第20話 お見舞い
俺と玲奈はあの後チーフと話し、まだ病院に行ってないと言うと休みやるから今すぐ行ってこい!といわれた。
故に俺は玲奈と共に病院に行き、そこで事件の全てを知った。
俺だけ検査入院することになったのも頷ける。
「…先生」
「ん?なんだ」
紫楓先生は特に玲奈がいない間はずっと側にいてくれている。
俺としては素直に嬉しいが、これは俺が監視されている少なくとも1人にはさせないようになっているということだ。
「俺が受けている検査は俺が紅姫かどうか…強大な力を持っていないかを調べる検査ですよね?」
実際に伝えられているのは俺の身体の検査と普段の通院の検査を一緒にやってもらっている、ということだけだ。
しかし俺も馬鹿ではない。
これくらいのことは分かる。
「…本人である君に嘘をつくわけにはいかないな。…そうだ。君は君ではない誰かの意識で破壊を尽くした。この検査は君自身の潔白のためでもあるんだ」
「…でも俺はまだ死ぬべきでなかった者を殺しました」
麻友の最期を見ることはできなかったが…あの顔には《理解できない》と書いてあった。
理解できないことへの恐怖。
彼女も根底では闇を恐れる普通の人だったということだ。
「何を言っている。あいつらは私が責任を持って助けた。…君は最後の線だけは越えちゃいない」
俺は驚いて顔をあげた。
あの状態から助けた…?一体どうやって?
医者であるからには恐らく回復系の能力者であろうが、とても強い能力だ。
…とりあえずはその能力のおかげで俺は人殺しにはならずには済んだ。
「まあ、君の性格なら松井さんやみなみに聞いて知っている。検査が終わったら単独行動だけは厳禁だが退院できるよう計らおう」
そもそも、この人がいなかったら俺自身助かったのか分からない。
何かと世話になってしまうな…。
ここは一つ切り出してみよう。
「先生、ここからは検査とは関係ないんですが」
「なんだ?」
「色々お世話になってるんでお礼をしたいんです。何か俺にできることはありませんか?」
少し意外そうな顔をした後、いつもの真面目な顔とは違う柔らかい表情に変わった。
この人はスイッチがあるタイプの人だ。
…ということは怒らせない方がいいな。
「そうね…医者としての私なら怪我をしないことが一番のお礼かな」
「…気になる言い方ですね?」
「でも、女としての私なら…たまにはのんびり1日過ごしてみたいなあ」
口調や言い回しまで変わった。
そして、今まで気づかなかったが実は紫楓先生は可愛いということに気づかされた。
いや、キレイな人だとは思っていたが表情一つでここまで印象が変わるものなのだと感心させられるようなほどだ。
「俺で良かったらお相手しますよ?監視って名目もできますし」
「いや、気持ちだけ受け取っておくよ。空き時間はできなさそうだし───」
紫楓先生がいったん言葉を切って病室のドアの方を見た。
「それに夜来くんも空き時間はないでしょ?」
紫楓先生がふふ、と笑った瞬間にガラッと勢い良くドアが開き寮の皆と向井さんがなだれ込んできた。
今日から面会可能という情報をどこから得てきたのか…と思ったがすぐに紺青さんの顔が浮かんできた。
「夜来くん!…身体大丈夫だった?」
千賀さんが代表して尋ねてくれた。
皆の表情から俺を心配してくれているのが分かる。
「結果はまだだけど…俺自身は大丈夫だよ」
「だめ…!ちゃんと、結果が出ないと…心配…」
少し控えめに声を荒げて俺の腕をぎゅっと掴んだのは向井さんだった。
俺達の視線に気づいたのか顔を赤らめて引っ込んでしまった。
「…とりあえず、明日には帰るよ。あまりにも異常な結果が出なければね」
「分かりました、じゃあ明日は夜来くんの分も作ります!」
西深さんがとびっきりの笑顔で嬉しそうに言ってくれた。
確かに1人いないだけで作る分量というのは大分違ってくる。
もしかしたら少しの間作らないだけでも寂しさを感じてくれていたのかもしれない。
「はーるとっ」
今度は空蝉さんか、と思った瞬間。
抱きしめられた。
そのまま耳元でそっと俺に囁いた。
「ぎゅーってするって言ったもんね?…聞こえてたでしょ?」
「……あぁ。誰かさんに睨まれるってのも当たってるけど…」
空蝉さん越しに皆が俺を見ているのが分かる。
誰かさん、じゃなくて全員に睨まれるなんて思ってなかった。
「約束したしっ」
言い訳したものの全く悪びれる様子も無く俺から離れる空蝉さん。
俺の居場所はここにある。
そう感じた。
この生活を壊したくない。
だから、俺は……もう吸血はしない。
公安局では人間と同じ扱いにしてもらえるように頼んでみよう。
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