第2話
僕は、話せません。
正しくは、声が出せないのかもしれません。
でも、先生はいつも僕に話しかけてくれて、抱きしめてくれたり、頭を撫でてくれたり、キスをしてくれます。
「スゥ。おはよう。あぁ、スゥ。本当に愛おしいよ、私のスゥ。」
先生は、それはそれは愛おしいという眼差しを僕に向けてくれます。
コンコンッ。
ドアを叩く音がしました。
「こんな朝早くから来客か……。」
「先生!おはようございます!」
ドアの向こうから男の人の声がします。
「あぁ!鍵なら開いているよ!入りたまえ!」
「失礼します!おはようございます。先生!」
「君は、本当にいつも元気だな。」
家に入ってきたのは、ひげの生えてお洒落な丸眼鏡をかけた若いスーツ姿の男の人でした。
「先生。今日も忙しいですよ!お昼からは講演会。その前には以前、舞踏会で話した出版社の社長様との対談。今回の対談はそのまま記事にされるとの事。講演会の後もそのまま……。」
「舞踏会だろ?悪いが、対談も講演会も舞踏会も、全て違うタキシードを着たい。」
「もちろんです!かしこまりました!では、どちらのタキシードをお持ちしましょうか?」
「君のセンスに任せるよ。」
スーツの男の人は、先生にそう言われるととても嬉しそうにクローゼットを開けて、タキシードやスーツや、スーツアクセサリーや靴を選んでいました。
先生が少しだけ渋めの表情で小さなキッチンへ向かい、コンロのポッドから珈琲を作って、珈琲を飲んでいます。
すると、またコンコンッとドアが叩かれ、今度は勝手にドアが開き、綺麗なドレスの女の人が入ってきました。
「先生!おはようございます!」
「リザベラ!おはよう。また酒を飲んだのかい?懲りないね。」
リザベラ、と呼ばれた女の人はフラフラしながら先生に抱きつき、そのまま先生にキスしていました。いつも先生が僕にしてくれるキスとは違うキスです。
「おいおい。朝から積極的だね、リザベラ。」
「さみしかったのよ?先生。いつも先生は忙しそう。ならお出かけされちゃう前に先生を捕まえなくちゃ!」
すると、スーツの男性が顔を真っ赤にさせて、ふたりに近づき、咳払いをしました。
「……先生!間もなく家を出ないと間に合いません。……ので、貴方もまたの機会にお願い致します。」
「やだ。可愛い坊やがいる。ねぇ、先生。私、本当にさみしかったの。」
「リザベラは可愛いいな。困った子だ。」
先生はそう言うと男の人と僕がいるのに、そのままリザベラと激しく愛し合い出しました。スーツの人が呆気にとられて見ていると、「君も来るかい?」と、先生に声を掛けられ、リザベラにキスをされて、そのまま三人は“人間”なのに、まるで別の生き物の様に愛し合い出しました。
すると、リザベラが僕を見付けました。
「あっ……。あれ?可愛い。」
「おぉ。リザベラ。よく気が付いたね。“スゥ”だ。」
「スゥ?」
「そう。あれは、スゥ。」
「本当だ。可愛らしい。生きてるんですか?」
「君達……。頼みがある。僕に何かあったら、スゥと一緒に、僕を焼いてくれ。必ず、だ。例え、もしスゥが生きていてもだ。そのまま一緒に焼いてくれ。」
「先生?」
「私はもう長くない。それは君達もわかっていることだろう?」
「しかしっ!」
「頼む!」
「……そうよ。坊や?先生の頼みよ?」
「でもっ……。あ、あ。」
そのまま男の人は、リザベラに馬乗りにされて弄ばれだし、そのリザベラを先生は後ろから愛しだしていた。
美しい様な狂っている世界。
三人は、それぞれの感情をむき出したまま僕を見つめて絡み合っていました。
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