。




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 Sのドクロブログ! 




 クソジジイに関わるとろくなことが無い。


 つい、三方ヶ原の家康なんか思い出すから、結末の鞍ツボのウンコまで思い出してしまってさ!


 晩ご飯のメニューはカレーだよ、カレー!


 責任とれよ、クソジジイ(`Д´)!


 三百枚のイラストだよ!?


 人物以外にもイラストとかあってさ、総数五百はあったね。


 んなもん、さっさと捨てとけよ!


 自分では『面白い授業』を実践した、栄光の歴史とか錯覚してんのかもしれないけどさ。


 こんなヨタ話とかばっかで、ちっとも授業は進まなかったんじゃないかと思うよ。言わないけどさ。


 教材だって、江戸時代以前のがほとんどでさ、近現代史とか公民的分野のものってほとんど無いわけよ。


 本人は、孫に気の利いた話をしてやってるつもりなんだろうけどさ。


 しょーじきイタイよ。


 もしさ、すてきな授業とかできていたんなら、なんで、退職してからは教えに行かないわけ?


 五十代で辞めたからさ、希望すれば、講師とか、いっぱい口があるっしょ? 講師登録しとけよ!


 産休講師とか育休講師とか、この頃じゃ介護休業ってのもあるんだしさ、行ってる学校でも、そんな講師の先生いっぱいいるし!


 昔は良かったとか言うのは、もっと人生枯れてからだと思うよ。


 家の事情だってさ、仕事辞めて一年もすれば落ち着いたんだからさ、行けばよかったじゃん。


 それがさ「これも、孫娘のためなんだ……」なんて、背中で言われたら、ほんっと! むっかつく!


 ケリ入れたくなるからさ!!


 ほんと、ウザいっしょ!


「栞のカレーは、いつも美味しいねえ」


 孫に媚びんなよ!


 だいたい、カレーの日に家康のウンコなんて、思い出さすなっちゅーの!

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